「グループにおける大規模資金調達のための債券発行手続きは、ほぼ完了し、第1弾の債券発行を行っております。順調に進めば、11月の半ばに発行される見込みで、その額は日本円にして300億円規模となります」──。

 10月31日、投資家に一斉配信したメールで資金調達の進捗を報告したのは、共生バンクグループ代表の栁瀨健一氏。そのわずか20日前、大阪府と東京都の行政指導を受けて、「第三者譲渡契約」と称する取引提案の撤回に追い込まれたばかりだが、改めて「みんなで大家さん」事業への執着を示している。

「GATEWAY NARITA」の建設予定地。成田空港近くで進む開発プロジェクトで、シリーズ成田の各号ファンドはその用地を投資対象とする(2025年8月撮影)
「GATEWAY NARITA」の建設予定地。成田空港近くで進む開発プロジェクトで、シリーズ成田の各号ファンドはその用地を投資対象とする(2025年8月撮影)
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 だが、その台所は火の車だ。7月末に主力の「シリーズ成田」で分配金の支払いが停止したのを皮切りに、9月以降は他の「大家さん」商品にもトラブルが拡大。日経不動産マーケット情報が把握した範囲では、現行のファンド39本のうち、実に34本で分配金が止まっている。なかには、すでに契約上の元本償還期限を過ぎた商品も出ており、年金生活者を中心とする、約4万人の投資家の動揺は収まる気配がない。

 出資金の返還を求める動きも本格化している。被害対策弁護団を組織するリンク総合法律事務所によると、11月5日に提訴に踏み切った第1次集団訴訟には1191人の投資家が参加。請求額は114億円あまりで、1人あたり約1000万円となる。弁護団では第2次訴訟の準備も進めており、11月18日以降に投資家向けの説明会を開催する方針だ。

 同事務所の小幡歩弁護士によると、過去には出資者全体のうち2割程度が集団訴訟に参加するケースが多かったという。「みんなで大家さん」に当てはめれば、最終的な参加人数は8000人と、同様の事例において最大規模の集団訴訟に発展する可能性もある。

明かされた原価表の存在

2023年3月付の原価表。「売上純利益のうち、現時点での達成額は1000億円です」とあり、転売益を業績指標としていたことをうかがわせる
2023年3月付の原価表。「売上純利益のうち、現時点での達成額は1000億円です」とあり、転売益を業績指標としていたことをうかがわせる
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 共生バンクの現状をよく知る関係者の証言によると、すでに事業者の手元に現預金はほとんど残っておらず、総額600億円の価値があると主張する物件の売却も進んでいない状況。2000億円を超える投資マネーはどこに消えたのか。

 謎の解明に向けた鍵の一つになり得るのが、ここに示した成田商品の原価表である。日経不動産マーケット情報は、共生バンクグループが大阪府・東京都を訴えた、一連の訴訟の記録からその存在を把握。行政への情報公開請求や計画地全域にわたる登記の確認、徹底した現地調査を併用して、内容を詳細に分析してきた。その結果を下の図表に示す。

🌑シリーズ成田の各号ファンド資産所在地と、評価額の原価に対する倍率
【注】日経不動産マーケット情報が入手した原価表および登記簿などを参考に作成。取得原価はファンド別に整理した上で、一部を面積按分により算出した。16号ファンドの一部の区画については当初、開発許可地域外の土地を誤って組み入れており、その後の対応での不備も踏まえて2024年6月の行政処分のきっかけを作った
【注】日経不動産マーケット情報が入手した原価表および登記簿などを参考に作成。取得原価はファンド別に整理した上で、一部を面積按分により算出した。16号ファンドの一部の区画については当初、開発許可地域外の土地を誤って組み入れており、その後の対応での不備も踏まえて2024年6月の行政処分のきっかけを作った
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🌑各号ファンドの取引詳細日経不動産マーケット情報作成。取得単価は万円/m2
評価額 取得原価 面積(m2) 取得単価 倍率
1 25億3500万円 2036万円 1,484 1.4 124
2 28億6500万円 2298万円 1,675 1.4 125
3 46億2500万円 3712万円 2,706 1.4 125
4 46億1500万円 3704万円 2,700 1.4 125
5 32億5500万円 2611万円 1,903 1.4 125
6 57億3500万円 4600万円 3,353 1.4 125
7 39億円 3128万円 2,280 1.4 125
8 56億5500万円 4537万円 3,307 1.4 125
9 63億4000万円 5083万円 3,705 1.4 125
10 65億9000万円 5283万円 3,851 1.4 125
11 111億7000万円 2億1704万円 6,528 3.3 51
12 190億1500万円 2億9251万円 11,116 2.6 65
13 304億2000万円 5億798万円 17,778 2.9 60
14 317億1500万円 5億3385万円 18,536 2.9 59
15 348億7500万円 (5億4000万円) 20,383 2.6 65
16 363億2500万円 (6億2000万円) 21,233 2.9 59
17 185億1000万円 (3億1000万円) 10,820 2.9 60
18 192億1000万円 (2億1000万円) 11,229 1.9 91
総額 2473億5500万円 (36億5000万円) 144,589 2.5 68

【注】日経不動産マーケット情報が入手した原価表および登記簿などを参考に作成。取得原価はファンド別に整理した上で、一部を面積按分により算出した。シリーズ成田15〜18号の土地取得原価については、地番ごとの価格を個別に推定した上で、合計した数値をカッコ書きで記した。

 共生バンクは、2019年に成田市から地区計画決定、次いで開発許可を取得。この時点ですでに、ゴルフ場関連企業の買収を通してまとまった面積の土地を確保しており、十数人の地権者から残りの区画の買収を進めていた。

 例えば、1484m2の山林(上の地図中央「1」)は19年3月、当時の地権者から約2036万円で取得。翌20年11月の「シリーズ成田1号」発売の際、25億3500万円で対象資産に組み入れた。当初、1m2あたり1万4000円弱だった土地単価は約171万円に。一連の取引を経て、土地の評価額は124倍に跳ね上がった。

 なお、「シリーズ成田」は24年2月発売の18号まで存在するが、上記の原価表に掲載されているのは、文書の時点で運用が始まっていた14号まで。日経不動産マーケット情報は15号以降の土地の価格についても、登記簿で確認した取引日付や売り主の属性などを手がかりに可能な限りの推定を試みている。

 ウェブサイトなどで公開されている各ファンドの土地評価額の合計額、2473億円あまりに対して、取得原価の総額は36億5000万円程度と推定した。原価の大小に関わらず、ファンド組み入れ時点の土地単価は1m2あたり171万円程度で、倍率は50〜125倍に達したことが確認できる。

投資家の資金はファンド外に流出

 土地転売の過程で共生バンクが駆使したのが、一般に三為(さんため、第三者の為にする契約)と呼ばれる取引スキームだ(下の図)。

 例えばA(売り主)、B(中間業者)、C(買い主)が土地を同じタイミングで取引する場合、当事者間で一定の特約を結ぶことにより、登記上はA→Cに直接不動産が移転したことにする。いわば2件の取引を1件の登記にまとめることで、登記事務手数料や印紙税などを節約できる利点がある一方で、取引の透明性を損ねているとの指摘もある。

🌑成田プロジェクトでの“三為取引”
*1 仮払金などの名目でインベストバンク社からSPCへ支払い。賃料、分配金の原資になっていた疑い<br>  *2 近年の商品では、みんなで大家さん販売を共同売り主とすることで差益の一部を同社に移転している<br>  *3 成田商品との関連は特定できないが、インベストファンド社への900億円強の資金還流が確認される<br>  *4 出資残高は25年3月末時点の実績。募集総額は1932億円で土地評価額の8割に設定<br>
*1 仮払金などの名目でインベストバンク社からSPCへ支払い。賃料、分配金の原資になっていた疑い
*2 近年の商品では、みんなで大家さん販売を共同売り主とすることで差益の一部を同社に移転している
*3 成田商品との関連は特定できないが、インベストファンド社への900億円強の資金還流が確認される
*4 出資残高は25年3月末時点の実績。募集総額は1932億円で土地評価額の8割に設定
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取引の流れ
(1)共生バンクのSPCである成田ゲートウェイプロジェクト○号(A)が元の地権者から土地を取得
(2)資金募集のタイミングにあわせ、SPC(A)とインベストバンク社(B)との間で土地売買契約を結ぶ
(3)同時に、インベストバンク社(B)とインベストファンド社(C)との間で土地売却契約を結ぶ
(4)SPC(A)からインベストファンド社(C)に土地を直接登記移転
(5)SPC(A)がインベストファンド社(C)から土地を賃借(セール&リースバック)

