まずは、一枚の間取り図をご覧いただきたい。

 

あなたには、この家の異常さがわかるだろうか?

 

5年前、オモコロに掲載した「【不動産ミステリー】変な家」はその後に書籍化され、発行部数は200万部を超えた。

 

5年目の節目に出版社の許可を得て、書籍に収録されたすべての内容を再構成し、これまで明かさなかった本当の真相を加えた「【完全版】変な家」を公開することとなった。

ぜひ、最後までお楽しみいただきたい。

 

第一章 謎の空間

―――2020年9月

私は柳岡さんという知人から、家に関する相談を受けた。

彼は第一子の誕生をきっかけに、一軒家を買うことにしたという。
不動産屋に勧められたのは、東京都狛江市に建つ2階建ての中古住宅

 

以前は若い夫婦と小さな男の子の三人家族が住んでいたらしく、家族構成が同じ柳岡さんにはうってつけだと言われたらしい。

ただ一つ、間取りに不可解な点があった

 

柳岡:一階の、台所とリビングの間に謎の空間があるんです。ドアがないから中に入れないし、何となく気味が悪いと思いましてね。

雨穴:パイプスペースじゃないんですか?ほら、水道管とかを収納する…。

柳岡:いえ、不動産屋によるとこの空間、何もない空洞のコンクリートらしいんです。

雨穴:それはたしかに…不思議ですね。

柳岡:来週、一人で内見に行くんですけど、一緒に来てもらえませんか?

 

――内見に同行することになった私は、事前準備としてプロの意見を聞くことにした。

相談相手は栗原さんという設計士だ。

 

設計士の推理

栗原:ドアのない空間ですか

 

雨穴:台所を圧迫してまでこれを作ったということは、何か用途があるはずだと思うんですよね。
だけど、中は空洞のコンクリートだって言うし……。

栗原:なぜ、空洞のコンクリートだと分かったんでしょう。

雨穴:え?

栗原:だって中に入れないんでしょ?内部がどうなってるかなんて確かめようがないじゃないですか。

雨穴:だけど設計図なわけだから…

栗原:雨穴さん、間取り図には二種類あるのをご存じですか?

 

栗原:一つは建築士が作る「設計図」
もう一つは、不動産屋が作る「販売図」です。

 

栗原:設計図はそれをもとに工事を行うので、パイプスペースなども含めて細かく書き込みます。
しかし、家探しをしている客はだいたいが素人。複雑な図面を見せられたら混乱してしまう。

そこで不動産屋は、間取りだけを書いたシンプルな販売図を用意するわけです。

例の図面は販売図でしょう。

 

栗原:家具が記されているのは、前の住人が残していったものがそのまま置いてあるからだと思われます。

そういうパターン、ときどきあるんですよね。
住人が何らかの事情で慌てて売っ払った物件を、不動産屋が点検しながら図面を制作するんです。

栗原:もしもここが本当に「開かずの間」なら、不動産屋は空間の存在にすら気づけないはずです。
仮に気づいたとしても、入れない場所を営業用の図面に書く必要がない。

雨穴:すると……

栗原:ここに入る方法がある、ということです。

 

―――ドアのない空間に入る方法……この時点では、想像すらつかなかった。

 

栗原:そういえばこの家、以前は親子が住んでいたんですよね。

雨穴:はい。若い夫婦と小さな男の子の三人家族だったそうです。

栗原:だとしたら……少し不安ですね。

雨穴:何がですか?

栗原:この間取り図を見たとき、私が奇妙だと感じたのは「謎の空間」よりもむしろ二階の間取りなんです。

雨穴:二階?

 

栗原:子供部屋を見てください。何か気づきませんか?

雨穴:うーん……あれ?

 

雨穴:ドアが二つある。

栗原:はい。それにトイレも異様です。

 

栗原:この部屋からしか入れませんよね。

雨穴:たしかに……子供専用のトイレ?

栗原:二重扉に備え付けのトイレ。まるで独房のようではありませんか?

