Personal Space

Archive for the tag “nuclear reactor”

チェルノブイリの子供たち-25年経って(IAEAオフィシャルビデオ)

これは、IAEA(International Atomic Energy Agency)の、チェルノブイリ事故25年後を記念したオフィシャルビデオです。

ここでインタビューされてるSvetlana Nikolayevna Dygunは、生まれ故郷のべラルースのStrelichevoという村で教師をしています。Strelichevoは、チェルノブイリの原発事故の現場から、30キロちょっと離れたところにあります。

以下は、字幕の要約です。

事故後、私と妹は、叔母さんの住むミンスクに被曝疎開しました。両親が、子供への被曝を心配したからです。でも、ミンスクでは、地元の子供たちから、ひどい差別をうけました。当時は、みんな、特に子供は、放射能はウイルスみたいにうつるものじゃないんだ、ってことがわかってなかったんです。(ブログ著者註-ここのところ、ちょっと身につまされます。25年経った今、それも超情報先進国の日本で、福島からの避難民の人たちが差別を受けていると聞きます。悔しいです。)

というわけで、結局私と妹は、Strelichevoに戻ってきました。でも、村は、原発事故の前とは全く違ってました。大人たちは、躍起になって、建物の外壁やらフェンスやらを洗い流していました。以前みたいに、木になってるりんごをもいで食べるのことができなくなってしまいました。林に行って野生のきのこなんかを採って食べることも出来なくなってしまいました。そして、皆、大人も子供も含めて、これからどうやって生きていくのか途方にくれていました。村の人たちは、皆この土地で生まれて育って生計を立ててきたのに、その土地が、すべて汚染されてしまったんです。25年経った今でも、私も含めて村の人たちは、林の中になってる野性の果物やきのこ、汚染が怖くて食べられません。

まるで戦争みたいです。でも、銃撃が聞こえるわけじゃないし、上を見上げると空は青いし、周りを見回しても、何事も起こらなかったように、静かです。

私たちは、この土地で、生きていきます。生きていかなきゃならないんです。放射能なんかに負けてはいられません。放射能に打ち勝たなくではならないんです。

IAEAが、このビデオに以下の説明文をつけています。

恐怖感、将来への不安、そして無力感など、住民の精神的なトラウマは、チェルノブイリの事故で、最も悲惨だったことのひとつです。

福島原発の事故で避難している方たち、そして避難はしていないけれども規定以下の汚染やら風評やらの影響を毎日考えながら暮らしている方たち、大変だと思います。汚染を浄化するのにはたくさんのお金と時間がかかります。実際、チェルノブイリの近くの村の生活は、25年前の状態には戻っていません。でも、それをふまえて、私たちは、この汚染を出来るだけ早くきれいにしていけるように、そして福島の人たちが出来るだけ早く、自分たちの土地で普通に生計を立てていけるような生活を取り戻せるように、日本の政治と財政の行方を見守って(そして時には声も手もお金も出して)いく必要があると思います。そして、もっと身近なレベルでも、私たちは、福島の子供たち(そして大人も)が差別に遭わないように、自分自身と、そして身近な人たちを、啓蒙していかなければなりません。

On “Radiation risky, but at what level?”

Here is a syndicated newspaper article (Written by Denise Grady of New York Times) titled “Radiation risky, but at what level?” which discusses one aspect of the difficulty in coming up with a guideline radiation dose in the context of public health.

http://thechronicleherald.ca/Science/1237474.html

US EPA’s Protective Action Guideline (PAG) (http://www.epa.gov/rpdweb00/rert/pags.html and http://www.epa.gov/rpdweb00/docs/er/400-r-92-001.pdf) states that, following a nuclear incident, if the projected, net (total) dose over a 4-day period is 1 rem (10 mSv) or above, the population should be evacuated. It also recommends that the population be relocated long-term if the projected dose over the first one-year period exceeds 2 rem/year (20 mSv/year). For subsequent years, the relocation guideline tolerates much lower figure, 0.5 rem/year (5 mSv/year).

However, the above article talks about the huge uncertainty in determining the radiation dose guideline, as described by Dr. Evan B. Douple, the associate chief of research at the Radiation Effects Research Foundation in Hiroshima. Current guidelines were developed based on the existing radiation exposure studies, most of which come from studying the Hiroshima and Nagasaki atomic bomb survivors. The a-bomb survivors received virtually all of the radiation as a one-time dose whereas people in the vicinity of the Fukushima Daiichi nuclear power plant are subjected to low-level doses for a prolonged period. There is no clear consensus as to how the different modes of radiation may affect human health differently.

