参政党ブームの裏に“推しロス”保守層の大移動あり
続編『トンデモな参政党がなぜ支持されたのか~誰も気づいていない本当の理由』をかきました。エンタメ業界の常識は政治の非常識?!(25年7月22日)
安倍、玉木を経て参政党へ―「ビリーバー保守」の正体とは
▼はじめに
参政党が、きたる2025年7月20日投開票の第27回参議院選挙で急伸する見込みです。報道によれば比例だけで10議席以上。選挙区を合わせると15議席は行くとのことです。
党首自ら、「仕事してくれる議員なら不倫しててもオッケー」などと公言したり、共同代表が「小麦は毒」と言っているにも関わらず、党首がニッコニコで巨大ピザを食べていたりと、コントのような政党が二桁議席をとるということに、頭を抱えている人も多いでしょう。
しかし、このコラムを最後まで読めば、そんな悲観の気持ちが晴れるかもしれません。映画批評家ならではの斬新な「参政党ブームの分析」と「その後に訪れる未来」の予想です。安心してお読みください。
▼世間一般での「参政党急伸の理由」の間違い
参政党急伸は、じつはここ1か月半という短いものなので、永田町の専門家や各メディアも分析が追い付いていません。ようやく、少しずつ出てきたといったところです。
それによると、参政党は結党以来、無農薬オーガニックやスピリチュアル系自己啓発を共通の話題に、子育て世代の女性層などを軸に組織を築いていったということです。
その草の根の力と集金力が150名もの地方議員の誕生につながり、この大ブームになったという分析です。
おおむね間違っていないと思いますが、これだけでは「この1か月半の急伸」の理由が説明できません。
先日の都議選における急伸および参院選での二桁議席獲得見込みは、それとは違った力学が働いています。説明します。
▼結論:急伸の理由は「ジプシービリーバー保守」だった
結論からいえば、この1か月半、参政党が急伸した原動力は、かつて安倍晋三時代に誕生した「ビリーバー保守」が大移動したというものです。
「ビリーバー保守」とは、政治家や政党を「支持」でなく「信奉」する一部保守派のこと。推し活に例えられることも多いですが、それよりも信仰度合いが強く、むしろ新興宗教の信者に近い性質を持ちます。ほかにいい用語がないので私が便宜上やむなく名付けたものです。
「ビリーバー保守」か普通の保守派かの見分け方は、ビリーバーたちは「絶対に対象を批判しない」「むしろ批判するものを攻撃する」という点があります。
自分の「推し政党」「推し政治家」に対し、誰かが批判すると、どうやら自分の人生を否定されたと思うようで、「推し」から頼まれてもいないのに推しを守るために全力で擁護しはじめます。
それだけならまだしも、批判者へ(時には集団で)人格攻撃を含む猛烈な反論を始めます。
ようするに、一言でいうと、政治家との距離感がバグっている人たちです。
▼政治家との距離感がバグっているビリーバーたち
本来支持政党や政治家などというものは、「やわらかいうんこより硬いうんこのほうがましだからこっちにするか」程度の距離感が適切ですし、まともな大人ならその程度にしか入れ込みません。
それ以上に深くかかわりたい場合は、選挙事務所にボランティアに行くとか、スタッフになるのが普通です。これなら政治活動の範疇です。
しかしビリーバーたちは、党員資格を持っていればまだマシな方で、ほとんどは単なるいち有権者の身でありながら、政治家をヒーローのようにあがめ、自分と同一視し「俺は信じる!」などと極端に入れ込んでしまいます。
いやいや、政治家や政党は「しょうがなく選ぶ」ものであって、およそ「信じる」ようなものではないんですが……笑
そんなわけでビリーバー保守は、信じる「推し政治家」がTPPを推進しても、消費税を上げても、移民を二倍に増やしても、手取り(実質賃金)を激減させても幻滅しません。
それどころか、「俺は信じる!」「ディープステート(DS=陰謀論者の間で語られる世界を牛耳る存在)と戦ってくれている!」「グローバリズムに抵抗してくれているんだ」などとアクロバティック擁護にすがりながら、必死に信じ続けるのです。支持者ではなく、「ビリーバー」たるゆえんです。
まさに、教育の失敗です。
▼ビリーバー保守は何人いるのか
さて、この疑問に答えるためには、具体的数字を出す必要があります。ここからはすべて独自の推論であり、あくまで「おおよそ」のものだとご理解ください。学術論文ではないので、エンタメ気分で気軽に読んでいただければと思います。
さて、ビリーバー保守は安倍晋三首相の時代に生まれたので、まずは「安倍晋三氏が独自に獲得したファン」の数を計算する必要があります。
そこで、直近の自民党政権(麻生政権時代)と安倍政権の最低支持率の違いから算出してみましょう。
