前へ進む人とともに近い距離で過ごせる街「新潟市」

著: 長谷川円香 

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東京駅から新潟駅までは新幹線で2時間ちょっと。東京から来た友人には「新潟って思ったよりも近いんだね」と言われることも多い。ただその手軽さがあだとなってか、地元の友人の半分以上は高校を終えると県外の大学へと進学していく。

 

「地元を出てから、地元の良さを知る」とはよく言われるもので、やっぱり出ないと分からないことはたくさんある。私自身も例に漏れず、県外の大学へと進学した。

 

それまで経験したことがない、新潟以外での暮らし。海なし県での生活だったので、まず魚の味の違いに驚き、改めて食の質の高さを知った。

新潟はお米も美味しいし、野菜も魚も美味しい。自然も都市機能も共存しているから生活に不便を感じることはない。中心街から車を15分ほど走らせれば、広大に広がる田園風景。さらに20分走らせれば、山もある。

 

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とはいえ、もともとは帰ってくるつもりなどなかった。

 

就職戦線に敗れ、夢半ばに帰省。何とか新潟で就職し、社会人としてのスタートを切った。「3年したら絶対東京に出る!」と意気込んで戻ってきたものの、気づけば新卒で入社した会社で4年半働き、退職してもなお新潟に残っている。

 

先日、関東から移住してきた知り合いにおすすめのお店やスポットを案内していた。そのときに「本当に新潟が好きなんですね!」と言われて「あ、そうだったのか」とようやく気が付いた。

確かに言われてみれば、好きなお店や場所はいくらだって出てくる。休日には友人と会ってカフェでくだらない話をして、たまに遠いところまで出掛けて……。いつの間にか、新潟での暮らしが心地よくなっていた。

 

ほどよく都会でほどよく田舎な、地方都市。暮らしていくうちに少しずつ居心地が良くなっていった新潟を、今回は私の好きなものや場所とともに紹介してみたい。

 

私が好きな新潟の味

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新潟駅周辺には、歴史ある居酒屋やチェーン店、おしゃれなバルなどさまざまな飲み屋が立ち並ぶ。どこに入っても美味しいのだが、つい食べたくなってしまうのは小さいころから食べていた郷土料理の「のっぺ」だ。


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のっぺは、里芋や人参、ごぼうやしいたけなどを醤油や酒、みりんなどで煮た汁物。家庭によって味付けは違うので居酒屋の味と実家で食べていた味は一緒ではないのだが、それでも名前を見ると頼みたくなる。


それから、新潟の食で忘れてはならないのが「日本酒」。どこのお店でも数多くの地酒が置かれている。大学生のころは日本酒に興味はなかったのだが、新潟に帰ってきておそるおそる口にすると、おちょこ丸ごとの量をさらりと飲めてしまった。新潟のお酒が美味しすぎるのか、大人になったのか……。元々あまりお酒は得意な方じゃないのだが、少量でもつい飲みたくなる。

新潟市秋葉区にある、村祐酒造の「村祐」は日本酒が苦手だった私でも飲みやすかったお酒。甘さと辛さのバランスがちょうどよく、香りも豊かで好きな日本酒のひとつだ。


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飲んだあとの〆は、やっぱりあっさりしたラーメンが食べたくなる。「三吉屋」は、新潟市民に愛される老舗のラーメン屋。「もう食べられない」と思ってもあっさりとしたシンプルな麺を求めてしまうのだから、人って不思議だ。


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憩いの場、萬代橋とやすらぎ堤

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新潟駅から10分ほど歩くと若者が集う万代へとたどり着く。高校生のころは服を買うにも、友人とプリクラを撮るにも、本や雑誌を買うにもいつだってここに来た。土日には多くの人が買い物を楽しんでいる。


車を持っていなかったころ、よく「車がないと不便じゃない?」と言われたが、新潟駅周辺に住むのであれば問題なく過ごせるように思う。スーパーや病院、本屋さんも徒歩圏内にあるので生活に困ることはない。

ただ、車を持つようになって思うのは、「車があったほうが断然楽しい」ということ。上堰潟(うわせきがた)公園の桜を観に行くとき、小千谷のひまわりを観に行くとき、イオンモールで必要な服や品物をそろえたいときなど、やはり便利は便利なのだ。


