知っているはずの都市にも、数えきれない時間と記憶が積み重なっている。今、そうした「都市の記憶」を呼び覚ますように、3つの都市型芸術祭「東京ビエンナーレ2025」「千葉国際芸術祭2025」「あいち2025」が開かれている。高密度で複雑な社会構造をもつ都市とそこで生きる人々に、アートがもたらすものとは。
散歩から見えてくる街の新たな表情
東京ビエンナーレ2025
東京ビエンナーレは、東京都の北東部で2年に1度開催されている国際芸術祭。アーティストの中村政人が総合プロデューサーを務め、「ソーシャルダイブ」という言葉を掲げ、大都市・東京に飛び込んで共創する企画を様々に展開している。
3回目の今回は「いっしょに散歩しませんか?」をテーマに、39組のアーティストが参加。日本橋馬喰町の「エトワール海渡 リビング館」、上野の「東叡山 寛永寺」の2つの拠点を中心に、千代田区、中央区、文京区、台東区で2025年12月14日まで開かれている。

「Tokyo Perspective」プロジェクトより、港千尋《URBAN RITUAL /Tokyo2025》。街の風景の一部を切り取ってつなげ、文様を作りだした
問屋街にあるエトワール海渡 リビング館では、使われなくなった建物に多くの作品が展示されている。中でも注目したいのは、「Tokyo Perspective」プロジェクト。畠山直哉、片山真理、鈴木理策、SIDE COREら7組の作家が東京を歩いて撮影した写真や映像が展示されている。作品はデジタルマップでも公開されており、撮影地点に行って作家の視点に立つことも可能。セブンイレブンのマルチコピー機で作品をプリントできる仕組みもユニークだ。

エルケ・ラインフーバー《都市のエステティシャン》
ドイツ出身のエルケ・ラインフーバーは、今回1400組あまりの応募があった海外アーティスト公募プロジェクトで選出され、《都市のエステティシャン》なる作品を出展。白衣姿で日本橋を歩いた彼女は、ひび割れた縁石スロープに着目し、金継ぎによってこれを修復。その記録を展示した。

「スキマプロジェクト」より、片岡純也+岩竹理恵《呼吸する裏路地》。菜箸などを使ったオブジェを日本料理店の店先に置き、路地裏に吹く風を可視化
日本橋の室町・本町エリアを中心とした「スキマプロジェクト」も要注目だ。8組の作家が路地裏などあちこちにある隙間に作品を設置。マップを見ながら探していると、作品ではないものまで作品であるかのように見える瞬間もあったりして、その面白さを味わえるはずだ。

小瀬村真美《風景畫 — 葵の間、東叡山寛永寺》
上野の寛永寺では、普段は公開されていない「葵の間」で、小瀬村真美が一風変わった写真を展示している。かつてこの場で謹慎生活を送った江戸幕府最後の将軍、徳川慶喜が描いた油彩画を、現実の事物を駆使して写真として再現したもので、見る者を虚実のあわいに誘う。
多層的で多面的なメガシティーである東京。そこに 「散歩」として緩やかに入り込むことで、街や人の様々な表情を発見する。そんな視点が、今の東京に新しい息吹をもたらしている。




















