麻生政権最低支持率(09年2月)11%からの推定有権者数=約1140万人
これを、ざっくり旧来の自民党岩盤支持層と考えます。大企業や経団連や宗教団体、地元選挙区の利権関係者などが中心と思われます。
安倍政権最低支持率(17年7月)26%からの推定有権者数=約2760万人
さて、この二つの差分1620万人が「安倍政権になってからの岩盤支持層」です。ここに「ビリーバー保守」が含まれると考えられます。
その内訳は、あくまで概算ですが、
日本会議、統一教会、その他団体など組織系=重複を考慮して最大50万人
ネット右翼(樋口直人准教授による調査を参考)↑との重複を考慮して100万人
ややライトな支持層=保守系雑誌や動画視聴数から推定=420万人
合計 最大でおよそ570万人
この570万人こそが「ビリーバー保守」の最大数だと推定します。もちろん、安倍政権当時の推定数なので、現在は多少増えているかもしれませんし、減っているかもしれません。
この570万人はYouTuberなど怪しげな情報源をうのみにしがちで、陰謀論に弱く、情報リテラシーに乏しい層です。
しかし、その行動力と士気の高さはハンパではなく、特にネット上の世論形成力は実人数の数倍から数十倍くらいのパワーがあると考えるべきです。テルモピュライの戦いにおける300人のスパルタ兵のような、一騎当千のネット戦士といってよいでしょう。
このスリーハンドレッド戦士たちが、安倍晋三氏の殺害事件のあと、行き場を失ってしまいます。
▼安倍晋三死去と岸田文雄氏による安倍派残党の粛清
あまりに突然の死だったことと、岸田文雄首相(当時)が歴史に残る電光石火の「ビリーバー騙し」を行ったことから、安倍派の一般支持者たちも、当初は岸田氏が安倍氏の味方だと勘違いをしていました。そのため、しばらくは自民党支持を続けました。
このあたりの詳しい事情は以下に書きました
安倍晋三銃撃事件と国葬報道を映画批評家が本気で分析したら、岸田文雄首相による謀略だと判明してしまった件
▼岸田氏によって勢力をそがれた安倍派議員たち
岸田氏は、自分の力で総裁選を勝たせた石破総理を前面に立てて(砕氷船として)、安倍派を削っていきました。
裏金問題を騒ぎ立てて争点化し、変えるべき家(派閥)を解散させ、衆院選で安倍派議員の多くを公認せずに見捨て、気づけば多くの安倍派議員を「狩って」行きました。
ちなみに安倍派は23年4月には最大100人いましたが、24年10月には59人(参院37人)にまで激減しました。なんと40パーセントオフ。廃棄寸前のスーパーの総菜なみに、削られ、狩られていったのです。
反安倍の市民団体や政治運動、SNS、野党がたばになってかかってもびくともしなかった安倍派を、岸田氏はひとりで41人も粛清し、壊滅状態にしたのです。まさに岸田氏は政界のジョン・ウィック、範馬勇次郎です。おそろしすぎる男です。
▼第一次ビリーバー移動
石破首相の背後に控える岸田氏が映画「イコライザー」のように、対安倍復讐戦を戦っていたことに気づいたかはわかりませんが、ビリーバー保守たちもさすがに「ここは自分たちの居場所じゃない」と痛感したことでしょう。
高市早苗氏や小林鷹之氏(コバホーク)ら「安倍氏の後継」と言われる議員に期待して居残っていた彼らも、「だからといって大嫌いな石破を利する投票はしたくない!」と考え、24年10月の衆議院選挙ではとうとう自民党を見限ることになりました。
国民民主党の玉木雄一郎氏が「103万円の壁!」という、彼らでもわかりやすいキャッチフレーズで登場し、かつSNS等でビリーバー好みの強気ムーブ(対立する相手を名指しして厳しく批判するなど)を演じたため、ここに「第一次ビリーバー大移動」が起きたのです。
国民民主党の議席は7から28へ激増。比例得票数はその前の衆院選と比べて約360万票増えました。
思い出してください。ビリーバー保守の最大数は570万。この選挙で国民民主が増やした360万票のうち、多くは大移動した彼ら自身、および彼らの猛烈な活動によりゲットした票が含まれると私は見ています。
▼25年5月、化けの皮がはがれた玉木氏
ところが安倍晋三氏ほどの大役者でなかった玉木氏は、すぐに化けの皮が剥がれます。
グラドルに弱いという弱点があったのも痛いところですが、何よりもともと大企業労組が支持母体のため、(保守派が求める)消費税廃止などできるわけがない政党であることがバレてしまったのがまずかった。
そして致命傷となったのが、山尾志桜里氏の公認問題です。
もともとの国民民主党支持者ならば、かつて所属していた議員を再び公認する話であり、それほど騒ぐ話ではないはずですが、なぜあんなにもクレームが巻き起こったのか。