I suppose much of the current confusion and frustration is due to the fact that nobody really knows how much is too much. Public health experts cannot say anything more definitive than “may likely be harmless.” However, I do realize that these statements are indeed inevitable because there is no explicit data that illustrates the effect of prolonged low-dose exposures.

Where can we go from here? First, we need to ensure that the Japanese government fund a long-term monitoring of the physical health of Fukushima people for many years to come. This is not only to ensure good health and high quality of life for the affected people (which is an absolute priority), but also to provide data for future nuclear incident guidelines. Also, we need to make sure that the Japanese government fund a comprehensive, long-term characterization of the radionuclide levels in soils, air, surface/ground water and public facilities for many years to come so that the public health data can be interpreted in the environmental context. The guidelines must be revised as needed as more health effect data become available. Finally, we need to make sure that the Japanese government prepare an evacuation plan based on the most up-to-date guidelines available, and the plan be put to use without delay if needed.

We have an unprecedented, albeit unfortunate, opportunity to reduce the uncertainty.

英語圏の総合科学誌「ネイチャー」の福島原発事故Q&Aの日本語訳(Part 4)

(Part 1はこちら、Part 2はこちら、Part 3はこちらです。)

今日、米国東海岸時間で11時頃から、英米で主に編集されてる(出版は英国)総合科学誌の「ネイチャー」が、オンラインで福島原発事故に関するQ&Aを行いました。「ネイチャー」誌は、事故発生当時から、ブログやオンラインの紙面で、事故そのものや、それに関する現地測定のデータ、さまざまな国のさまざまな機関によるモデル試算の結果、日本や国際の関連機関のプレスリリースなどを、地道に報道してきました。それらは、こちらにまとめられています。⇒ http://www.nature.com/news/specials/japanquake/index.html

「ネイチャー」誌は、事故当初から、「総合科学誌」としての立場から、客観的に、刻々とレポートされてくる数値と過去の例(チェルノブイリなど)に基づく報道や社説を出してきています。記事は、科学に基づいてはいますが、科学者のためだけではなく、一般の人のために書かれています。このQ&Aは、「ネイチャー」側が読者の質問に答えているわけですが、質問はモデレーターにチェックされてからチャットに出てくるようになっていたので、筋の通った、読みやすいQ&Aになっています。原文のチャットは、ここです。⇒ http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2011/04/japans_nuclear_disaster_live_q.html?WT.mc_id=TWT_NatureNews

Q&Aの訳(Part 4)

Stuart McIntoshからのコメント: Drew Wrightの質問に関係してるんですが、地震や津波の多い国や地域は、原子力発電以外の方法で電力をまかなうべきだと思いませんか?

BO: これは「新しい核の時代」の質問に関係してますね。

JS: これもいい質問ですね。でも、これは、現在の福島の事故の収拾がついて、ここで学んだことを踏まえてからじゃないと、答えにくいです。ただ、Geoffが言うように、最近の新しい原発は、もっと安全なように設計されてます。

GB: 原発は、すべて、ある程度のリスクはこえられるように設計されてます。ここで留意しておきたいのは、福島の原発は、設計段階で考えられていた最大の災害よりも何段階も上を行く大災害にみまわれたにもかかわらず、一応は、破壊されずに、まだ残っているわけです。

とは言っても、これは、これから世界中で、施政側と市民が、ともに解決していかなきゃいけない問題でしょう。実際のところ、もうドイツなんかでは、かなり活発な議論が始まってます。

Shelbyからのコメント: 19km以内のゾーンで測られてる放射線のデータのほとんどは、あんまり、測点が科学的に検討されてないというか、車で走りまわりながら適当に止まって測ってる感じで、測定時の風に関する情報などの重要な情報が抜けてたりもします。データの値があっちこっち飛んじゃってるの、風向きのせいだったり、測定点が離れすぎてたりしてるせいだったりしてるんじゃないかと思うんですが、実際のところ、これらのデータ信頼できますか?私は、これらのデータからは、放射性物質の拡散状況、なんとなくはつかめても、はっきりとした結論は出せないように思うんですが。

BO: 福島近辺からレポートされてくるデータの質については、かなり活発な議論がされてますよね。Jim、Geoff、どうです?

