
グーグル(Google)が次世代大規模言語モデル(LLM)「Gemini 3.0」の発表に向けて準備を進めている模様だ。同社にとっては、満を持して放つ巻き返しの一手となる。
ソーシャルメディアなどを通じてその存在をほのめかす従業員がちらほら出てきているだけでなく、スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)も10月30日のX(旧Twitter)投稿で「年内に予定しているGemeni 3のリリースが楽しみ」と公言している。
XやDiscord(ディスコード)のチャンネルでは、リリースを心待ちにする多数のユーザーによる議論が熱狂の域に達しており、すでに一部のユーザーを対象にGemini 3の提供が始まっているとの噂も広まっている。
グーグルは数カ月前にも、社名こそ明かさないものの開発中のモデルをベンチマーク(性能評価)プラットフォームで公開テストしたと見られる形跡があり、一部ですでに提供開始との噂も陰謀論や都市伝説の類いとまでは言い切れない。
熱狂的なファンに限らず、AI業界に関わる多くの人々がGemini 3の名前を口に出し、グーグルが次に何を繰り出してくるのか注視している。
Gemini 3ではコーディング支援やマルチメディア生成の性能改善が進むとの期待が高まっている。
自然言語プロンプトから画像を生成するAIツール「Nano Banana(ナノ・バナナ)」の改良版がすでにプレビュー公開されているが、それもGemini 3の一部として組み込まれるとみられる。
2022年11月末にオープン(Open)AIが「ChatGPT」をリリースして以来、グーグルをめぐるあらゆる言説は「眠れる巨人はいつ目覚め、逃げる新参者の襟首を掴(つか)むのか」といった形で語られるようになった。
その見方は間違いではなかった。存在を根本から脅かすほどの競合と対峙する機会が長いことなかったグーグルは、主要製品に生成AIを統合しようと社内のピボットを急いだ。
実際、多少時間はかかったものの、眠れる巨人は目を覚ました。
Geminiユーザーは急増を続けており、生成AIは(現時点では)グーグルのキャッシュカウ(=顧客認知度が高く安定的に大きな収益を生み出す事業)である広告事業を揺るがすには至っていない。
ピチャイ氏の辞任を求める動きも沈静化した。
フルスタックの優位性
グーグルは「フルスタック」の優位性を存分に活かして巻き返してきた。
AIモデルを自社開発するだけでなく、既存の自社製品群を通じて拡散させる配信チャネルを有し、それに加えてクラウド事業向けのインフラも(AI関連に)転用できる。
一方、他のAI企業は複雑に絡み合った関係の中で事業を展開している。
例えば、アンスロピック(Anthropic)はアマゾン(Amazon)の有する計算資源すなわちインフラに大きく依存し、アマゾンの自社開発したAIアクセラレーターを利用している。しかしアマゾンはアンスロピックの最有力競合であるオープンAIにもインフラを大規模提供し、オープンAIは大株主であるマイクロソフト(Microsoft)などにインフラを依存する。
こうした相互依存的な関係性、資金循環のあり方がバブルの懸念を高めている面もある。ハイパースケーラー各社が提供するインフラの核となるGPU(画像処理装置)をエヌビディア(Nvidia)がほぼ独占している現状も、不安材料と認識されている。
グーグルはそうした関係性からほぼ距離を置くことができている。
「GPT-5」は爆発しなかった
グーグルの未来はひとまず前途洋々に見える。
オープンAIは8月に待望の最新モデル「GPT-5」をリリースしたものの、その衝撃は「爆発」ではなく「発泡」程度と受け止められた。
生成AIそのものが倦怠期を迎えていると理解すべきか、オープンAIの勢いが減衰期に差し掛かっているのかは定かではない。
これから登場するGemini 3がスマッシュヒットとなれば、グーグルは念願のAI市場におけるリーダーの座を奪還できる可能性がある。
Business Insiderが内情に詳しい関係者に取材した限りでは、非常に素晴らしい製品の登場が期待できそうだ。
先頭をひた走るオープンAIにとってはもちろん望ましい展開ではない。
同社はグーグルと違ってフルスタックで事業展開する基盤を持たない。先行者としての優位性と業界内における提携関係こそがリード維持の源泉だった。
「クリネックス」的なAIモデルに
グーグルに残された解決すべき問題は「ブランド」だ。
ChatGPTは引き続き「クリネックス」的な存在、つまりティッシュペーパーと言えばそれを思い浮かべるように、AIと言われて多くの人が真っ先に思い浮かべるサービスだ。検索エンジンと言えばかつては誰もがグーグルの名前を挙げたように。
グーグルはユーザー数でもまだオープンAIに大きく水をあけられている。
同社によれば、Geminiアプリの「月間」アクティブユーザー数(MAU)は6億5000万人。一方、ChatGPTの週間アクティブユーザー数(WAU)は8億人だ。
Geminiは若年層ユーザーの間で人気が高まっている模様で、それはそれで朗報ながら、埋めるべきギャップは依然として大きい。
クラウド、半導体、リサーチャーへの長年にわたる投資はようやく実を結びつつある。Gemini 3が目論見通りのスマッシュヒットになれば、あとは下手を打ちさえしなければいいのだ。
楽勝じゃないか。
