それこそ、直近で増えた360万票(新興支持者)の多くが「ビリーバー保守」だったからでしょう。
「ビリーバー保守」はもともと「安倍ちゃん親衛隊」なのであり、反安倍の山尾志桜里氏は不倶戴天の敵。よりにもよってそれを公認しようとするなど、彼らにとっては「断じて許せない」話なのです。
玉木氏は、この360万票の増加分の分析(誰が入れてくれたのか)がまったくできていなかったというほかありません。
こうしてビリーバー保守はふたたび「推し」を失い、一部は自民党(高市氏ら)に回帰し、それ以外は「ジプシービリーバー」となりました。
2025年5月後半の話です(この数字が極めて重要!)。
▼第二次ビリーバー移動
2025年5月後半という日付がなぜ重要か。
もうわかりますよね。そこからの1か月半こそが、参政党が急伸した時期とぴたり重なるからですね。
つまりビリーバー保守の多くが玉木氏を見限り、「参政党」を次の「推し」に選び、第二次大移動を開始したということです。
ここ1か月半で急増した参政党の支持者たちには、ネットにおける攻撃性、妄信性、他者の批判を許さぬ排他性、異常なまでの行動量といった点で多くが「ビリーバー保守」の特徴と合致します。
つまり現在の参政党の支持層とは、従来の支持層である「オカルトスピリチュアル自己啓発系オーガニック女子」の上に「ビリーバー保守」がのっかっている、いびつな二層構造ということなのです。
この特殊性を理解することが極めて重要です。
▼参政党の当選は5議席が限界だった
では、「具体的に何人のビリーバー保守が参政党に移動したのか?」これを調べていきましょう。
じつは私、偶然にも、2025年5月後半ごろに神谷氏から重要な話を聞いたという情報を(ある人物から)得ることができたのです。
それによると神谷氏は「参院選では5議席を目指す」と言っていたというのです。
なななななんと! 2025年5月後半ごろといえばまだ第二次ビリーバー大移動が起きる直前。参政党が謎のブームになる直前のことです。
5議席といえばおよそ支持者数500万です。そして最新の報道、選挙情勢によると、「参政党の比例区獲得は10議席」といわれています。
比例10議席はおよそ1000万票。その差は500万。つまり500万人がこの1か月半で増えた参政党支持者の実数ということです。
500万票の増加というのは、個人的には実に納得がいく数字です。なぜならビリーバー保守は最大570万。いったん国民民主党に移動し、そこから離れた「ジプシービリーバー」だけでも数百万人、おそらく200万人くらいはいるだろうと私は見ています。
とくに彼ら「ジプシービリーバー」は、安倍晋三氏という「推しロス」で心がズタボロになっていたところを、さらに「新・推し」玉木氏に裏切られたばかりで、心がすさまじく傷ついているわけです。
その反動により、かつてない戦闘力で戦い始めていることが予想できます。繰り返しますが彼らは<300>スリーハンドレッドのスパルタ兵です。合計500万くらいの支持者獲得など、本気になれば造作もないことです。
正直、彼らには同情する部分もあります。ビリーバーたちは悪党というわけではなく、彼らなりに日本をよくしたいと思っているわけです。反「推し」=反安倍晋三の象徴である石破氏が政権を握る現状は、彼らにとっては感情的に受け入れがたく、それを攻撃してくれる参政党にキューン!と惚れてしまった。彼らが参政党に入れ込んでいるのは、そうした悲しい背景があるわけです。
▼参政党はスピリチュアルオカルト路線を減らすだろう
ここまで書いた私の仮説「ジプシービリーバー仮説」が正しければ、5議席を覚悟していた参政党が10~15議席を獲得できるのは、ジプシービリーバー保守のおかげとなります。
神谷氏はこのことに気付いているでしょうか。玉木氏の失敗を見ていますから、おそらく気づくでしょう。
とすると、頭打ち(せいぜい5議席が限界)だった神谷氏の組織づくり、つまりオカルトスピリチュアルオーガニック路線は、その非科学トンデモ性から、今後は徐々に主張をひそめていくでしょう。
その代わりに、かつての安倍政権のコピーのような性質を強めていくと思われます。それこそが、一騎当千の570万の「ビリーバー保守」をつなぎとめる最善手だからです。
しかもこれは自民党内を徹底的に『ハウスクリーニング浄化中』の岸田文雄氏にとっても望むところです。彼は安倍派に巣くう「ビリーバー保守」のカルト性に早くから気づき、それを排除しようとしていたきらいがあります。
▼まとめ:これは悪いことではない 希望の未来
本来「ビリーバー保守」のようなカルト化しやすい支持層が政治にかかわるのはいいことではありません。
とくに、政権与党に関わるのは危険極まりないことであり、絶対に防がねばなりません。
なぜか?
