資金と人材で大学発の壁を越える 東北大学MASPが挑むディープテック支援の現場
ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:東北アカデミア発ディープテックピッチ
提供: MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
東北・新潟の大学や高専から生まれる研究成果を、社会の課題解決へと橋渡しする――。その挑戦の旗振り役となっているのが、東北大学が主幹する「みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム(MASP)」だ。ASCII START TechDay 2025(以下、TechDay)のセッション「東北アカデミア発ディープテックピッチ」では、MASPの支援を受ける研究室が登壇し、次の時代をつくるディープテックの種を披露する。同プラットフォームの全体像と取り組みについて、東北大学 産学連携機構スタートアップ事業化センターの高橋秀志氏と北村友一氏にお話を伺った。
東北・新潟24校が挑む“Deep-tech & Diverse”なエコシステムづくり
全国には大学発スタートアップ育成のための地域プラットフォームがあり、北海道の「HSFC」、首都圏の「GTIE」などが知られている。その東北版が「みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム(MASP)」だ。東北大学スタートアップ事業化センターでは、スタートアップの創出や研究シーズの事業化を支援しており、MASPもその一環として運営されている。
「東北・新潟地域の大学および高専の24校が参加しています。“Deep-tech & Diverse”をテーマに、東北・新潟を課題先進地域から課題解決先進地域へ。世界を変革していくスタートアップエコシステムの構築を目指しています」(北村氏)
中核となる「みちのくGAPファンド」
MASPの中心的プログラムが「みちのくGAPファンド」だ。研究シーズの事業化を目指す研究者を対象に、資金支援と伴走支援を行っている。
北村氏によると、2021年度に始まったMASPのGAPファンドプログラムに採択されたプロジェクトの中からこれまでに10社のスタートアップが立ち上がったという。採択分野は工学、バイオ、IT、ライフサイエンスなど幅広い。
また高橋氏は、「2021年から3年半で10社の創出は少ないと思われるかもしれませんが、MASPはステップ1とステップ2のプログラムがあり、ステップ1が1年間、ステップ2は2〜3年の複数年度です。大半の採択者がまだプログラム中なので、これから増えていく見込みです」と説明する。
全県の高専が参画。若手人材の厚みをつくる
他地域のプラットフォームでも高専が参加する事例はあるが、東北6県すべての高専が入っているのは珍しい。
高橋氏は「いくつかの高専発のプロジェクトが採択されていますが非常にやる気と実績がある皆さんに参加していただいており、地域全体で若手人材の層を厚くしていく動きになっています」と語る。
資金+伴走支援で、研究を事業へ導く
MASPでは、研究シーズの事業化に向けた支援として「みちのくGAPファンド」を設けている。資金提供に加え、研究者を支える伴走支援が充実しているのが特徴だ。
このプログラムでは、研究開発の事業性検証を行うための資金として、ステップ1では医療・創薬枠500万円、モノづくり・Deep-Tech枠500万円、ソーシャル200万円を設定。ステップ2では医療・創薬枠とモノづくり・Deep-Tech枠がそれぞれ6000万円と、段階的な支援が受けられる仕組みになっている。
資金支援にとどまらず、研究者に対してはメンタリングや経営人材(CXO)とのマッチングも行われている。また、「MASPスタートアップアカデミー」では、ファイナンスやチームビルディング、事業性検証の方法など、起業に必要な知識を体系的に学べる環境を整備。研究者が事業化へ踏み出すための実践的なプログラムが用意されている。
研究者が経営者になることの課題に向き合う
大学発スタートアップでは、研究者が自ら経営を担うケースが少なくない。しかし、経営知識や経験を持たないまま代表を務めることで、事業運営が停滞したり、研究が中断してしまうといった課題も生じていた。
こうした問題を解消するため、東北大学では研究者が代表権を持たず、外部の経営人材とチームを組む体制を基本としている。
高橋氏は、「チームによりますが、初期においては技術面のバックボーンを先生にしていただき、ビジネスの観点は外部の人に入っていただくイメージです。起業後は研究者が単独で代表になることはほぼなく、外部の方が代表権を持って経営にあたります」と説明する。
この仕組みの背景には、「研究を止めない」という考え方がある。研究者はCTOや技術顧問として関与しながら専門を継続し、経営は経験豊富な外部人材が担う。
一方で、地方では経営人材の数自体が限られており、実際にフルコミットできる人材を見つけるのは容易ではない。
「CXOマッチングの仕組みを作っても簡単にはいきません。生まれたばかりのスタートアップに経営人材がフルコミットしてくれることは決して多くない。首都圏以外の地域では、スタートアップの経営人材も少ないのが現状です」(高橋氏)
「EIR制度」で経営人材を呼び込む
MASPでは、人材不足を補う取り組みとして、EIR(客員起業家)制度を導入している。大学やVCが経営人材を招き、組織の中で起業準備を進められるように支援し、スタートアップ創出を加速するという仕組みだ。
「いわゆる『EIR』と呼ばれる客員起業家が大学やVCに一定期間所属し、組織のネットワークを活用してもらいながら、経営者候補として我々が支援している研究プロジェクトやスタートアップの事業化を進めていただく取組を行っています。(高橋氏)
また、起業を目指す研究者が増加傾向にある一方で、経営者候補とのマッチングの難しさも指摘されるが、東北大学では柔軟性のある仕組みを整えることで状況が変わりつつある。
「東北大学では、EIRに客員の称号を付与することで、自律的にかつ柔軟に学内での活動ができる環境づくりを目指しています。研究者と経営人材とのマッチングの難しさもありますが、MASPの取組を通じて経営人材のデータベースを構築したり、首都圏でのイベント開催を実施して研究者との接点を増やす機会を創出したりすることで、地方への人材の流れが少しずつできてきていると感じます」(高橋氏)
TechDayでは、協業・投資・人材の出会いを目指す
今回のTechDayピッチセッションでは、東北大学・秋田工業高等専門学校をはじめ、MASPから3つの研究室が登壇する。目的は、協業や投資、人材など、さまざまな関係者との接点を広げることだ。
「今回のピッチの目的は3つあります。1つは事業面での協業。何かを売るというより、一緒にビジネスを考えていただける連携先を探す段階です。2つ目は資金調達。3つ目はいわゆる人材です。今回はまだ起業前なので、スタッフを募集しているわけではありませんが、関心を持っていただける方がいれば、早い段階から接点を持ち、スタートアップしたときに参画していただけるとうれしいです」と高橋氏。
今回のセッションでは、北村氏によるMASPの取り組み紹介ピッチも予定されている。東北地方には、まだ社会に知られていない研究シーズや技術の原石が数多く眠っている。それらと出会える絶好の機会をお見逃しなく!
2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、14時45分開始セッション「東北アカデミア発ディープテックピッチ ~技術シーズの社会実装へ~」にて、みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム(MASP)の支援を受ける、研究者が登壇し、次の世界をつくるための第一歩となる発表を行ないます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。
「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要
▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)
【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
【入場方法】事前登録制(入場無料)
18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/
※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)


































