
言わずと知れた、世界的カメラメーカーのキヤノン。
そんなキヤノンが、実は世界的にも注目される半導体関連企業としての顔を持っていることをご存知だろうか。
キヤノンが半導体分野に着手し始めたのは1970年代。いまや、一部の半導体の「製造装置(露光装置)」の分野では、世界トップシェアを誇るまでに成長している。直近では、2023年に「ナノインプリントリソグラフィ(NIL)」と呼ばれる新しい技術を用いた半導体製造装置を発売。これまでの10分の1の電力消費で先端半導体を製造できるとして、アメリカの半導体コンソーシアム(TIE)などでの試験運用が進んでいる。
キヤノンでは、この9月から宇都宮にある半導体製造装置の新工場の稼働を開始。既存ラインナップも含めて、2021年比で約2倍となる、年間販売台数300台超を目指す生産体制が構築されている。
カメラのキヤノンがなぜ半導体なのか。注目される新技術「NIL」とは何か。キヤノン執行役員、光学機器事業本部 半導体機器事業部の三浦聖也事業部長に話を聞いた。
生成AI需要で追い風「世界シェア8割」の装置も

キヤノングループの2025年の予測連結売上高は、第3四半期決算段階で約4兆6000億円。うち54%をプリンティング事業、22%をイメージング事業(カメラなど)が占める。
半導体製造装置やディスプレイの製造・開発などを担うインダストリアル事業の売り上げは全体の1割以下だ。ただ、2024年度の実績では、インダストリアル部門の売上高は3565億円。営業利益は689億円で、利益率は約20%と収益性は高い。特に半導体「露光装置」の売り上げは前年比で約25%増の233台。2025年度はEV需要の減退などの影響も受け第3四半期決算段階では年間販売台数は241台と微増の伸びとなる見通しを示しているが、中長期的に拡大が見込まれる分野として期待されている。
露光装置とは、ウエハと呼ばれる円盤状のシリコンの板に、光を用いて微細な電子回路のパターンを焼き付ける装置だ。同分野では、最先端の半導体を製造する装置としてオランダの露光装置メーカー・ASMLが製造する「EUV(極端紫外線)露光装置」がよく知られている。ただ、半導体産業の現場では、EUV以外にもさまざまな波長の光を用いた露光装置によって、用途に応じた半導体が製造されている。

なかでもキヤノンが強みとしているのが、EUV露光装置と比べて波長の長い光(i線、KrFレーザー)を利用した露光装置だ。特にセンサーやパワーデバイスなどの製造で使われるi線と呼ばれる光源を用いた露光装置では、キヤノンは世界で8割近いシェアを誇るという(キヤノン調べ)。
半導体には、ウエハ上に回路を作る「前工程」と、チップを切り出して基板などに実装する「後工程」がある。キヤノンでは特に後工程向けの露光装置が好調に推移しているという。生成AI向けに「パッケージ(後工程)向けの大画面を露光する装置(一度に広い面積を露光できる装置)のニーズが急激に増えています」と三浦氏。
パッケージ(後工程)向けの広範囲に露光できる装置は、キヤノンが強みとしている領域だ。加えて以下の図に示す通り、キヤノンではi線を中心にニーズごとに装置を確保している。
三浦氏は
「丸いウエハだけでなく四角い基盤にも対応するなど、さまざまなニーズに応えられる、豊富なラインナップを揃えているのが強みになっています」
と好調の要因を語る。

50年の歴史持つキヤノンの半導体事業
キヤノンの半導体露光装置の歴史は、国産初の製品「PPC-1」が発売された半世紀以上前の1970年まで遡る。三浦氏は、
「(当時は)キヤノンが多角化を進めた時期でした。カメラレンズの技術を生かすところから始まって、以降、光学技術を高精度に応用して、露光装置の解像力を高めてきました」
と露光装置の研究開発に取り組み始めた経緯を語る。

電子回路の微細なパターンを光で正確に描くには、小さなフィルムに描かれたものを大きなスクリーンに映すのとは反対に、電子回路のパターンをレンズなどを使って“正確に縮小して映す技術”が必須だ。カメラ開発を通じて光学技術を磨いてきたキヤノンだからこそ、多角化の選択肢として半導体露光装置に目をつけ、実現できた。
「(カメラのレンズ開発とは)事業部は違いますが、今も光学という観点で全社的に横のつながりはあります。特に宇都宮の拠点は“光学の拠点”と言われていて、カメラレンズの設計部隊や工場もありますし、その隣には半導体機器事業の工場もあります。設計者も製造現場も部門を越えて、光学について勉強しながら取り組んでいます」


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