『教養としてのお菓子』(宮本二美代 著、Gakken)の著者は、お菓子の本場フランスへ留学し、「ル・コルドン・ブルー」パリ校で製菓ディプロム取得したという経歴の持ち主。
帰国後は、専門学校・カルチャースクール、企業イベントなどで製菓・ラッピング講師として活動してきたそうです。そんななかで実感したのは、「お菓子とは、ただの嗜好品ではなく、人と人とをつなぎ、心を解きほぐし、信頼を育てる“教養”であり“道具”である」こと。
また、一流と呼ばれる人ほど、お菓子の使い方が洗練されているのだともいいます。世界の成功者やエリートたちはみな、意外なくらいお菓子の価値を理解しているというのです。異なった表現を用いるなら、お菓子は「相手への敬意、場の空気への配慮、自分の教養やセンスが静かに現れる“無言のメッセージ”」だということ。
お菓子には、言葉以上の力があります。それはもはや、ビジネスや社交の場における最上級のマナーであり、心のふるまいでもあります。(「はじめに」より)
情報やモノであふれた現代においてスキルや実績以上に問われるのは、「人としての魅力」や「洗練されたあり方」。そこで静かに効いてくるのが“お菓子の教養”だということです。
どんなお菓子を、どのタイミングで、どのように渡すかなど。そうした振る舞いによって、相手の心に残る人になれるかどうかが決まるといっても過言ではないのです。
そこで本書では「教養としてのお菓子」を通し、印象力・信頼力・人間力を高めるためのヒントを、実例やエピソードを交えながら明らかにしているわけです。
きょうは、第3章「関係性によるお菓子の選び方〜シーン別お菓子のセレクト術」のなかから、「ビジネスシーンでの手土産」という項目に焦点を当ててみたいと思います。
種類・価格帯は目的ごとに変わる
ビジネスでの手土産は、「高すぎず安すぎず」が基本のルール。大切なのは、「誰に、どのような目的で渡すのか」を意識して、シーンごとに選ぶことだそう。
そこでこの項では、代表的なビジネスシーンごとに「おすすめのポイント」と「目安の価格帯」が紹介されているのです(価格帯はあくまで目安であり、関係性や状況によって柔軟に変わっていくものでもあります)。
商談の冒頭や、訪問時の挨拶代わりに渡すお菓子は、相手との関係性を円滑にし、第一印象をよくするチャンスです。例えば、東京・銀座の有名店のフィナンシェや、落ち着いた和の包装のお菓子は、格式ある企業への訪問時に安心して選べます。(99ページより)
一般的な訪問やご挨拶
- 選び方のポイント:軽やかでセンスのあるものを選ぶべきで、小ぶり・日持ちのよさが必須。個包装・常温保存が可能なものを選ぶといいようです。
- おすすめ:地元の名店や老舗の焼き菓子、シンプルで万人受けするクッキーやマドレーヌなど。
- 価格帯目安:高すぎず安すぎず、初対面の場合は2000〜3000円
取引先・役職者への訪問
- 選び方のポイント:高級感・格式を意識するべき。和菓子や有名ブランドもいいそうです。
- おすすめ:たねやのふくみ天平、京菓子處 鼓月の華、和光や資生堂パーラーのクッキー。
- 価格帯目安:5000〜6000円程度
長期プロジェクト終了・感謝の気持ち
- 選び方のポイント:ボリューム感と配りやすさが大切。
- おすすめ:個包装の焼き菓子詰め合わせ、地方の銘菓、話題性のある限定品。
- 価格帯目安:3000〜5000円程度
謝罪・お詫びの訪問
- 選び方のポイント:格式あるブランド、重厚感、ボリューム感のあるものが必須。お菓子は“謝罪の補足”として機能させるべきだということです。そのため、シンプルで上品、日持ちのする和菓子を選ぶといいようです。
- おすすめ:たねやのどらやき、とらやの小形羊羹、切腹最中。
- 価格帯目安:5000円〜1万円台(謝罪の程度により考慮)
※「切腹最中」は東京・新橋の老舗和菓子店「新正堂」の「謝罪」を代表するお菓子。とくにビジネスパーソンが購入していることで有名です。浅野内匠頭が切腹した田村屋敷跡に店舗があることに由来し、「忠臣蔵」の物語を菓子を通じて広めたいという思いが込められているもの。
甘さ控えめのあんこと柔らかな求肥入り。「切腹」を連想させるような切り込みの入った最中の皮に、生地からはみ出るほどのあんこが詰められていることが特徴です。
季節のご挨拶(お中元・お歳暮など)
- 選び方のポイント:定番で安心感があり、季節に合うお菓子。
- おすすめ:お中元は清涼感、お歳暮は重厚感あるものを。
- 価格帯目安:5000円〜1万円台
当然ながら、手土産に対する考え方は企業によってさまざま、購入前に、必ず予算を確認しておきたいところです。
ただし、「高いものを選べばよい」というわけではなく、大切なのは「相手に合わせて選んだ」という気持ちが伝わること。好みやアレルギー、会社のイメージなどを考慮したチョイスは、確実に相手の心をつかむわけです。
なお、高額すぎると「気を遣わせる」リスクがあり、安すぎると「軽んじられた」と思われる可能性も。そのため、適正な価格帯を意識することが、スマートなおつきあいのために必要なのです。(98ページより)
本書は、お客様や上司・部下との信頼関係を深めたい方や、ビジネスや社交の場で“人間関係を円滑”にしたい方にも読んでほしいと著者は述べています。つまり、ビジネスパーソンにとっても有用な一冊なのです。お菓子の教養を通じて人との距離感を縮めるためにも、大いに活用したいところです。
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著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: Gakken

























