現在、自動車業界は多様な技術革新のまっただ中にあり、安全性や快適性を追求する動きが強まると同時に、ますます電子化が進んでいる。一方で自動車が消費する電力の増大が課題として浮上してきた。そこで注目されるのが電源分配方式の刷新であり、従来の4倍相当にあたる48V電源の採用が広まる見通しになっているという。

「日本の自動車大手も2030年前後にまずは電気自動車(EV)から48V電源を導入してくるでしょう」と話すインフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 オートモーティブ事業本部の森下 正道 氏に、自動車各社における48V電源の採用に向けたInfineonの展望と事業戦略を伺った。

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    インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
    オートモーティブ事業本部 ヴィークルUX&E/Eアーキテクチャ
    アプリケーションマーケティング スタッフスペシャリスト
    森下 正道 氏

電子化が進むことによる課題の顕在化

近年、自動車の電子化が急速に進展している。電動ポンプや電動パワーステアリング(EPS)、ヒーター、ヘッドライトなどの電装品が増加したことで、ワイヤハーネス(電線)が複雑化し、車両重量の増加を招いているからだ。さらに、EV(電気自動車)やADAS(先進運転支援システム)、自動運転技術の台頭により、限られた電力を効率的に活用することも喫緊の課題となっている。

こうした際、従来からあるドメイン型の電力供給方式においては、照明や暖房などの機能ごとに電子制御装置(ECU)を配置し、12Vの電圧で個別に送電していた。1台の車両には20~30個のECUが搭載され、車両全体で300~400個のデバイスへの電力供給を制御している。しかし、ECU数の増加に伴い、電線の量と重量が増すだけでなく、ソフトウェアの更新が複雑化するという課題も浮き彫りになっている。

48V電源とともに注目される「ゾーン型アーキテクチャ」とは

こうした背景から、ボディ前部やボディ後部など、物理的な部分単位で周辺にある機能をまとめて制御するという「ゾーン型アーキテクチャ」に注目が集まっている。

「ゾーン型アーキテクチャを採用することにより、EPSや電動ブレーキ、ヘッドライトといった前方部分はひとつのゾーンとしてゾーンコントロールユニット(ZCU)1個で電源を供給することができます。また、ゾーン型にすると電線数を30~40%削減できるうえ、ECUの数も減らすことができ、ソフトウェアの更新も容易になります」(森下氏)

この電源供給アーキテクチャの変革と併行して進んでいるのが、本稿で主題となる12Vから48Vへの高電圧化である。48V電源にすることで、 各デバイスへ送電する電流を1/4に低減し、電線の総重量を最大1/8まで削減できる。これによる軽量化の効果は大きく、EVの航続距離を延ばしたり、電池を小型化したりといったメリットにつながるため、48V電源の採用は、先に触れたゾーン型アーキテクチャとともに大きく期待されている。

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    ゾーンコントロールユニット(ZCU)を用いたゾーン型アーキテクチャのイメージ

“くる”トレンドとして「ワンストップソリューション」を強みに

コストダウンに電線の軽量化、航続距離の延伸、さらにはソフトウェアの更新も簡素になるなど、多くのメリットが見込まれるゾーン型アーキテクチャと48V電源の採用だが、実現には解決すべき課題が少なくない。48Vへの移行効果は大電流をつかう部分、たとえば電源とZCU間の送電には大きいが、車室内ライトや電動ミラーなどの低電力アプリケーションにはあまり影響しない。加えて森下氏は、「どういった機能を高機能化し、どこにどのくらいの大電流を流すのかは、自動車メーカーごとに異なっており、現在各社で議論がなされている」と、現状を説明する。

それでも48Vかつゾーン型というトレンドは、現在の技術革新からして今後“くる”ものとして捉えられており、Infineonもこれに注力していくという。森下氏は、同社の強みを次のように説明する。

「当社はマイコンやPMIC、センサー、ゲートドライバー、MOSFETなど、車載システムを構成する半導体の大部分を提供しているほか、単なる半導体チップサプライヤーではなく、リファレンスデザインやソフトウェアも揃えています。多様な要求に1社で応えるワンストップソリューションを提供できることは、48V電源の採用においてもお役立ちできると考えています」(森下氏)

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ZCUの中核となる「ゾーンDC-DCコンバーター12V-48V」