GB: Jim、お先にどうぞ。わたしあとからコメント付け足します。

JS: 放射性物質の放出直後(つまり、放射性物質がまだおおかた空気中に漂っている時期)には、データは、風向きなんかに左右されますし、値も、かなり上下するでしょう。でも、いったん放射性物質がほとんど地上に降下して落ち着けば、風はあんまり関係なくなってきます。あ、土壌の水分の量は関係してきます。実際、今出てきてるデータは、計測時に雨が降ってるかどうか、銘記してあります。値との関連性ははっきりしてませんが。私としては、現在のデータの量と質は、満足できるものだと思います。でも、ご質問のとおり、計測方法なんかの情報が抜けてたりして、データの解釈かしづらいのは事実です。これは、ひょっとしたら、翻訳の問題なのかもしれません。もしかしたら、日本語のデータレポートは、もっと関連情報がしっかり網羅されてるのかもしれません。

GB: 米国のエネルギー省が、上空に飛行機を飛ばして計測を行いました。放射能汚染がどのように広がっているか、結構はっきりとつかめると思います。  http://blog.energy.gov/content/situation-japan/

あと、付け足しておきたいのは、今の状況は、計測するにしても、かなり難しい状態だ、ということです。日本側の行っている計測やサンプリングにいちゃもんつけるのは簡単なことですし、まあ、そうやって、批判的に事態を見つめていくことも、大切だと思います。でも、特に震災の直後は、計測用の計器もままならなかったし、交通網もやられて、原発の周辺へ近づくことも、簡単ではなかったんです。

BO: もう時間がなくなってきました。あとひとつかふたつでおしまいにしましょう。

JS: 私もGeoffと同感です。難しい状況を鑑みても、日本側のデータ収拾の努力を批判するのはどうかと思います。

Claire Cailesのコメント: 福島事故による、放射線による癌の可能性は、他のリスクによる発ガンの可能性とくらべて、どうですか?たとえば、タバコなど。

JS: かなり低いです。たとえば、チェルノブイリでの、事故後の、事後処理にあたった作業員は、平均して100mSvの放射線を浴びました。これは、だいたい、老後の発ガンの確率が、0.5から1%上昇するくらいに値します。これと比べて、タバコ吸うひとは、大体50%の確率でタバコに関連した病気で死にます。

Chris Pookのコメント: 福島にはたくさんのデータがあるし、日本側はすべて公開してますが、それでも、データの、時間を追うごとの解釈はまだまだ遅れてるし、あと、特に、この膨大なデータが、どのように、行政における決断やガイドライン(たとえば、食品の放射線の基準値など)に反映していくのか、まだまだはっきりしてないと思います。どのようなデータやパラメータを行政側で反映していけば良いと思いますか?

BO: Jim、政府(立法)は、どんな情報を元に基準やガイドラインを決めていくべきだと思いますか?

GB: 私がひとつ言いたいのは、報道側がこの危機をどう報道していったかは、結構問題だったと思います。報道は、最大値ばっかりをレポートする傾向にあります。とくに、放射能汚染の場合は、最大値じゃなくて、ある一定の時間内での積算値が問題なわけで、最大値は、それだけじゃ、あんまり関係ないわけです。実際、低レベルの放射線が長期間続くほうが、ほんの瞬間の最大値よりもあぶなかったりするわけで。

GB: それ以外では、これは、Jim向きの質問だと思います。

JS: はい、たしかに、放射能汚染のガイドライン値はあります。日本政府は、それに基づいて、食品をチェックしてます。でも。Geoffの言うように、この手の値やデータは、解釈が一筋縄ではいかないでの、報道側で、誤解を生むような報道になってしまったりしています。

データから見えることでひとつ重要なのは、汚染地域での外部被爆は、どんどん減ってきている、ということです。これは、半減期の短い132Teや131Iなんかがどんどん崩壊していることによります。

BO: では、最後の質問。

Ianからのコメント: 原発の監視を、国際的に行っている機関なんていうものは、あるんでしょうか?それとも、原発って、国単位で監視されているんですか?今回の事故を見てると、予測でき得たような事態が全く考えに入ってなかった、という感じがするんですが。

BO: Geoff、Jim、国際協力については、どうお考えですか?