万代から更にまっすぐ進むと、見えてくるのが「萬代橋(ばんだいばし)」。日本一長い川と言われる信濃川の河口付近にかかるこの橋は、新潟のシンボルマークであり、新潟市民の交通の要にもなっている。

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古町に通う学生や会社員は新潟駅から約30分の道のりを歩く人も多い。歩いて30分というとすこし面倒に思ってしまう方もいるかもしれないが、晴れている日の萬代橋は風が吹き抜け、心地が良い。


川に沿って続いているのが、新潟市民の憩いの場「やすらぎ堤」。遊歩道やサイクリングコースもあり、早朝や夕方にはランニングする人も見かける。芝生もあるので、ゆっくりとご飯を食べたり、まどろんだり。休日の昼間にゆっくりと腰を下ろして信濃川を眺めていると日々の疲れを忘れてしまう。


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歴史情緒あふれる古町

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萬代橋を渡ると、古町へとたどり着く。新潟港に北前船が寄港したことから商家や料亭が立ち並んだという。その後は花街としても栄え、今でも芸妓を呼んでお座敷遊びのできる老舗料亭や料理屋さんが残っている。

そんな古町は伝統と新しい店舗が共存するエリアで、古くから続く喫茶店や和菓子屋さんなどもある一方、セレクトショップやガレット屋さんといった新しく開業する店舗もある。


「hickory03travelers」は「日常を楽しもう」をコンセプトにあらゆるモノをクリエイトする集団。上古町に店舗を構え、Tシャツや雑貨などの販売も行っている。かわいらしいデザインの商品が多く、友人への誕生日プレゼントや知人へのちょっとしたお土産品などを購入することが多い。


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またhickory03travelersから徒歩数十秒で着くのが、「ゲストハウス人参」。2016年5月に開業した築90年以上の古民家を改装してつくられたゲストハウス。


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元々旅好きだったこともあり、改装のころから手伝いに行っていた。今は18時以降になるとコワーキングスペースとして使えるので、暇さえあればパソコンを持って人参に向かっている。

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宿泊客は日本全国・世界各地から訪れるので、話していると面白いし、旅が好きな者同士話がはずむ。お互いの行った国や場所、好きなお店や出会った人の話をしているとあっという間に時間がたってしまう。ここに来なければおそらく会うことのなかったであろう人と「その日限りの会話を楽しむ」ことが好きで、頻繁に通っている。


古町を抜け、もう少し行くと関屋浜へとたどり着く。ゲストハウス人参からは徒歩で約30分、車では10分ほど。街中からほど近い場所に日本海が広がっている。

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大人になってからは機会が減ってしまったが、小さいころはよく遊びに行っていた場所。浜辺にはバーベキューを楽しむ若者がたくさんいた。長い冬を終え、桜が色づき、春になったかと思えば一気に夏へと移り変わった。新潟の春は短く、夏と冬に支配されているような気さえする。

 

下町らしい沼垂(ぬったり)

新潟駅から東の方向へ20分ほど歩くと、沼垂(ぬったり)と呼ばれる下町がある。かつては発酵の街として知られたことから今でも酒蔵や味噌醸造所が残る。


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その近くには「沼垂テラス商店街」と呼ばれる、長屋の商店街がある。2010年から若い担い手の店主がお店を出し始め、2014年には店舗全体を管理する事務所が開設。徐々に注目を集め始め、今ではイベントになると多くの地元客や観光客が訪れる場所となった。


沼垂テラス商店街の家具とコーヒー、染め織り布のお店「ISANA」は、落ち着ける場所のひとつ。ひとりでコーヒーを飲みに行ったり、友人を連れてカフェとして使ったり。


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店主の奥さまがつくった染め織り布は、優しい色合いでつくった人の人柄が出ているよう。家具はオーダーメイドでつくられ、細部の造りにまでこだわっている。店内はいつも和やかな雰囲気に包まれているので、行くとついついゆっくりとしすぎてしまう。


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他にも個性的でこだわりを持つお店も連なっている。「HOSHINO koffee & Labo.」は自家焙煎のコーヒースタンド。コーヒー豆や水にこだわるのはもちろん、天然酵母の条件や小麦にもこだわり焼き菓子をもつくる。


