レガシーと生成AIの連携により
3カ月で1000時間を削減
FIXER
代表取締役社長
松岡 清一氏
2009年の創業以来、FIXERはクラウド構築に強みを発揮してきた。現在は自社開発の生成AIプラットフォーム「GaiXer」に注力している。GaiXerの特徴は、パブリッククラウド上でも他社からアクセスできない自社専用の区画でLLM(大規模言語モデル)を動かせる点にある。この専用区画により、安全なアクセスを可能にし、オンプレのレガシーシステムと生成AIの接続に成功した。
FIXER
代表取締役社長
松岡 清一氏
FIXERの松岡氏は「多くの企業や自治体ではセキュリティや法規制の観点からオンプレ環境を維持していますが、生成AIとのシームレスな連携が課題になっています。この壁を取り払い、オンプレでもAIエージェントを利用できるのがGaiXerです」と説明する。
例えば、藤田医科大学病院ではGaiXerの技術を生かし、退院時サマリー作成支援システムを実用化し、3カ月で1000時間の業務時間削減をもたらしたという。松岡氏は「GaiXerによってレガシー資産を生かした全体最適のDXを実現できます。深刻なIT人材不足を解決するためにも生成AIを活用してほしい」とエールを送った。
分科会Discussion Report
トップの方針と全社的な実践がマインドセットを変える
FIXERの分科会にはISENSE、カブ&ピース、鴻池運輸の最高情報責任者(CIO)経験者が参加。それぞれが「AI活用は必須の手段」と訴え、白熱した議論を交わした。ファシリテーターは日経BP AI・データラボ所長の中田敦。
左から、日経BPの中田敦、鴻池運輸の佐藤雅哉氏、FIXERの松岡清一氏、ISENSEの岡田章二氏、カブ&ピースの久保田竜弥氏
まずは人の意識変革が重要
“できない理由”を払拭せよ
現場でITをけん引する立場から、AI活用の可能性をお聞かせください。
岡田
大事なのはまず社員が使ってみて「どんなことができるのか」を体感し、それを組織全体に広げていくこと。そこから自然に道具として定着していく流れが理想です。
日本のIT部門の実態は保守運用管理が53%、人事や教育が30%、業務とシステム開発は20%程度にとどまっています。しかし保守運用管理の50%はAIで代替できるはずです。まずはIT部門がAIを使って自分たちの仕事を楽にすればいい。そうすれば他部署にも「AIでやればもっと楽になりますよ」と提案できる。保守を10%程度に減らせるようなAI活用こそ、日本を良くする第一歩だと思います。
松岡
我々のGaiXerは、パブリッククラウドにある生成AIをセキュアに提供しています。これによりクラウドとオンプレを安全に接続できるのが特徴です。
愛知県の藤田医科大学病院では、GaiXerによって医師が作成する退院時サマリー作成支援システムをクラウド上で構築しました。この仕組みによって医師が手入力していた作業が不要になり、PCに向かう時間を大幅に削減できました。まさにレガシーなオンプレに対しても生成AIを接続できる事例です。
佐藤
弊社では昨年12月に生成AI活用プロジェクトを立ち上げ、若手メンバーを集めて取り組みを始めました。今期は「全社で使える生成AI基盤の提供」と「各業務でのユースケースをクイックウィンで積み上げる」の2本柱で進めていますが、前者の生成AI基盤構築はうまく進んでいないところがあります。誰もが快適にセキュアに生成AIを使う環境を用意したいのですが、満足いく仕組みができず、全社への提供が遅れています。一方で、後者は既に事例が出始めていて、いくつか効率化につながっているケースもあります。この事例を機会にまた社内で引き合いが出てくるという良い循環が出来つつあります。
久保田
結局のところ、進まない要因は圧倒的に「人」だと思います。「ベンダーロックインが怖い」「クラウドにデータを上げるのが怖い」などと“できない理由”を挙げますが、正しく仕組みを理解できていればとても便利に使えるものなのです。ですから人の意識を変えるしかない。本当にそれに尽きるなと思っています。
AIは人間らしく価値のある
働き方に移行する手段
日経BPの調査でも経営者のスタンスによって活用の濃淡がはっきりと現れました。やはり上層部がAIにかじを切ることが大切でしょうか。
岡田
そうだと思います。受け身の仕事はAIがほとんど担うようになり、残るのは能動的な仕事だけになるでしょう。人間にはアイデアを発想し、AIが出した結果を承認・チューニングする役割が求められています。
これからはAIを“人間らしく価値のある働き方”に移行する手段として捉えるべきです。だからこそ経営者は社員のためにも本気で取り組む段階に来ている。経営者自身が積極的に方向性を示すことが重要です。
久保田
私は「行間を読む力」が重視されると思っています。なぜなら、発注者がこれまで以上に曖昧な言葉で依頼することが増えると思われるからです。額面通りに受け取ってAIにアウトプットさせたら、的外れなものが多くなるに違いない。まずは業務を深く理解して本質を見極めた上でAIを活用し、根本から改革する提案をしていくことが鍵になります。そうした人材を育てることも大きなテーマになっていくでしょうね。
佐藤
生成AIの登場でDifyやMCPといった新しい仕組みが次々に出てきたように、技術面については心配していません。しかし、人に関わる課題は非常に難しい。特定の人だけが生成AIを使っても、企業全体の活性化にはつながりません。全社員がそれぞれに活用していくことでこそ、組織が活性化していくのだと感じています。そのためにも、AI活用を全社に広げていく取り組みを続けていきたいと思います。
松岡
皆さんに共通しているのは、AIは単なる技術ではなく、この国を豊かにするための道具だという認識です。日経BPが掲げる「AIリーダーズ」という枠組みも、その方向性を示しているのだと思います。「AIを活用しなければ企業や社会の存続すら難しい」、そうした結論に至るのではないでしょうか。本日はありがとうございました。