森下氏が強調するワンストップソリューションにおいて、48V電源とゾーン型アーキテクチャを採用するうえで欠かせない製品がある。それが先ほども述べた「必ずしも48Vを必要としない低電力アプリケーション」に向け、電力を供給する際に必要な変圧コンバーターである。Infineonは、48Vから12Vに降圧する直流/直流コンバーター「ゾーンDC-DCコンバーター12V-48V」向けに3つの降圧回路構成を想定し、ユーザーニーズに応えている。

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1つは構成部品数が少ないシンプルな構成でマイルドハイブリッド(HV)車でも実績のあるマルチフェーズ降圧型コンバーター(Buck)。シリコンMOSFETを使い、スイッチング速度は100kHz程度と低めで大きなインダクターやコンデンサーが必要だが、ユーザーにとっては扱いやすいのが特徴だ。

一方、シリコンBuckの課題であるスイッチング速度を改善するものが、2つ目にあげる窒化ガリウム(GaN)を使うHEMT(高電子移動度トランジスタ)Buckである。スイッチング速度が200kHz程度と高速であり、インダクターやコンデンサーを小型化して基板を小型化できる。2023年にはカナダのGaNデバイス専業であるGaN Sysemsを8億3000万ドルで買収したうえ、2024年には世界初の300mm GaNウエハーでのチップ製造に成功している。Infineonは、炭化珪素(SiC)に続き、GaNでもトップベンダーを目指しているところだ。

3つ目は変換効率が約99%ともっとも高いスイッチド・タンク・コンバーター(STC)。搭載するMOSFETやキャパシタ数は多いが、 電源分配システム全体での電力損失を抑えたいユーザーに向いている。

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    ゾーンDC-DCコンバーター12V-48Vのラインアップと性能比較

これら3製品とも変換効率は96%を超えていてSTCと最下位のシリコンBuckの差はわずか1.5ポイント。だが、熱損失でみると2倍となるため無視できない値としている。また高周波数化が難しいシリコンBuckの課題を解決する窒化ガリウム(GaN)Buckだが、エミッションノイズが大きいことからシリコンBuckより良い面ばかりではない。

またコスト面でもっとも有利なのは窒化ガリウム(GaN)Buckであり、STCよりも15%ほど安い。これは部品数が少なくて済むため基板面積をSTC比で55%も小さくできるためだ。STCとシリコンBuck価格はほぼ同等である。ユーザーニーズによって適切に使い分けることが可能だ。

このほか特徴的なのは降圧回路を制御するマイコン「AURIXシリーズ」を駆動するロジック電源構成。48Vからマイコン向けの3.3~5Vに直接降圧できる電源ICがないため、いったんプレレギュレーターで12Vに落としたうえで通常の12Vシステム向けの電源を使用する構成としている。

Infineonは半導体だけではなく、システムを提案できるリファレンスデザインボード(評価基板)も揃えて販売している。STCをつかったボードは48V電源から出力電圧12Vに降圧し、出力電力500Wを継続的に供給できる。出力電流でいえば約42アンペアという大電流であり、ZCUにつながる多数のECUや負荷をまとめて扱うことができる。

森下氏は、「最初に48Vを導入するのはEV専業など、生産モデルが少ない中国や米国のカーメーカーで、2026年にも搭載するだろう」と、見通しを話す。これに対して日本の各社は、「先行他社の誤った轍を踏まないで済む有利性がある」とし、「国内大手は2029~2030年にかけて中国・米市場向けEVから導入をはじめそうだ」とみている。日本で48V化がどのように発展するのか、「今後2、3年で自動車大手がいかに決断するかにかかっている」と見立てている。

そのうえでInfineonならではの強みとして、「MOSFETと窒化ガリウム(GaN)デバイス、さらには車載向けマイコンのトップサプライヤーであり、細かなユーザーニーズにワンストップで対応できること」、「幅広い製品ロードマップをもち、ユーザーの要求に最適なものを提供できること」、「開発難易度が高くてもリファレンスデザインやソフトウェアを提供し顧客をサポートできること」をあげる。

日本では大手自動車メーカーとその系列のTier 1各社が主軸になって48V対応を進めているが、「Infineonはこうした活動に協力し、共存共栄を図っていく」と森下氏は来たる48V化に向けた業界の動向に追従していく意向を示した。

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[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン