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「Country Digital Acceleration」プログラム責任者に聞く

各国のデジタル政策とDX加速を支援 シスコ「CDA」6年目の日本は新たな段階に

2025年11月13日 09時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 シスコシステムズが各国のデジタル政策を支援し、DXを加速させるためにグローバルで展開する「Country Digital Acceleration(CDA)」プログラム。日本では2019年にローンチされ、今年で6周年を迎える。

シスコ「Country Digital Acceleration(CDA)」プログラムのWebサイト

 日本では2022年から第2ラウンドの取り組みが進められてきたが、今年からは第3ラウンドとして、新たにAIとサイバーセキュリティの分野を強化し、NICT(情報通信研究機構)との覚書(MCU)も拡大した。ヘルスケアのデジタル化、高齢化社会への対応、持続可能性への取り組みなど、日本固有の課題解決に向けた投資も継続しているという。

 来日したCDA担当幹部のガイ・ディードリック氏に、第3ラウンドの新たな戦略と、日本市場での展望について聞いた。

米Cisco Systems SVP 兼 グローバルイノベーションオフィサーのガイ・ディードリック(Guy Diedrich)氏

幅広い社会分野のデジタル化を推進、次は「AI」「セキュリティ」もターゲットに

――日本でのCDAプログラムは「第3ラウンド」に入ったとのこと。具体的な内容について教えてください。

ディードリック氏:これまでCDAでは、第1ラウンド、第2ラウンドともに3年程度の期間を設けて、デジタルの側面から教育、行政、サステナビリティなどに取り組んで来ました。たとえばサステナビリティでは、デジタル変電所、カーボンニュートラルの電力網プロジェクトなどがあります。

 今年から進める第3ラウンドでは、この取り組みにAIとセキュリティが加わります。そこでシスコでは、NICTとの覚書を再締結しました。

 新たな取り組みではありませんが、ヘルスケアや高齢化社会にまつわる問題の解決も重要なフォーカスです。大阪万博に合わせて、医療関係者を集めた「Cisco Healthcare Day」というイベントも開催しました。

CDAプログラムでは、さまざまな社会分野のデジタルトランスフォーメーションを支援している(出典:Cisco)

 ちなみに今年は、日本で「シスコネットワーキングアカデミー」 ※注をスタートしてから25周年に当たります。シスコが日本市場において、さまざまな面から取り組みを続けてきたことを実感しています。

※注:将来のITエンジニアを育成するために、シスコが教育機関、政府機関、各種団体と共に提供するトレーニングプログラム。1997年にスタートし、世界180カ国以上に展開している。

――CDAはどのような体制で運用されているのでしょうか。投資分野はどう決定し、成果をどのように測定しているのでしょうか?

ディードリック氏:CDAは、各国のシスコによる取り組みです。つまり、すべてをサンノゼ(米シスコ本社)が運営しているのではなく、日本のCDAは日本で運営しています。そのため、日本のチームは日本社会の優先事項に基づいて動きます。日本でCDAがスタートして以来、35以上のプロジェクトを実施し、ここまでで22のプロジェクトが完了しました。そして現在、およそ12のプロジェクトが進行中です。

 投資分野や優先順位は我々が決めるというより、各国の政府や顧客が我々に教えてくれます。やり取りを通じて出てきた課題について、われわれは各国のパートナーとともに取り組みます。

 各プロジェクトの成果は、定めた目標の達成度から評価します。加えて、そのプロジェクトに拡張性があるか、ほかの場所でも再現性があるかどうかも見ます。具体的な成果指標としては、「GDPの成長に貢献しているか」「次世代の雇用を創出するか」「持続可能なイノベーション・エコシステムに貢献しているか」の3分野を見ています。

――CDAで展開するプロジェクトに傾向はありますか?

ディードリック氏:やはりセキュリティとAIが大きなトレンドです。例えば、AIを活用してデータセンターの運用を効率化するAI駆動のデータセンター、エネルギー消費の低減などに関心が集まっています。こうしたトレンドは、グローバルでも日本でも同じと言えます。

スキル人材の不足は世界的な課題、「トレーニングが進化に追いついていない」

――NICTと再締結した覚書について、その意義や具体的な内容を教えてください。

ディードリック氏:NICTとシスコは互いに素晴らしいパートナーであるだけでなく、日本の企業や人々に提供する価値という点でも良好な関係を構築しています。新たな覚書は、すでに共同展開してきた取り組みの範囲を拡張するものです。

 これまでの覚書では、サイバーセキュリティ分野を中心に人材交流、情報共有などに取り組んできました。今回はそれをAIセキュリティにも拡大し、人材交流、専門知識と情報の共有、そしてサイバーセキュリティとの共同研究も進めます。そこでは、シスコのネットワーキングアカデミーを含むプログラムとNICTのプログラムが共に研究をする機会などを想定しています。

 日本におけるシスコネットワーキングアカデミーの学生数は、この1年間で22%も増加し、これまでトレーニングを受けた人は累計13万人を突破しています。そして、そのうちの17%が女性です。2024年に日本でサイバーセキュリティのCoE(センターオブエクセレンス)を開設した際には、さらに10万人にトレーニングを提供するという目標を発表しました。目標達成に向けて、取り組みは順調に進んでいます。

――日本ではAI人材、セキュリティ人材の不足が強く指摘されています。グローバルの状況と比較して、どう見ていますか?

ディードリック氏:この分野の人材不足は、日本固有の問題ではありません。世界を見渡すと、サイバーセキュリティの仕事が約450万件、募集中のまま(充足できていない状態)です。これは「人材トレーニングが進化の速度に追いついていない」問題だと言えます。

 同時に、AIが急速に能力を高めているため、フロントエンドの仕事や定型的/反復的な仕事の多くが、(人ではなく)AIに引き継がれるでしょう。そのため、今後開発されるスキルは「市場から必要とされる分野」でなければなりません。

 シスコでも経験していることですが、標準的な職務記述書(ジョブディスクリプション)はもはや“時代遅れ”になっていくでしょう。

 われわれは「ワークフローアプローチ」をとっています。すべての仕事に人間の要素(人間が果たすべき役割)、AIの要素があります。さらに今後はロボティクスの要素、ヒューマノイドの要素、さらには量子コンピューティングの要素なども入ってくるでしょう。こうしたすべての要素が、ワークフローを通じてシームレスに連携するという考え方です。

 世界経済フォーラムの予測では、AIやその他の技術がもたらす影響で、2030年までにおよそ9200万人の雇用が失われます。ただし、同時におよそ1億7000万人の新規雇用が創出されるとも予測しています。

 デジタル化によって雇用が失われる人々をリスキリング、アップスキリングして、これから必要とされる仕事に貢献できるようにすることが、わたしたちの責務だと考えます。イノベーションの速度に合わせたスキル開発、トレーニングが必要なのです。

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