雨穴:……独房……まさか

栗原:この家の子供はこの部屋に閉じ込められていたのではないか……そんな想像をしてしまいます。

雨穴:監禁ですか……。

栗原:そして何より異常なのはです。この部屋……

 

栗原:窓が一つもないんですよ。

雨穴:ほんとだ……。

栗原:子供の姿を近隣住民から見られたくなかったのかもしれませんね。
過保護と言うには行きすぎです。

雨穴:……今度、柳岡さんの内見に同行することになってるんですけど……やっぱり断ろうかな。

栗原:雨穴さん、約束は守りましょうよ。

雨穴:他人事だと思って。

 

内見の日

―――翌週、私と柳岡さんは不動産屋で落ち合い、鍵を借りて例の家に向かった。
「セルフ内見」と言って、スタッフの立ち合い無しで、客が自由に内見できるシステムが流行っているという。

ところが到着して間もなく、柳岡さんの携帯が鳴った。

息子さんが、つかまり立ちの途中に転んで頭を打ってしまったという。
彼は私に鍵の返却を託し、急いで帰宅することになった。

私も帰ろうかと思ったが、栗原さんの思わせぶりな言葉を思い出し、少しだけ家の中を見てみることにした。

 

リビング

木目のフローリングに白い壁紙。ごく一般的な洋風住宅だ。
ただ、リビングには窓が一つしかないため、やや薄暗さを感じた。

 

「謎の空間」に接する壁をじっくり見てみたが、特に変わったところはなかった。

 

リビングを抜けると小さなホールになっている。
ひとまず台所に入る。

 

台所

ドアを開けると、それまでの薄暗さが嘘のように、暖かい陽光に包まれた。

それもそのはずだ。

 

この台所、窓が三つもある。

そのうち一つは南向きなので、リビングに比べ、体感で2倍ほど明るい。

しかし、なぜこんなにたくさんの窓を取り付けたのだろうか。

 

「謎の空間」に接する壁には、やはり変わったところは見当たらない。

今のところ「所々違和感はあるが、おおむね普通の家」といった印象だ。

しかし後ろを振り向いたとき、思わずぞくっとした。

 

階段がやけに暗い。
踊り場に窓がないからだろうか。

嫌な予感を覚えつつも、二階へと向かう。

 

二階

栗原さんは指摘しなかったが、二階には子供部屋のほかにおかしな点がいくつかある。

その一つが浴室だ。

 

この家「浴室」「シャワー室」が別々にある。
二世帯住宅なら分からなくもないが、三人家族の家としては不自然だ。

しかもこの浴室、窓がないのだ。

 

浴室

当然ながら、脱衣所は暗闇だ。
電気は通っていないので、懐中電灯を点けた。

 

窓がないことを除けば、ごく普通の浴室……そう思った矢先、奇妙なものを発見した。

 

床に何かがある。

 

石でできた(ふた)のようだ。
水はけの隙間がないので排水溝とも思えない。

これはいったいなんなのだろう。

妙な寒気を覚え、足早に浴室を出た。

 

長い廊下を通り、子供部屋へ向かう。 

 

寝室に繋がる扉を開けると、台所に入ったときと同じような明るさを感じた。

この部屋も窓が多い。

暗い部屋と明るい部屋の落差があまりに大きい。
いったい、どんな心理からこのような設計にしたのだろうか。

 

寝室には、ダブルベッドが残されていた。
夫婦は子供を窓のない部屋に閉じ込め、このベッドで仲良く眠っていたということか。

 

ふと、化粧台が置かれていることに気づく。
ベッドやテーブルならまだしも、化粧台まで置いていったということは、相当焦って出て行ったのだろう。

そういえば住宅情報にはこう書かれていた。

 

築一年未満

新築してから、わずか数か月で売りに出したことになる。
栗原さんは「何らかの事情で慌てて売っ払った…」と言っていた。

胸がざわざわと騒ぎ出す。

 

子供部屋

二重扉を開け、ついに子供部屋へ入る。

 

窓がないので真っ暗ではあるが、一見して変わった様子はない。

しかし、この殺風景な部屋を眺めていると、腑に落ちない気持ち悪さが湧いてきた。

前の住人は、化粧台すら置いて行かねばならないほど、急いで家を出た。
するとこの部屋も、引っ越す前とほとんど同じ状態である可能性が高い。

であれば、あまりに物が少なすぎる

勉強机、遊具、テレビ……何もない。

すでに分かっていたことではあるが、元住人の夫婦は子供を愛していない

胸が締め付けられる思いがした。と同時に、違和感が胃の奥からせり上げてきた。

この部屋にあるのは、ベッドと二つの棚だけ。
子供に何も与えなかった夫婦は、なぜ棚だけ二つも買ったのか

ふと、そのうちの一つが目に入る。

 

 

この棚いっぱいに、たとえば絵本やおもちゃやぬいぐるみが並べられていた……そんな想像はとてもできない。

夫婦がここに棚を置いたのは、何か特別な理由があったからではないか。

たとえば、何かを隠すため

恐る恐る、棚を動かしてみた。

すると……

 

浴室にあったのと同じ、石製の蓋

それを見た瞬間、不気味な想像が脳裏に浮かんだ。

 

入り口

私は助けを求めるように、栗原さんに電話をかけた。
これまでの経緯を話すと、彼はとても愉快そうに言った。

 

栗原:楽しそうでいいですね。

雨穴:楽しくないですよ!……ところで栗原さん、この家の間取り図って、今見れますか?

栗原:ええ。プリントアウトして壁に飾ってますから。

雨穴:変な人ですね。でも、それなら好都合です。

栗原:ん?

雨穴:実はちょっと確認してもらいたいことがありまして。
一階と二階の間取り図を重ね合わせてもらえませんか?

栗原:いいですけど。

 

―――しばらくして、電話口から「あ」と声がした。
栗原さんも、それに気づいたようだ。

 

雨穴:……わかりました?

栗原:なるほど、通路ですか。

 

―――栗原さんほどではないにしろ、私もたびたびこの家の間取り図を眺めていたので、だいたいの部屋の配置は記憶していた。
だから蓋を見て気づいた。「謎の空間」の正体に。

 

一階と二階の間取り図を重ね合わせると……

 

子供部屋と『空間』が、一部、重なるのだ。

すると……

 

この蓋は「謎の空間」への入り口なのではないか。
そう考え、重い蓋を外してみた。

 

案の定、その先には空間があった。

 

「空洞のコンクリート」だ。
では、これは何のために存在するのか。

答えはやはり、間取り図にある。

 

「謎の空間」は浴室の角とも重なっている。
石製の蓋があった場所だ。

 

 

つまり、ハシゴなどを使えば、謎の空間を通って子供部屋と浴室を行き来できるということだ。

 

雨穴:栗原さん、この前「夫婦は子供を近隣住民から見られたくなかったんじゃないか」って言ってましたよね。

栗原:ええ。

雨穴:でも、入浴のときに子供部屋から浴室に行くためには……

 

雨穴:窓のある廊下を通る必要があります。
だから直接風呂場に行けるようにこんなものを作ったんじゃないかと。

栗原:だったら、まだ平和ですけどね。

雨穴:どういう意味ですか……?

栗原:その部屋、棚がもう一つありますよね。

 

栗原:その下にも、何かが隠されているんじゃありませんか?

雨穴:まさか……

 

―――棚を動かすと……

 

雨穴:蓋……

栗原:その下にあるのは……

 

栗原:車庫に繋がる物置です。

雨穴:ということは……

 

雨穴:この家の子供は、子供部屋から浴室と車庫を行き来していた……?一気に分からなくなった……。

栗原:そうですか?私はなんとなく、この家の正体が見えてきましたけど。

雨穴:え?

栗原:その子供部屋、ベッドがありますよね?

 

栗原:そして二階の寝室にはダブルベッドが置かれている。

 

栗原:おそらく夫婦のものでしょう。

雨穴:……でしょうね。

 

栗原:つまり、家族は三人とも二階で寝ていたわけです。すると不思議なことに気づきます。

 

栗原:一階の寝室は誰のものだったんでしょう。

雨穴:……そういえばそうですね。
……お客さん用とか?