【注】シリーズ成田14号土地売買契約書、都市綜研インベストファンドの令和7年3月期事業報告書などを参考に日経不動産マーケット情報が作成。金額は原則としてシリーズ成田1〜18号の総額を示す。土地仕入れ価格、転売益などは日経不動産マーケット情報が推定

 日経不動産マーケット情報は、行政訴訟記録に証拠として添付された土地売買契約書を閲覧し、三為取引を具体的に指示する特約を確認している。一方、投資家が手にする重要事項説明書では、一連の売買にSPCが関わっていることなど、複雑な取引スキームの実態は明かされていない。

 シリーズ成田1〜18号に投じられた出資金は3月末時点で1557億円。少なくともその95%程度は、投資家の知らないところで、ファンド組成と同時にグループ会社に流出したとみられる。貸借対照表上の固定資産評価としては、8割の優先出資(募集総額)と2割の劣後出資を合わせて、2473億円になる。

 大阪府は21年2月以降、不動産特定共同事業法上の営業許可を持つ都市綜研インベストファンドに繰り返し質問。「なぜ現土地所有者、もしくは共生バンクから直接、インベストファンド社が土地を買わないのか。グループ内の現物売買を経由するのか」などと疑問を投げかけた。

 23年3月、栁瀨氏を府庁に呼び出した際には、土地評価が水増しされている懸念を指摘した上で、不特法の「減損の兆候」、つまり会計上の損失として認識される可能性はないかともただしている。栁瀨氏はこれに激しく反発。「今ここで募集を止めると経営が立ちゆかず、成田プロジェクトそのものを潰すことになる。過去に出資している人たちをどう救済するのか」などと抗弁した。

 記事冒頭に挙げた原価表はこのやりとりに前後して、大阪府の強い要請に従って提出されたもののようだ。

 最近では25年9月、グループのみんなで大家さん販売を監督する東京都が「出資の価額は年平均賃貸利益を7%で割り戻した額とされているが、年平均賃貸利益はグループ会社間の取引であるからその賃料は自由に設定できる(中略)成田ゲートウェイプロジェクト社等には賃料の支払いに充てるべき収入や、賃料を支払い続ける資産もない」と裁判の中で指摘している。

「破綻必至商法」として国会論議に

 共生バンクグループは、「第二の年金」や「預金感覚で始められる」といった宣伝文句で、高齢者を中心とした老後資金に不安を抱える投資家から出資を募ってきた。「シリーズ成田」の投資対象であるゲートウェイ成田開発をめぐっては、11月30日、土地造成にかかる成田市の開発許可と、用地の4割を保有する成田国際空港株式会社(NAA)による借地の期限が同時に到来する。11月11日の衆議院予算委員会では「みんなで大家さん」の具体名を挙げての論戦が行われた。

 緒方林太郎議員(無所属・有志の会)が豊田商事や安愚楽牧場、ジャパンライフなどとの手法の類似を指摘。それぞれ商材や根拠法は異なるものの、一括して「破綻必至商法」と捉えて対応する必要性を訴えると、高市早苗首相は「分野横断的な規制や有効な被害回復制度がないことは事実。さまざまな悪質商法が出てきている中、より有効な解決方法がないか、消費者庁を中心に検証させる」と明言した。

 不動産特定共同事業法を共同で所管する国土交通省、金融庁も含めた、関係機関の判断が問われている。

本間 純