日本が誇るアニメ産業の「構造的問題」
日本のアニメ産業が「世界で戦える基幹産業」になるために本当に必要なこととは何か――。この問いに向き合うシンポジウムが10月29日、情報法制研究所(JILIS)のコロキウムとして開催されました。ゲストとして登壇したのは、シンエイ動画顧問で日本動画協会理事の入江武彦さん。パネルでは新潟大学の鈴木正朝教授と弁護士の板倉陽一郎先生、そして本稿筆者の山本一郎で「アニメ制作業界の今後」をどうしようかと議論したわけであります。
我が国のアニメ産業と言えば、ユーザー支払ベースで3兆3465億円の市場規模(23年;推計、日本動画協会「アニメ産業レポート2024」)に達し、うち約半分の1兆7222億円を海外市場が占めています。あんまり知られてないんですが、実は販売契約におけるアメリカなど北米地域は一割程度で、半分以上は中国や東南アジアの皆さんなんですよね。知ってた?
で、輸出金額という意味では実にデカいこともあって、調子に乗った政府は2024年にコンテンツ産業を基幹産業と位置づけ、自動車に次ぐ輸出産業としての期待を寄せています。いやいやいやいやちょっと待てよ。物事には段取りとか順番というものが……なんか自民党知的財産戦略調査会から「アニメ・漫画産業への支援4倍に 政府に1000億円規模を要望」(時事通信、2025年11月6日)とか出ちゃってるし。当然のことながら、アニメ産業のこの華々しい数字の裏側には、深刻な構造的問題が山積しているのです。
作品の約7割が「赤字」という現実
業界的には、いままでテレビ業界を頂点とした発注形態で常態化していた「口約束」での構造から、公正取引委員会らが求めるような取引の適正化を進め、権利者や制作者にも利益還元が然るべき形でできるような業界環境を整備していくことが必要だという話になります。やはり時代の流れに合わせていろいろ改善してけってことですね。
そのためにも、視聴するお客さまとのエンドポイントにあたる配信会社や企画元・プロデュース担当会社だけでなく、適切な形で制作会社に落ちるお金が増える必要があります。それゆえ、まずは製作委員会の設定する制作費(制作会社に落ちる)が増えることがいちばんの近道で、それが達成できれば制作現場への還元も可能になるという点でした。
そのうえで、制作委員会に直接制作会社が出資して得られる収益の一部を再生産や待遇改善に回せると理想なのですが、残念なことに商業アニメ作品というのは必ずしも全部が黒字になるわけではない。いや、下手すると7割ぐらいが最終帳尻でも赤字になることを考えると「アニメーターなど現場の制作者に還元させるには、やっぱり制作費そのものを上げていかないとお金が回らないでしょう」というのが現実なのではないか、という話になるわけです。