栗原:まあ、そんなところでしょう。
誰かはわからないですが、この家には頻繁に来客があったと考えられる。
来客、子供部屋、浴室、そして車庫。ここから一つのストーリーが浮かびます。

雨穴:ストーリー?

栗原:あくまで、私の妄想だと思って聞いてください。

 

正体

栗原:この家の夫婦は、たびたび客を招いた。

 

栗原:ダイニングで食事をし、酒をふるまう。すっかり酔っ払った客に夫はこう言う。

「今晩は泊っていかれたらどうですか?そこにベッドルームもありますし」

宿泊することになった客に、今度は妻がささやく。

「お風呂も沸いてますよ」

客は二階の、窓のない浴室に案内される。

 

栗原:客が風呂に入ったことを確認すると、妻は子供部屋に合図を送る。

 

栗原:子供はあるものを持って、床の抜け穴から一階の通路を通り、風呂場に侵入する。そして……

 

栗原:刃物を客の背中に突き立てる。

雨穴:……ちょっと待ってください!なんでそんな話に?

栗原:まあまあ、これはあくまで私の妄想ですから。

……裸で丸腰、酔いが回って朦朧とした客はなんのことかわからず、抵抗もできない。
子供は何度も何度も客の背中に刃物をうちこむ。やがて客は床に倒れ、息絶える。

すると今度は夫婦が風呂場にやってきて、ノコギリか何かで死体を細かく切断する。

ちょうど抜け穴に入るくらいの大きさに。

 

栗原:夫婦はバラバラにした遺体の断片を浴室の抜け穴に投げ込む。
子供はそれを一つずつ、何時間もかけて自分の部屋に運び、そしてもう一つの抜け穴に落としていく。
こうして死体は、浴室から車庫に輸送されるわけです。

 

栗原:夫婦は『断片』を車に積み込み、どこかへ埋めに行く。
つまりその家は、ごく一般的な民家に見せかけた殺人屋敷ということです。

雨穴:冗談……ですよね?

栗原:半分は冗談です。

雨穴:半分は本気ってことじゃないですか……

栗原:だって、そう考えれば異様な間取りの説明がつきますもん。

 

栗原:この一連の出来事は、すべて窓がない部屋で行われることになります。
つまり、外から一切見られることなく殺人ができるわけです。
昼でも夜でも、年中いつだって『仕事』ができる。

雨穴:でも、そんな凝った仕掛けをする必要なくないですか?
見られたくないなら、家中のカーテンを閉めればいいじゃないですか。

栗原:そこなんです。普通、人は見られたくないことをするとき、カーテンを締めますよね。
逆に、カーテンを開け放した家の中で殺人が行われてるとは誰も思わない

雨穴:カモフラージュってことですか?

栗原:はい。その家、窓が多いですよね。
特に台所と寝室。

雨穴:……はい。

栗原:「中を見てください」と言わんばかりじゃありませんか?
『木を隠すなら森の中』という言葉がありますが、彼らは光の中に闇を隠したのかもしれません。

 

―――私は、栗原さんの突飛な説を信じる気にはなれなかった。
しかし、この家が普通ではないことは確かだ。これ以上いたら、心が何かに浸食されそうな不安を覚え、急いで帰り支度をした。

その途中、あるものを見つけた。

 

一階、リビング横の寝室。
ドアの左隣に何かがある。

 

小窓だった。
開閉できないタイプの窓なので、換気用とも思えない。

不思議な気持ちで眺めていると、突然、背後から視線を感じた。
振り返ったが、誰もいない。

窓の外はどんよりと曇っていた。

 

事件

―――帰宅後、しばらく経っても、栗原さんの推理が頭から離れなかった。

殺人屋敷……人を殺すための家。そんなものが現実にあるとは思えない。だが……

そのとき、思い立った。

 

「住所 事件」で検索すればいい。
何も出てこなければ安心できる。

そう思っていた。

しかし、一つの記事がヒットした。
一週間前、狛江市の雑木林で、バラバラ遺体が見つかったというニュースだ。

 