カルトは失敗を認めず、批判を許さないからです。
経済政策を失敗し、外交を失敗しても認めない。批判されても耳を貸さない。公文書は改ざん破棄する。それどころか政権に近いとされる検察官の定年延長を画策し、批判するマスメディアは「停波」をちらつかせて脅す。
普通の支持者ならばドン引きして離れる所業ですが、カルト信者は絶対に離れません。
このように、権力者がどんなに間違ったことをしても支持者が離れないと(=カルト化)、もはやその権力者を合法的(選挙)に交代させることは不可能に近くなります。
すると最後にはどうなるか?
合法でダメなら違法(銃)で……となるのです。現実を見てください。日本でも、アメリカでもそうなりましたよね?
だからこそ、カルトは政権に近づけては絶対にいけないのです。
岸田氏はそれに気づいているのかいないのか、わかりませんが、結果的に彼の捨て身の行動により、自民党から多くの「ビリーバー保守」が排除されました。
これは本当に素晴らしいことです。岸田氏最大の功績だと私は思っています。
生き残ったもと安倍派の議員たちも、かつての杉田水脈氏のような、ビリーバー向けムーブをかます必要はもう無いのだと知るべきです。そのようなクソムーブをありがたがる「ビリーバー保守」はもうあなたの元にはいません。その多くは参政党に行ってしまいました。
ですから、お願いですから、今後はごく穏健な、当たり前の保守政治家として真面目に仕事に取り組んでください。
他者を排除せず、思想の違うものを攻撃せず、落としどころを粘り強く探し続ける──。そんな、政治家という職業本来の仕事を全うしてください。
▼来るべき選挙後の未来
日本の政治シーンにおける最も危険な「ビリーバー保守」の隔離先として参政党があることは、それ以外のすべての日本人にとって、ベストではないにしろベターな状況になりうると私は期待します。
なぜならば、「ビリーバー保守」が自民党に巣くった場合、最大100人ものエセ保守議員を生み出し維持する力があるからです。一方、現在のように参政党に隔離されている限り、せいぜい10から15人で済むわけです。しかも野党議員です。
参政党は、ちょっと調べる能力のある人ならば、とても政権担当能力がある政党ではないことがわかります。すくなくとも彼らが掲げる『新しい憲法案(創憲案)』のデタラメ具合をみれば、普通の人ならとても投票する気にはなれないでしょう。面倒ならあれをAIに放り込んで、「忖度なしに公平なAIとしてどう評価するか?」と聞いてみればいいです。
参政党は、万年野党そして「ビリーバー保守」に希望を与え続ける隔離先兼カウンセラーとして、永遠に政権の外から「消費税廃止」くらいを叫んでくれればいいと思います。財務省が提案する現在の経済政策に、対立軸があることを国民に知らせることは悪いことではありませんので。
国のかじ取りは、残りの建設的議論ができる政党、政治家でやればいいことです。
今は過渡期なので、選挙後もしばらく石破政権が続くでしょう。彼の政策の多くは支持できるものではないですが、しょせん選挙は「マシなウンコで我慢」するもの。徐々に良くするほかはありません。
▼政権与党の皆様へ
最後に、政権与党の皆様には、くれぐれも参政党が「日本でもっとも取扱注意な人たち」の隔離先として機能している事実を忘れることのないようにしてもらいたいです。
まちがっても「うちもあの路線を目指さなきゃ」などと思ってはいけません。
それではせっかく岸田文雄氏がやっている、自民党ハウスクリーニング浄化作戦が無駄になってしまいます。
繰り返しますが、高市氏や小林氏、その他安倍チルドレンのみなさまには、くれぐれも今後は過激路線は参政党に任せて、まっとうな穏健保守を目指していただきたい。
決して分断をあおらず、おだやかな話し合いで、日本を良くしていただきたい。そのように思っています。
■参政党分析シリーズ
第一弾『参政党ブームの裏に“推しロス”保守層の大移動あり』(本コラム)
第二弾『トンデモな参政党がなぜ支持されたのか~誰も気づいていない本当の理由』
第三弾『参政党勝利が、石破下ろしと『高市早苗総裁』につながらない件』
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