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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

最新ソングチャートでトップ20入りした山下達郎と玉置浩二、一方でチャートアクションが大きく異なる件

最新11月12日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは、トップ10入りは逃しながらも20位以内にてベテラン歌手の作品が2曲登場しています。

(上記CHART insightは有料会員が確認可能なもので、20位未満の指標順位も明示されています(ビルボードジャパンでは有料会員が知り得る情報の掲載を許可しています)。また、以下に紹介するCHART insightも同様に、有料会員が確認可能なものとなります。)

当週は12位に山下達郎「MOVE ON」が初登場、そして20位には玉置浩二「ファンファーレ」が前週より34ランク上昇しています。2曲はいずれもフィジカルシングルとしてリリースされ、その初加算のタイミングにて上昇した形ですが、しかしながらチャートアクションは大きく異なります。

 

 

山下達郎「MOVE ON」は前週以前もラジオ指標(CHART insightでは黄緑で表示)が加点されていたのですが、当週は同指標を制しています。この指標の基となるプランテックのオンエアチャートでは、この曲が圧倒的だったことが紹介されています。

11月5日リリースのダブルA面シングル「オノマトペISLAND/MOVE ON」より、ダイハツ“MOVE(ムーヴ)”CMソングとして6月初旬よりテレビ放映中の同曲。大きく先行して10月12日放送の番組「山下達郎の楽天カード サンデー・ソングブック」(JFN系列)での初フルオンエアを経て、翌13日より他番組・局でも解禁されると同週10月13日~10月19日チャートで21位に初登場。その後も多数オンエアを維持しながらチャートイン4週目を迎えた今週、前週比684%のオンエア増で首位へと上り詰めた。

シングルリリース週とあり急伸したかっこうながら、調査対象全てのステーションで獲得するに至ったオンエアの総数は、下位のおよそ2.7倍以上という圧勝だ。また、こちらも9月4日の配信リリースに先がけラジオ先行解禁され、9月1日~9月7日チャートで1位を獲得した「オノマトペISLAND」も、今週94位へと再浮上し同時チャートインしている。長期的かつ戦略的な大量オンエアが奏功し、セールスも絶好調の様子だ。

 

ラジオ指標は以前からベテランが強く、特に全国放送のレギュラー番組を抱える歌手がその傾向にあるのですが、それにしても圧倒的といえます。

そして記事にもあるように、当週は「オノマトペISLAND」もラジオ指標が再浮上。実は今回のフィジカルシングルは「オノマトペISLAND」と「MOVE ON」のダブルAサイドとなっており、フィジカルセールス指標は前者に加点されるのです。しかしながら最新11月12日公開分のビルボードジャパンソングチャートにて「オノマトペISLAND」は総合100位以内にランクインしていません。

なお「オノマトペISLAND」は9月10日公開分のビルボードジャパンソングチャートで総合11位に初登場を果たしながら、100位以内エントリーはその一回に限られています。同週はラジオ指標が強いことに加えてダウンロード指標(CHART insightでは紫で表示)も加点されていますが、勢いは持続していません。

ロングヒットに至るには接触指標群、特にストリーミング指標(CHART insightでは青で表示)の加点が重要です。しかしながら山下達郎さんはサブスクに否定的であり、今回においても新曲をサブスクサービスにて解禁していません(他方「クリスマス・イブ」は一部サービスにて解禁済)。またミュージックビデオはショートバージョンで公開されていますが、短尺版は動画再生指標(赤)で加点されにくいという特徴があります。

デジタルに明るくないのはいつものことだとして、しかしながら「MOVE ON」を「オノマトペISLAND」同様にダウンロードリリースしていれば、もしくは「MOVE ON」をフィジカルシングルの1曲目に据えていたならば、チャートアクションは変わっていたことでしょう。トップ10に入るか否かでメディア露出が異なることもあり、今回の結果をどう捉えるかが重要です。

 

 

一方で玉置浩二「ファンファーレ」は当週20位に上昇。こちらはフィジカルセールス指標が加点対象となっていますが、そのセールスは2,701枚。山下達郎「オノマトペISLAND」(9,568枚をセールス)のおよそ3分の1という状態です。

総合ソングチャートでは山下達郎「MOVE ON」の後塵を拝したものの、玉置浩二「ファンファーレ」はフィジカルセールス指標初加算のタイミングでストリーミング指標が100位未満→81位、動画再生指標が同じく100位未満から21位に急浮上しています。ラジオの強さに加えてダウンロードも安定し、フィジカルセールスに頼らないヒットの形を辿っているのです。

興味深いのは、主要サブスクサービスの週間チャート(サービス毎に集計期間は異なる)において玉置浩二「ファンファーレ」が計測範囲内に達していないということ(上記ストリーミング表参照)。それでもストリーミング指標では81位に上昇しており、ヒットするポテンシャルを秘めているといえるでしょう。

そして動画再生指標の急上昇は、「ファンファーレ」のミュージックビデオにて玉置さん自身の「田園」(1996)が用いられていることが認知されてきたことの証明かもしれません。動画再生とストリーミングという接触指標群は比例傾向にあることから、やはり今後さらなるヒットに至る可能性があるのではというのが私見です。

 

 

玉置浩二「ファンファーレ」はデジタルをきちんと解禁し、ミュージックビデオもフルバージョンでアップしているからこそ、フィジカルセールス指標初加算時であってもそれに頼らないヒットの形、そしてロングヒットの可能性を示しています。ベテラン歌手のデジタルに対する姿勢が功を奏していると判った以上、すべての歌手がデジタルに積極的にならない手はないはずです。