雑木林の位置を調べると、例の家から車で約20分ほどの場所にあることが分かった。

単なる偶然かもしれない。

ただ「すべて林の同じ場所に埋められていた」という記述が引っかかる。

バラバラ遺体は、捜査の進展を遅らせる目的で、複数の場所に隠されることが多い。
同じ場所に埋められていたということは、犯人の目的は別にあると考えられる。

栗原:すると今度は夫婦が風呂場にやってきて、ノコギリか何かで死体を細かく切断する。

ちょうど抜け穴に入るくらいの大きさに。

そして、何よりも不可解なのは…

 

犯人は、左手首だけを別の場所に埋めたのだろうか。
あるいは……。

 

女性

―――その日の夜、柳岡さんから電話が来た。

 

雨穴:お子さん、大丈夫ですか?

柳岡:ええ、検査結果も特に問題なくて、今は元気に遊んでます。

雨穴:よかった……。

柳岡:本当に今日はご迷惑おかけしました。……そういえばさっき、あの家から帰るとき、女の人から声をかけられたんです。

雨穴:女の人?

柳岡:玄関を出ると、20代後半くらいの小柄な女性が家を眺めていたんです。
僕に気づくと、突然走り寄ってきて「この家の関係者ですか?」って聞かれました。
内見に来たことを伝えると、連絡先を渡されて「購入するなら、その前にお話しさせてください」って。

 

―――帰り際に感じた視線は、その人だったのだろうか。

 

柳岡:正直、雨穴さんに送ってもらった写真を見て、あの家の購入はやめようと思ってるんで、連絡する必要はないんですけどね。

雨穴:そうですか……。あの……その人の連絡先、教えてもらってもいいですか?

柳岡:いいですけど、何か用でも?

雨穴:ちょっとあの家が気になってしまいまして。

 

―――女性の名前は『宮江柚希』というらしい。
私はさっそく、電話をかけた。

 

第二章 三角形の部屋

宮江:……もしもし

雨穴:突然のご連絡、失礼いたします。宮江柚希さんのお電話でよろしいですか?

宮江:…………もしかして、狛江の家の?

雨穴:あ、はい!その件です。
ただ、私は柳岡さんではなく、彼の知人でウェブライターの雨穴と申します。

 

―――あの家に興味を持っていることを伝えると、宮江さんは自身の状況を話してくれた。

彼女は埼玉県在住で、文具メーカーの事務員をしているという。

 

宮江:5年前までは夫と暮らしていました。でも、今は独身です。

雨穴:……離婚されたんですか?

宮江:いいえ……夫は死にました。
…………殺されたんです。

雨穴:え……!

宮江:順を追ってお話しします。
夫の宮江恭一は5年前「知り合いの家に行ってくる」と言って家を出てから、行方不明になりました。

そして今年の7月、埼玉県内の山で、白骨の状態で発見されました。……不思議なことに、遺体は左手首だけが切断されて無くなっていました

 

―――どきりとする。狛江のバラバラ事件と同じだ。

 

宮江:犯人はまだ見つかっていません。『知り合い』が誰なのかも…。
ただ、小さな手がかりはありました。

夫は生前『三角形の面白い家がある』と、雑談混じりで言っていたんです。
もしかして、それが『知り合いの家』なんじゃないかと思いました。

でも、うちの近所に三角形の家なんてないし、かといって『三角屋根』って意味だとしたら、ありふれすぎていて参考にもなりません。
だけどあるとき、ふと思ったんです。『三角形』というのは、外見ではなく内装の話なんじゃないかって。

雨穴:つまり『家の中が三角形』ってことですか?

宮江:はい。

雨穴:でも、そんな家……

宮江: ありました。
うちから徒歩20分ほどの場所に、三角形の部屋がある家を見つけたんです。
すでに空き家で、売りに出されていたので、ネットで間取り図を見ることができました。
URLをお送りしてもいいですか?

雨穴:お願いします。こちらのメールアドレスは……

 

―――送られてきたURLを開く。

 

不思議な形の家だ。

 

一階、リビングの横には、たしかに三角形の部屋がある。何の目的で作られたのか。

しばらく眺めていると、ふと、ある場所に目が留まった。

悪寒が走る。無意識に目が『それ』を探す。

……あった。ここにも、ここにも。

 

ドアのない空間、独房のような子供部屋、窓のない浴室。

 

似ている。

 

増殖する家

宮江:この家の元住人が犯人かもしれないと警察に訴えたんですが、まともに取り合ってくれませんでした。
たしかに「三角形の部屋があった」だけでは根拠が弱すぎるかもしれません。
それでも私には確信がありました。夫があの日行ったのは、この家に違いない…って。

雨穴:だから自分で調査をしようと?

宮江:はい。問題は住人の行方です。
当然、不動産屋は個人情報を教えてくれませんし、近隣住宅も空き家ばかりで、名前さえ知ることができませんでした。
そんなとき、偶然ネットで例の間取り図を見つけたんです。

雨穴:狛江の家ですか。

宮江:はい。「似てる」って思いました。

雨穴:たしかに……全体的に同じ異質さを感じますよね。窓のない子供部屋とか……。

宮江:しかも先週、その家の近くでバラバラ遺体が発見されたと知って。

雨穴:そのニュース、今私も見ました。左手が見つかってないんですよね。

宮江:主人と同じです。……同一犯としか思えません。

雨穴:それで今日、家を見に?

宮江:はい。でも残念ながら、また空き家でした。
せっかく糸口を掴んだと思ったのに……。このままでは、夫が浮かばれません……。

雨穴:……宮江さん。今からお話しするのは、知人の憶測なんですが……

 

―――私は栗原さんの説を伝えた。

 

宮江:子供を利用した殺人?

雨穴:埼玉の家も、同じようなロジックが成り立ちます。

雨穴:一階と二階の間取り図を重ねると、子供部屋と浴室が一階の「空間」を通して繋がっていることがわかります。

 


雨穴:監禁された子供は、外から見られず浴室に行くことができる。
……まあ、絵空事に近い話ですけど。

宮江:私は、絵空事だとは思いません。

雨穴:そうですか…?

宮江:97年頃、保険金目当てで親が実子を殺害した事件がありましたよね。

雨穴:嫌な事件でしたね……。

宮江:子供は弱くて一人では生きられない。

「だから守る」……そう考える親が大多数です。
でも「だから支配して、自分のために利用する」……そう考える親も、残念ながらいます。

雨穴:ですけど、さすがに殺人を強要するというのは……

宮江:13歳以下は法で裁かれません。ある意味、大人よりも罪を犯すリスクは小さいと思うんです。
悪い大人の言いなりになって、子供が犯罪に手を染めた事件は、過去にいくつもあります。

 

―――電話を切ったあと、情報を整理した。

 

2015年に失踪した宮江恭一さんの遺体が、今年の7月に発見された。

犯人に繋がる手がかりは、彼が生前言っていた『三角形の家』という言葉のみ。

妻の柚希さんは情報を追い求め、やがて一軒の空き家にたどり着く。

 

三角形の部屋を持つ、奇妙な家。
ここで恭一さんが殺されたと考えた彼女は、元住人の行方を追った。

その最中、狛江の家を見つけた。

 

二つの家は似ている。

埼玉を出た一家は、東京に引っ越して同じような家を建てたということか。
しかも、この付近で先週、身元不明のバラバラ遺体が発見された。
遺体は、恭一さんと同じく左手首が見つかっていない……そこまで考えて、ある違和感に気づいた。

彼女は先ほどこう言っていた。

遺体は……左手首だけが切断されて無くなっていました。

『左手首だけが切断されて』……つまり、宮江恭一さんはバラバラ遺体ではなかったということだ。

すると、少なくとも埼玉の家に関しては『切断した遺体を、通路を通して運ぶ』という説は成り立たない。

一向に真実が見えない。

 

2016

―――その後、宮江さんから聞いた情報と、埼玉の間取り図を栗原さんにメールで送った。

彼から電話が来たのは翌朝だった。徹夜で間取り図の分析をしていたという。

 

雨穴:お疲れ様です。眠くないんですか?

栗原:『野菜一日これ一本』を飲みましたから。

雨穴:それに栄養ドリンクみたいな効果ないでしょ。
……で、何か分かりました?

栗原:ええ。例の三角部屋ですが、おそらく増築された部屋です。

雨穴: ……どうしてですか?

栗原:三角部屋とリビングの間に、窓がありますよね。

 

栗原:室内に窓があることは珍しくないんですが、普通はこういった『両開き窓』は使わないんですよ。
全開にすると、三角部屋をだいぶ圧迫してしまいますよね。

雨穴:たしかに。

栗原:両開き窓は通気性と採光性に優れているので、外壁に取りつけるのが一般的なんです。そこでこう考えました。

 

栗原:この壁は、もともと外に面していたのではないかと。
google earthの更新履歴を確認したところ、思った通り、ある時期までこの部屋は存在しませんでした。

 

栗原:家が建てられた当初、リビングの窓からは外が見え、扉は庭に出るためのものだった、ということです。
ところが2016年の更新から、突如この部屋が出現したんです。

雨穴:2016年に増築したということか。
でも、なんで三角形なんでしょう?

栗原:理由は実に簡単です。
この家、五角形の敷地に立っているんですよ。

 

栗原:左側の道路が二股に分かれている影響で、角が削られたような形になったんですね。

雨穴:敷地に合わせたってことか。
なら、そこまで変とは言えないですね。

栗原:いえ、むしろ私はより異常性を感じました。

雨穴:どうしてですか?

栗原:この家、ベランダがありませんよね。
洗濯ものを干すとすれば、庭しかなかったわけです。

 

栗原:そんな貴重な庭を潰してまでこの部屋を作った。作らなくてはいけない、ただならぬ事情があった
それが何なのかはわかりませんが、少なくとも普通の事情ではいでしょうね。

雨穴:なるほど……

栗原:しかし、まさかこんな奇妙な家が二軒もあったとはね。

雨穴:驚きましたよ。引っ越し先で毎回こんな家を建ててるって考えると恐ろしいですね。

栗原:引っ越し……つまり雨穴さんは、二つの家を建てたのは同じ家族だったと考えているんですね。

雨穴:違うんですか?

栗原:基本的には同感です。
ただ、同じ家族が住んでいたにしては、ところどころに相違点が見えるんですよ。たとえば窓の数。

 

栗原:狛江の家は「中を見てください」と言わんばかりにたくさんの窓があるのに、埼玉の家は極端に少ない。
子供部屋の扉の造りも違います。それに夫婦の寝室もおかしい。

 

栗原:埼玉は一階と二階にシングルが一つずつ。夫婦は別々に寝ていたということです。
しかし、狛江の家ではダブルベッドで一緒に寝るようになった。
引っ越した途端に夫婦仲が良くなった、なんて話はあまり聞きません。

同じ人間が住んでいたとしたら、なぜこのような「違い」が生まれたのか。そこにヒントが隠れている気がするんです。

雨穴:うーん……

 

―――その後、栗原さんから聞いた内容を宮江さんにメールで送った。すぐに返信が来た。

 

お世話になっております。
宮江です。

ご丁寧にありがとうございます。
「増築」という可能性にはまったく思い至りませんでした。調査する上で大きな手がかりになりそうです。
栗原様によろしくお伝えください。

そしてまことに勝手なお願いですが、一度会っていただけませんでしょうか。
お礼を申し上げたいのと、ひとつお伝えしたいことがございます。
近くまで伺いますので、よろしければ都合のいい日にちを教えてください。

宮江柚希

宮江さんとは、翌週の日曜日に会うことになった。
お互いにアクセスの良い場所を探したところ、待ち合わせ場所は、登戸駅前の喫茶店に決まった。

偶然にも、狛江の二駅隣だ。

 