GB: IAEAは、軍事目的以外の原子力施設を点検できることにはなっています。でも、実際には、点検は、施設が軍事的な目的に流用されてないかの確認のためにされてるのが主です。今回の事故にからんで、IAEAの力をもっとつよくしていこう、という議論が出てくるでしょうね。

JS: 私もそれを言おうと思ってました。

GB: 最終的には、原発の安全は、それぞれの国の行政の責任のままになっていくと思います。それが良いことなのか悪いことなのかは別として。

BO: 時間がきちゃいました。皆さん、参加してくれて、ありがとう。このQ&Aが皆さんの役にたてたら幸いです。あと、念のため、Nature誌の福島の記事は、ここで読めます。http://www.nature.com/news/specials/japanquake/index.html

(以上)

英語圏の総合科学誌「ネイチャー」の福島原発事故Q&Aの日本語訳(Part 3)

(Part 1はこちら、Part 2はこちらです。)

今日、米国東海岸時間で11時頃から、英米で主に編集されてる(出版は英国)総合科学誌の「ネイチャー」が、オンラインで福島原発事故に関するQ&Aを行いました。「ネイチャー」誌は、事故発生当時から、ブログやオンラインの紙面で、事故そのものや、それに関する現地測定のデータ、さまざまな国のさまざまな機関によるモデル試算の結果、日本や国際の関連機関のプレスリリースなどを、地道に報道してきました。それらは、こちらにまとめられています。⇒ http://www.nature.com/news/specials/japanquake/index.html

「ネイチャー」誌は、事故当初から、「総合科学誌」としての立場から、客観的に、刻々とレポートされてくる数値と過去の例(チェルノブイリなど)に基づく報道や社説を出してきています。記事は、科学に基づいてはいますが、科学者のためだけではなく、一般の人のために書かれています。このQ&Aは、「ネイチャー」側が読者の質問に答えているわけですが、質問はモデレーターにチェックされてからチャットに出てくるようになっていたので、筋の通った、読みやすいQ&Aになっています。原文のチャットは、ここです。⇒ http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2011/04/japans_nuclear_disaster_live_q.html?WT.mc_id=TWT_NatureNews

Q&Aの訳(Part 3)

Krisからのコメント: 一号機の燃料棒は、70%ほども露出している、と報道されてます。あと、現場では、水素が充満するのを防ぐために窒素を注入してるそうです。ってことは、一号機の冷却はうまくいってない、ということです。もしかしたら、海水からの塩分の沈殿物が、水の循環系をブロックしてるのかもしれません。皆さん、このことを踏まえて、「最悪の事態」はどんなものであると考えてますか?

GB: これについては、私ども、数日前に書いた記事でも触れました(http://www.nature.com/news/2011/110405/full/news.2011.211.html)。基本的には、もし冷却系統がだめになってたとしたら、燃料棒がいくらか、またはすべて溶解して流れ出して、下のコンクリートのおわん状になっているところにたまっている、という可能性はあるわけです。もしこのケースが本当なら、汚染の浄化は、かなり長くかかりますし、コストもかなり高くつきます。

あと、もうひとつ、一過性ではありますが、エネルギーの高く出る核分裂がまだ続いている、という可能性は否定できません。それに、炉心が、また本来の核分裂を始めてしまう、という可能性も、まったくないわけではありません。こうなると、放射能の拡散という面からも、事故の処理、という面からも、大きな問題です。でも、いまわかる範囲では、そのようなことが起こっている確率はほとんど無いです。さっきも申しましたように、状況は、今のところは安定しているようです。

GB: あ、もうちょっと正確に申し上げたほうが良いですね。実際に炉心で何が起こっているのかは、現在は完全にはわかっていません。でも、いまのところは、「状態は安定しているように見受けられる」ということです。

