任天堂は、これまで反目する商売敵と見られていたディー・エヌ・エー(DeNA)と業務・資本提携をし、共同でスマートデバイス向けゲーム開発などに乗り出す。17日、突然の発表は驚きをもって即座に伝わった。株式市場も敏感に反応、翌18日は両社ともストップ高まで買われ、関連銘柄の連想買いも進んだ。これまで商品で「驚き」を世間に与えてきた任天堂にとって、こういった形での驚きの演出は珍しい。
 なぜ、今なのか。なぜ、DeNAなのか。任天堂の岩田聡社長が日経ビジネスの単独インタビューに応じ、会見では輪郭しか見えてこなかった提携の背景や狙いを存分に語った。(聞き手は井上理)

家庭用のゲーム専用機(コンソール)業界の雄である任天堂が、ソーシャルゲーム業界のDeNAと手を組むという意外性に、世間は驚きました。

岩田:まあ、世の中的にはあまり縁がないと思われていたでしょうね。価値観が非常に違って、合わないのではないかと思われがちな組み合わせで意外でしょうし、岩田はあんなにスマートデバイス向けゲームを「やらない」と言っていたのにやるのか、ということもそうでしょうし。いろいろな観点で世の中の人たちが、このタイミングで、こういう形で、こうきたかと、そんな発表だったのかなと思います。

DeNAとの提携発表を終え、インタビューに応じた任天堂の岩田聡社長(撮影:小倉正嗣、以下同)

「問題が解決しないまま出ていくのは無責任」

まずお伺いしたいのは、まさに「なぜ今なのか」というタイミングの話です。会見でも「遅すぎるのではないか」という質問が出ていました。

岩田:この数年で、環境が大きく変わりました。お客さんと社会との接点として、かつてはテレビが一番効果的な手段でしたが、世代によってはスマートデバイスが一番効果的になったりしたわけですよね。私たちは、より多くの方々に我々が作ったものを楽しんでいただけたらいいなと思っているので、これだけの変化があった時、当然、スマートデバイスの活用というのも考えるわけです。

 ただ一方で、スマートデバイスってやり方を間違えると、非常に大きなリスクを抱えることにもなる。

岩田:我々が慎重な姿勢を崩さなかったのも、その問題が解決しないまま出ていくのは、まったくもって無責任だと思ったからです。30年かけて積み上げてきた知的財産権(IP)の価値を毀損してどうすると思っていましたから。

 ですが、IPの価値を毀損せず、かつ、お客様と折り合いがつく形で、ようやく我々のよい面を受け入れていただける時が来た、と思っているんですね。「遅すぎる」というご指摘がありましたけど、私は、いや、実は時が来たんだ、と。遅すぎたかどうかは、たぶん後世の人がご判断なされることなんだろうなと思います。

2010年頃からソーシャルゲームはものすごい勢いで急成長を遂げましたが、青少年が何万円もつぎ込んでしまう「射幸心」が問題視され、2012年から失速していきました。代わりに、広く浅く、緩やかな課金を得るタイプのゲームアプリが台頭し、今に至ります。そうした環境の変化も大きな要因だと。

岩田:そうですね。子供さんに安心して遊んでいただくことを考えると、これまでのスマートデバイス向けゲームには、いくつかの課題があったことは事実です。それから、非常に少数の割合の方から、ものすごく高い課金をしてもらうというビジネスモデルは、実は世界全体では日本を始めとするごく一部の国でしか機能していない。

 一方で、同じ「(無料で始められ、後から追加課金をする)フリー・トゥ・スタート」のゲームでも、リーズナブルな範囲であれば海外でも受け入れられる土壌ができてきました。ゲームの形態も、スマートデバイスの進化にともなって「ウェブベース(ブラウザゲーム)」から「アプリ」へと移行し、触り心地であるとか、クオリティーという部分で、我々の強みが発揮できるような状況になってきました。

 それから我々は、自分たちが決して強みとしていない部分を補ってくれる、補完関係のあるパートナーも得ることができました。

「焦っても絶対の勝算にはならない」

それが、DeNAだったと。一見、水と油、相反するように見えるが、それだけ補完関係にあるというということですね。

岩田:よく、どんな会社さんも協業する時は「シナジーを」「相乗効果を」とおっしゃるんですけれど、いやこれ、強みが重なっているんですけど、どうするんですか、という事例もすごく多いですよね。しかし、任天堂とDeNAさんは、本当にお互いの強みが違う。

 2社のこれまでの道のりは、当然違うわけですけれども、ただ、その結果、別々の強みが鍛えられた。手を組むことで、自分たちだけではできないことができるという意味で、非常に面白い組み合わせが実現したなという手応えを感じているところです。

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