韓国の自動車メーカーである起亜(キア)が電気自動車(EV)のミニバン「PV5」を日本で初めて公開した。起亜は日本参入を決定済みで、2026年春にPV5の乗用モデルおよび商用モデルを発売予定。日本ではそれほど知名度の高くないキアだが、今回の日本参入には注目したい。
キアが日本に投入する電動ミニバン、どんなクルマ?
11月9日に閉幕したJMS2025には101万人が来場した。会場は往年の「東京モーターショー」の盛況を取り戻したかのように、国内外からさまざまなメーカーが注目のクルマを出展。その中で、筆者が「隠れ注目株」だと感じたのがキアの「PV5」だった。
キアの「PV5」は、韓国で2025年10月に発表されたばかりのモデル。ビジネスからレジャーまで、多用な用途に対応するために同社が初めて開発した「PBV」(プラットフォーム・ビヨンド・ヴィークル)シリーズの第1弾だ。
日本での販売では総合商社の双日と提携する。双日は100%出資で日本販売法人「Kia PBV Japan」を設立。2026年度に全国8店舗の専売ディーラーと100拠点のサービスセンターを開設する。
日本での販売は「カーゴ」「パッセンジャー」「WAV」(車椅子対応)の3タイプ。EVとしての性能は、カーゴモデルで容量71.2kWhのバッテリーを搭載し、最大528kmの航続距離を実現している。価格はカーゴモデルで589万円から、パッセンジャーモデルで679万円からだ。
アメリカで存在感を高めるキア、日本との関係は?
日本で韓国車といえば現代自動車(ヒョンデ)のイメージが強いが、そのヒョンデも日本市場攻略には苦戦している。キアは日本で成功できるだろうか?
実は、キアは「起亜自動車」と名乗っていた頃から日本と縁が深い。加えて、最近では米国市場でキアのブランド力が高まっている。今回、日本市場に投入するミニバンタイプのBEVも、日本車を含めて他にはない独自性から発売後の動向が注目される。
キアはマツダのオート三輪車のノックダウン(KD)生産から歩みを始めたという歴史を持つ。その後はマツダが1983年に資本参加し、さらにマツダとの関係から、米フォードが資本参加するという経緯をたどった。フォードの「フェスティバ」をキアが生産し、マツダが日本で販売したこともあった。
1989年、韓国メーカーとして初めて東京モーターショーに出展したのが当時の起亜自動車だった。その後は業績が悪化し、現代自動車が1999年に32.8%を出資。現在のキアは現代自グループの企業だ。
現代自グループは今や、世界3位の自動車メーカーグループに位置付けられている。日本市場の再攻略を図るヒョンデに続き、日本進出を果たすキアは「新たな黒船か」との見方もされている。
筆者が注目しているのは、キアが開発した「PVB」が単なる電動ミニバンではなく、「移動を超えたモビリティプラットフォーム」として設計され、フレキシブル・ボディ・システムという車体構造により、最大16バリエーションの展開が可能というところだ。車体をセル単位で組み替えることを可能とする設計思想で、配送車、乗用車、福祉車両、レジャー仕様など、多用な用途に対応できる。
もうひとつ、日本進出にあたりキアが総合商社の双日と組んでいるところも重要だ。双日は日本販売法人を設立し、販売とアフターサービスを受け持つことになる。JMS2025のキアのプレスブリーフィングには双日の藤本昌義会長が登場。日本でのPBV導入を積極推進することを強調した。
商社が自動車販売に携わるケースは海外では多いが、国内では極めてレアなケースだ。有名な例としては伊藤忠商事がヤナセの筆頭株主となっており、旧・ビッグモーターを買収して「ウィーカーズ」を展開している。
今回は旧・日商岩井の双日がキアの日本販売法人を設立し、日本国内に8店舗の販売会社と100のサービス拠点を2026年度中に展開する。日本でのブランドイメージが弱いキアをどれだけアピールし、実需に結びつけられるのか。双日の動きにも大いに注目したい。

















