フランスの高級スパークリングワイン、シャンパーニュには、天候に恵まれた年に収穫したブドウだけから造る「ヴィンテージ・シャンパーニュ」と、異なる年のワインをブレンドして造る「ノンヴィンテージ・シャンパーニュ」とがある。これらに加え、最近注目を浴びつつあるのが、第3のヴィンテージとも言える「マルチヴィンテージ・シャンパーニュ」だ。
「これは21世紀のシャンパーニュだ」

ルイ・ロデレールのジャン・バティスト・レカイヨンさん
2023年10月中旬、シャンパーニュの著名生産者ルイ・ロデレールの副社長兼醸造責任者ジャン・バティスト・レカイヨンさんが来日し、東京都内でメディア向けセミナーを開いた。テーマはずばり「マルチヴィンテージ」。その魅力を熱く語る中で出たのが、このセリフ「これは21世紀のシャンパーニュだ」だった。
ルイ・ロデレールは21年、安定した人気を誇っていたノンヴィンテージ・シリーズ「ブリュット・プルミエ」の生産を中止し、同年からマルチヴィンテージ・シリーズ「コレクション」の販売を始めると発表した。
マルチヴィンテージとは文字通り、マルチ(複数)のヴィンテージ(収穫年)のワインをブレンドして造ったシャンパーニュ。だが、これだとノンヴィンテージと変わらない。何が違うのか。
レカイヨンさんによれば、一番の違いは「テロワールの尊重」だ。テロワールとは一般に、ブドウの生育に影響を与える気候や地形、土壌などの自然環境全体を指す。例えば、「唯一無二のテロワールから唯一無二の味わいのワインが生まれる」というような使われ方をするが、マーケティングに便利な言葉であるため、乱用されるきらいがある。しかし、マルチヴィンテージを説明するには非常に的を射た言葉だ。「40〜50年前は、シャンパーニュ地方では誰もテロワールなんて口にしなかった」とレカイヨンさんは言う。
シャンパーニュは今でもそうだが、もともと醸造家の「匠の技」に頼る部分が大きく、テロワールはどちらかと言えば二の次だった。その匠の技の象徴が、味わいの調整のために瓶詰め作業の最後に少量添加する「リキュール」と呼ばれる、ワインに砂糖を溶かした液体だ。
シャンパーニュの香りや口に含んだ時の味わいは、どんなリキュールを添加するかで、大きく変わる。例えば、古酒を使えば熟成感が出るし、砂糖を多めに入れればほのかに甘味が増す。まさに醸造家のさじ加減で味わいが左右されるわけだ。リキュールにはまた、年によるブドウの不出来を上手に隠す役割もある。冷涼でブドウが熟しにくいシャンパーニュ地方ならではの知恵だ。
伝統的なフランス料理は素材よりもソースで味が決まるとよく言われるが、それと共通するものがある。




















