JS: ここは、Geoffに任せます。

Yuriからのコメント: 福島とチェルノブイリを比較して、似てるところ、違うところ、などの解説をお願いしあす。特に、放射性物質の土壌や海への拡散について。

BO: Jim、あなたはチェルノブイリについての本書きましたよね。

JS: チェルノブイリは、海にはほとんど影響を及ぼしませんでした。チェルノブイリからは遠いバルト海と黒海に放射能が観測されましたが、ほんの少しでした。福島では、海への影響は大きな問題です。陸での拡散と沈着は、チェルノブイリと福島、類似点があります。ヨウ素とセシウムが問題なのは共通してます。ただ、チェルノブイリの場合は、最初の爆発で、燃料棒そのものの破片が、だいたい10キロ以内の地域に飛び散りました。だから、チェルノブイリ近辺では、プルトニウムやストロンチウムなど、セシウムやヨウ素と比べるとかなり揮発性の低い放射性元素での汚染が起こりました。

Brendanからのコメント: 今、残った燃料棒を、福島原発から、どこかもっと安定した長期的に保管できる施設に移動するという計画はあるんでしょうか?というか、そんな施設なんてあるんでしょうか?それとも、燃料棒は、今の場所でずっと保管されるんでしょうか?

GB: なかなかいい質問ですね。私は燃料棒を移動させるという話は聞いてません。でも、今現在、燃料は、地震や津波の危険にさらされているわけですから、どこかに移動させるというのは、考えに入れておくべき選択肢だと思います。でも現実的に考えて、燃料の移動が出来るようになるのは、何年も先の話です。まずは燃料が完全に冷却されないとできないので。

Adam Fからのコメント: チェルノブイリでは、炉心をコンクリート詰めにしましたよね。コンクリート詰めの良い点と、あと問題は、何ですか?福島で応用できますか?

GB: 私、ついこの前だれかとこの話しました。原発サイズの、巨大なコンクリート詰めのかたまりの問題点は、それが、その場所で、数十年、もしくは一世紀ほども管理されなければならない、ということです。福島あたりの、地震やその他のリスクのことを考えると、コンクリート詰めにするのは、問題が多すぎるんじゃないかと思います。Jim、どう思います?

JS: 私も同感です。あと、いったんコンクリート詰めを始めると、完全に廃炉にするのが難しくなりますね。

Howardからのコメント: 「Neutron beam」が観測されて、それが、燃料棒で核分裂が起こってることの証拠ではないかと報道されてますよね。中性子が放出されると、最悪の事態では、どんなことになりますか?最悪を回避するには?

GB: ああ、ミステリアスな「Neutron beam」の質問が出てきましたねえ。これは、絶対に翻訳ミスの問題だと思います。日本の当事者は、「Neutron burst」のことを言っているんだと思いますよ。あと、私が話した大多数の物理屋さんは、Neutron beamの可能性は否定してます。理由は以下の3つです。(1)中性子の観測は、とても難しい、(2)レポートされた値はかなり低くて、現在かなり高いガンマ線からのノイズともとれる、(3)ここでNeutron beamが出ている、というのは、ぜんぜんつじつまが合わないんです。観測点は、建物からかなり離れてました。そもそも、中性子が炉心を保護してる入れ物から遠くまで放出されてくる、ということは、考えられません。

とは言っても、燃料棒そのものですでに起こった核分裂からの中性子はあります。そういう意味では、燃料棒そのものはまだ危険です。

JS: もし今現在でも核分裂が起こってるとしたら、モニターされてる大気と水に、半減期のとても短い核分裂で生成される同位体が出てくるはずです。私はそういうものが観測された、というレポートは聞いてません。

(訳者ETA: 下のコメント欄でKoichi Moriさんから指摘のあったとおり、この”Neutron beam”のもともとの話は、4月1日にNature Blog(リンクこちら)でもレポートされています。)

Aya Diabからのコメント: Jim、この事故によって、「新しい核の時代」の方向は、どう変わっていくと思いますか?

JS: いい質問ですね。私としては、まだ、このことを考えるのは、ちょっと早いと思います。はっきり言って、まだ事故の収束のめどが立っていないうちに政治家たちがこの話をし始めたのには、びっくりしてます。でも、私の「現時点で」の考えを言わせていただきますね。私は、環境科学者ですが、20年もチェルノブイリの研究をしてきて、そしてこの福島の事故を経験した今でも、原発賛成派です。私は、すくなくともあと数十年は、原発と、その他の再生可能なエネルギー源を組み合わせることで、二酸化炭素の生成をなるべく抑えて電力を供給しているべきだと思いますし、それが、核原料(ウランとプルトニウム)が平和のみに利用されることにつながるとも思います。

Part 4

英語圏の総合科学誌「ネイチャー」の福島原発事故Q&Aの日本語訳(Part 2)

今日、米国東海岸時間で11時頃から、英米で主に編集されてる(出版は英国)総合科学誌の「ネイチャー」が、オンラインで福島原発事故に関するQ&Aを行いました。「ネイチャー」誌は、事故発生当時から、ブログやオンラインの紙面で、事故そのものや、それに関する現地測定のデータ、さまざまな国のさまざまな機関によるモデル試算の結果、日本や国際の関連機関のプレスリリースなどを、地道に報道してきました。それらは、こちらにまとめられています。⇒ http://www.nature.com/news/specials/japanquake/index.html

「ネイチャー」誌は、事故当初から、「総合科学誌」としての立場から、客観的に、刻々とレポートされてくる数値と過去の例(チェルノブイリなど)に基づく報道や社説を出してきています。記事は、科学に基づいてはいますが、科学者のためだけではなく、一般の人のために書かれています。このQ&Aは、「ネイチャー」側が読者の質問に答えているわけですが、質問はモデレーターにチェックされてからチャットに出てくるようになっていたので、筋の通った、読みやすいQ&Aになっています。原文のチャットは、ここです。⇒ http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2011/04/japans_nuclear_disaster_live_q.html?WT.mc_id=TWT_NatureNews

(Part 1はここです。)

Q&Aの訳(Part 2)

Senkei Umeharaからのコメント: 皆さん、日本以外の国の人たちは、主にどこから原発事故の情報を入れてますか?僕は東京に住んでるんですけど、まあ、外国のプレスも記者会見に来ているというのは聞きましたが、はたして頻繁に情報がアップデートされてるのかなあ、と思って。

GB: 日本の機関は、資料の英訳などもふくめて、かなり良くやってると思いますよ。あと、ここ2-3日からは、枝野官房長官の記者会見が、英語でウェブキャストされてます。だから、一次情報は十分あります。まあ、その一次情報が信頼できるものなのかどうか、というのは問題なんですが。

BO: さて、食べ物と牛乳の安全性についての質問がかなり来てます。Jim?

JS: さっきも渡航についての質問で答えたように、私としては、現在、日本で、食べたり飲んだりすることによって被曝するリスクは、かなり低いと思います。それに、日本政府は、一生懸命、汚染された食品が市場に出回らないようにしています。地震と津波の被害の対策も平行してやっていかなきゃならない中で、食品の規制もやっていかなきゃならないので、大変だとおもいますよ。もちろん、規制のレベル以上に汚染された食品が「絶対に」市場にでない、ということは、言い切れないと思います。でも、ここで強調したいには、たとえ汚染された食品を口にしてしまったとしても、それによるリスクは、とても低い、ということです。規制のレベルは、「その食品を長期間にかけて、何度も口にする」という前提で決められてますから、もし、規制レベル以上の食品をたまたま口にしてしまったとしても、その一回だけでは、問題にはならないでしょう。

Drew Wrightからのコメント:この事故を踏まえて、これから、原発のデザインは、どう変わっていけばよいと思いますか?特に地震多発地域で。

GB: 最近設計された原発の多くは、「受動的安全設計」になってるはずです。これは、もし制御室が完全に破壊されてしまうようなことがあったとしても、炉心の冷却は止まらない、ということです。

わたしとしては、それよりもっと問題なのは、どうやったら今現在ある原発をより安全なものに出来るか、ということだと思います。福島第一の場合、予備のデイーゼル発電機が海岸に近かったのは問題でした。世界中の原発の管理機関が、予備システムを改良していく余地があるか、検討していくと思いますよ。

Lizzieからのコメント: 外部被曝と内部被曝(魚や海草をたべたりして)による影響には、違いはありますか?

JS: 一番の違いは、もし汚染物を食べたら、放射能が体内にある期間滞在する、ということでしょう。リスクの基準の計算には、このことが考慮されてます。たとえば、137Csは、体から、いくらかの期間をかけてゆっくり排出されます。131Iの場合はかなり早く排出されます。体の内部が放射線に当たるほうが、外部からの被曝よりリスクが高い、と考えている人もいるようなのですが、これは、違うと思います。「体内」と「体外」の放射能は、基本的には違いは無いのです。体外からのX線やガンマ線も、体内に入ってしまった放射能物質も、同じように体の細胞の電子にエネルギーを与えます。この、エネルギーの高くなった電子が、DNAを破壊したり、細胞を癌にしたりする可能性をもっているわけで、放射能が外から来たか、中から来たかは、関係ありません。

Chinju Parkからのコメント: もし環境の浄化に何十年もかかるんだったら、放射能物質の拡散も、これから何十年も続いていくということですか?

GB: Jimもこれについては意見があると思うけど、まず私から。結論から言えば、これはノー、です。放射能物質の拡散が何十年も続いていくことはないでしょう。第一に、炉心の燃料は、これから数年かけて、どんどん冷えていきます。ということは、危険度もどんどん下がっていくわけです。それに、現場の技術者が、放射能物質の拡散を抑える方法を、考えて、実施していくでしょう。たとえば、東電は、いま、放射性の土や塵が拡散するのを抑えるために、ポリマーをスプレーしてます。

でも、だからといって、放射性物質のどっとした量の放出が、もう絶対に起こらない、とは言えません。でも、全体的には、現地での放射線の量は、下がっていく方向でしょう。

Jim: 137Csは土壌にかなり長い間とどまります。(半減期は30年です。)大量に拡散するものではありませんが、ごく少量が風と降水によって拡散します。炉心は、今以前よりはずっと安定しているので(Hopefully!)、土壌の問題は、今現在もう拡散されてしまった放射能だけで、これからさらにもっと放射能物質が届くということは、ないでしょう。

(Part 3はこちら

英語圏の総合科学誌「ネイチャー」の福島原発事故Q&Aの日本語訳(Part 1)

今日、米国東海岸時間で11時頃から、英米で主に編集されてる(出版は英国)総合科学誌の「ネイチャー」が、オンラインで福島原発事故に関するQ&Aを行いました。「ネイチャー」誌は、事故発生当時から、ブログやオンラインの紙面で、事故そのものや、それに関する現地測定のデータ、さまざまな国のさまざまな機関によるモデル試算の結果、日本や国際の関連機関のプレスリリースなどを、地道に報道してきました。それらは、こちらにまとめられています。⇒ http://www.nature.com/news/specials/japanquake/index.html

「ネイチャー」誌は、事故当初から、「総合科学誌」としての立場から、客観的に、刻々とレポートされてくる数値と過去の例(チェルノブイリなど)に基づく報道や社説を出してきています。記事は、科学に基づいてはいますが、科学者のためだけではなく、一般の人のために書かれています。このQ&Aは、「ネイチャー」側が読者の質問に答えているわけですが、質問はモデレーターにチェックされてからチャットに出てくるようになっていたので、筋の通った、読みやすいQ&Aになっています。原文のチャットは、ここです。⇒ http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2011/04/japans_nuclear_disaster_live_q.html?WT.mc_id=TWT_NatureNews

Q&Aの訳(Part 1)

Brian Owens: こんにちは。福島原発の事故のQ&Aへようこそ。University of Portsmouthの環境物理学者のJim Smithと、Nature誌の自然科学論説員のGeoff Brumfielが皆さんの質問に答えます。

BO: さっそく始めましょう。まず、お嬢さんが日本で留学してる人と、あと、韓国へ行く予定の人から、日本への渡航の安全についての質問が来てます。

JS: 日本以外の国への渡航には、放射線によるリスクはありません。飛行中に宇宙線から受ける放射線のほうが、福島のせいによる放射線より高いでしょう。日本国内そのものでも、福島からの放射線をあびてしまうというリスクはかなり低いです。なぜかというと、(1)放射能汚染された食べ物は、流通ストップされてる、(2)40-50キロメートルより外の地域では、福島原発から飛んできた放射線物質はごくわずか、(3)水系に混ざっている放射性のヨウ素はさっさと崩壊していて、あと数週間で事実上なしになります。というわけで、わたしとしては、放射線よりは、震災と原発事故によるインフラやサービスが滞っていることや、人々が普通の心理状態じゃない、ということのほうが、日本への渡航の際には問題になってくると思います。

BO: ありがとう。ナーバスになってる旅行者には安心してもらえるかな?ではGeoff、「台風や地震のたびたび来る地域で、汚染された水(核燃料の冷却水)を安全に保管する方法はあるんでしょうか?冷却水の汚染のリークがひどくなりすぎて、もうこれ以上は水冷できない、というようなことになってしまうようなことはあるんでしょうか?」という質問がPeggyさんから来てます。