2軒先にある「DILL」はフレンチやイタリアンを中心に提供する洋風カジュアルダイニング。パスタやサンドイッチ、ワンプレートランチなどその日によってメニューは異なる。


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もちろん飲食店だけではない。「Fish on」では昔懐かしい古本や古雑誌が、「IRIE FLOWER らいおん堂」では部屋を彩るドライフラワーや生花が、「青人窯」では食卓に優しさを与える陶器が。日々の暮らしにちょっとした安らぎを与えてくれる商品がそろっている。


どのお店も店主との距離が近く、提供する商品に徹底的にこだわる。ふらっと遊びに行って少し話して、「また来ます〜」と言って去る。その距離感が心地よい。


沼垂テラス商店街の前に構える「大佐渡たむら」は、地元の人にこよなく愛される海鮮・郷土料理店。

店主が毎朝、地元の市場で買い付けている海産物は新鮮で活きが良い。地元で取れる魚と地酒をセットにして飲むと新潟の食材の質の高さが身に染みる。

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しかもこちらのお店、地元の人が多いからか、ひとりで飲んでいると必ずと言っていいほど近くの人に話しかけられる。前に飲みに行ったときは隣にいた70代くらいのおじさんに話しかけられ、沼垂の昔の話や子どもころのお話しまでさまざまなことを教えてくれた。


ゲストハウスが好きな私は、沼垂の宿泊施設にもよく遊びにいっている。こちらは築90年以上の古民家を改装した「なり-nuttari NARI-」。


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店名の「なり」というのは、大工が使う言葉からとったそうだ。


「始めからかっちり決めてやるのではなく、その場の空気、いるひと、起こること、色んなすべてをひっくるめて、その場に合ったものをつくる、かたちにする」


初めてこの言葉の意味を知ったとき、「ああ、なんてあたたかい言葉なのだろう」と思った。

その場にいる人を誰一人として見捨てることなく、すべてをひっくるめて、場に合わせてつくりだす。どんな仕事だってたぶんそれが大事で、さまざまな状況に合わせて変化をしていかなければならない。自分だけでなく、まわりを見ながら、どう動いて何をつくればよいのか。私もそんな仕事をしていきたいし、そんな人と一緒に次の未来をつくりだしていきたいと思った。


私がなりを好きな理由は、オーナーの人柄とそこに集まる人たち。つい先日もオーナーの結婚を祝って、イベントを開いた。10日前の告知にもかかわらず、30名近くの人がお祝いに駆けつけた。


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それだけ多くの人に愛されているオーナーは誰にでも分け隔てなく接し、いつでもポジティブな言葉で背中を押してくれる。選択に迷ったとき、今一歩が踏み出せないとき、状況をみたうえで助言をくれた。「なり」がもつ言葉の意味を体現しているような人。だからこそ、みんなに愛されるオーナーなのだと思う。


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新潟に戻ってきた当初は、新潟のお店のことを知ろうともせず、何も考えずにチェーン店のカフェに入り、大型書店に行っていた。しばらくして、話題になっているお店を知ると、気になって利用するようになっていった。そうすると店主と話すようになって、店主自身を好きになり、お店や街を好きになり、気付いたら、新潟自体を好きになっていた。


知り合いが自分のお店を始める場面も多くみてきた。オープンから年月が経ち、より良い方向へと進むため悩みながら方向転換に挑んでいく姿も。そういった周りが変わっていく様子をみていると、自分自身を振り返る機会をもらうことも多い。


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会社を退職しても新潟に残る選択をしたときもきっかけは「人」だった。フリーランスのライターとして活動している人に話しを聞き、「この人と一緒に仕事をしてみたい」と思った。相談したいろいろな店主には背中を押された。住む場所を決めたら、やるべきことが明確になった。


新潟は前へ進む人とともに近い距離で過ごせる街だと思う。自分もそんな新潟と一緒に歩んでいきたい。


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著者:長谷川円香

長谷川円香

新潟県在住ライター。県外の大学卒業後、求人広告会社で営業職として4年半勤務。退職後ヨーロッパ放浪旅を経て、フリーランスのライターへ。古い建物と美味しいご飯に目がない。

Twitter:@onehap