GB: うーん、これは「Million-dollar questions」(百万ドルあったら実際に解決できる、というたとえ)ですねえ。残念ながら、いまのところは誰も確かなことはわからない状態だと思います。当面は、現場の技術者たちは、いまあるタンクに、高濃度に汚染された冷却水を保管する計画です。そのために、今までそのタンクに入ってた、低レベルの汚染水を太平洋に流し出してます。このタンクは、先月の地震と津波でダメージ受けなかったわけですから、とりあえずは台風と地震が来ても大丈夫、と言えると思います。でも、もともとは高レベルの汚染水を入れるようにデザインされてはないですから、その意味では、とりあえずはよしとしても、長期的な解決策ではありません。

GB: そして2つ目の質問ですが、汚染水のリークが今後悪化してしまうかどうか、っていうのは、予測しかねます。というのは、原発の中のダメージの状態がどの程度のものなのか、いまのところわかってないからです。今現在では、東京電力は二号機のところのいちばんひどかったリークは止めたんですが、他のリークの可能性は否定してません。でも、一応言っておきたいのは、この10日間ほどは、原発の内部の状態は、まあまあ安定しているようです、ということです。

Zoeyからのコメント: 海水の137Csや131Iのレベルが、いまのところかなり高いにもかかわらず、海ですぐに薄められるから大丈夫、と聞きました。これは本当でしょうか?近隣国への影響は?

JS: はい、たしかに、海洋では、放射能はかなり薄められます。もし仮に(ホントに仮に、です)、海水中の汚染物質が海を渡って他国へ届いたとしても、リスクがないレベルまで薄められています。だから、海洋の汚染の問題は、福島の海岸沿いに限られた問題です。

GB: あと、フランスの機関がIAEAにモデル試算の結果を提出してますが、ご質問の直接の答えにはなってませんが、まあ、福島から放出された物質がどのように拡散していくかの参考にはなると思います。http://sirocco.omp.obs-mip.fr/outils/Symphonie/Produits/Japan/SymphoniePreviJapan.htm

Sonny Trenchからのコメント:でも、汚染された魚が海を渡りませんか?

BO: いい質問ですねえ。私も答えが知りたいです。Jim?

JS: ええ、たしかに良い質問です。私は原発の地域にどんな種類の魚が生息してて、どの程度の距離を渡るのか、わからないんですが、もし、魚が汚染された地域にかなり長い間いたら(放射能物質が海の食物連鎖をつたって魚にたどりつくまでにはいくらか時間がかかります)、魚も汚染されるでしょう。海を渡っていくあいだに、そのいくらかは、排泄と同位体の崩壊によって減っていきます。でも、137Csはいくらかは残るでしょうねえ。もし福島近辺に遠洋まで海を渡る種類の魚が生息してるんだったら、モニターする必要があると思います。

Madgdeline Lumからのコメント: 福島は、いつまでこのような状態が続くのでしょう?大手のメディアは最初の頃はまるで映画みたいに報道してて、でもって、いまだに終わりが見えないので、どうしていいかわからない、という感じなんですが。

GB: どうしていいかわからない、と感じてるのはメディアだけじゃないと思いますよ。原発は、まだ予測のつかない状況だし、次にどうすればよいのか、決断するのはかなり難しい状況です。今現在言えるのは、福島の状況は、終息するまでにはまだ何年もかかる、ということです。まずは、全部の炉心そのものを、コントロール出来る状態まで持っていかないとなりません。でも、それが達成できた後、汚染を浄化しなければいかません。これは、かなり大変なプロセスです。

GB: 私、今日、1957年に起こった英国のWindscaleの事故のことをおさらいしてみたんですが、いまだに汚染の浄化除去、続いてるんです。スリーマイル島の汚染をきれいにするのには14年かかりました。福島原発近辺の環境を浄化するのには、何十年もかかると思います。

JS: 魚の話に戻りますが、チェルノブイリのあと、渡り鳥がモニターされました。確か、渡り鳥に限っていえば、食物連鎖系に放射能汚染が見られる、という問題はありませんでした。

(Part 2はこちら

Post Navigation

  • Privacy
  • Design a site like this with WordPress.com
    Get started