本当の子供

―――日曜昼過ぎ、登戸に到着した。
早く着きすぎてしまったようで、約束の時間までまだ一時間以上ある。

せっかくなので、二駅足を延ばして狛江の家に行くことにした。
前回は内装ばかりに着目して、外観をほとんど見ていなかったことに気づいたのだ。

狛江駅を降りてバスに乗り、下車してしばらく歩くと、例の家が見えてくる。

白く塗られた壁、青い芝生の庭。外観はいたって普通だ。玄関には「売家」のプレートが付いている。
この家の中で殺人が行われていたなど、想像もつかない。

家の周りをぐるぐる回りながら眺めていると、突然、声がした。

 

「カタブチさんなら、もう引っ越しましたよ」

 

隣の家の庭に女性が立っている。小さな犬を抱きかかえた、五十代くらいの、いかにも気のよさそうな婦人だ。

雨穴:カタブチさんというのは、あの家に住んでいた一家のことでしょうか?

婦人:そうですよ。お知り合いじゃないの?

雨穴:えーと、ほんの少しだけ縁がある……みたいな関係です。ところで、カタブチさんと交流はありましたか?

婦人:交流ってほどじゃないけど、何度か奥さんと立ち話をしたことはありますよ。

雨穴:どんな方でしたか?

婦人:若くて綺麗な人だったわね。いつもお子さんと一緒でね。

雨穴:え…?子供を連れて外出していたんですか?

婦人:ええ。「ひろとちゃん」っていう可愛らしい男の子。
たしか、今年で年中さんになるって言ってたかしら。

 

―――その話が本当なら「子供が監禁されていた」という説は成り立たない。

 

雨穴:ちなみに、カタブチさんはいつ頃ここを出て行ったんでしょう?

婦人:たしか……8月下旬にはもう空き家になってたわね。

雨穴:「空き家になってた」……すると、知らない間に引っ越していたということですか?

婦人:そうなのよ。お隣なんだから挨拶くらいしてくれてもいいのにね。

雨穴:では、引っ越した理由もご存じないですよね。

婦人:そうね……。あ、そうそう!カタブチさんがいなくなるちょっと前に、うちの主人が不思議なものを見たって言ってたわ!

雨穴:不思議なもの?

婦人:夜中にトイレに起きたんですって。
そしたらカタブチさん家の二階に電気がついてて、窓の前に誰かが立ってたって言うのよ。ほら、あそこの窓。

 

―――婦人が指をさしたのは、夫婦の寝室の窓だった。

 

婦人:誰かと思って目をこらしたら、見たことのない子供だったんですって。

雨穴:ひろとくんではなくて…ですか?

婦人:そうなのよ。小学校高学年くらいの、青白い顔の男の子だったって言ってたわ。
親戚の子が遊びに来たんじゃないかと思って、翌朝、奥さんに聞いてみたの。そしたら「そんな子は来てない」って。

雨穴:それは……不思議ですね。

婦人:まあ何にせよ、元気で暮らしててくれればいいけどね。

 

―――婦人に礼を言い、その場を去った。
歩きながら、胸にぞわぞわと嫌なものがこみあげてくる。

 

子供は二人いる。

 

一人はひろとくん。
「今年で年中」ということは、今は3歳~4歳だろう。

そしてもう一人の子供……青白い顔の少年。

震える指で、栗原さんに電話をかけた。

 

栗原:面白くなってきましたね。

雨穴:不謹慎だなー。それにしても、子供が二人いたとなると、さらに話がややこしくなりますね。

栗原:そんなことありませんよ。むしろ、その情報によってすっきりパズルが解けました。
三角部屋が増築された理由もわかります。

雨穴:本当ですか?

栗原:簡単な計算です。

 

栗原:ひろとくんは今年4歳。したがって、彼が誕生したのは2016年となります。

雨穴:2016年……あ!もしかして

栗原:増築が行われた年です。
三角部屋が作られた原因はひろとくんにあったのではないでしょうか。

雨穴:……どういうことですか?

栗原:これまた、憶測だと思って聞いてください。

 

栗原:ひろとくんが生まれる前、埼玉の家には三人の家族が暮らしていた。
夫と妻、そして子供……仮に「 Aくん」と呼びましょう。
夫婦はAくんを子供部屋に閉じ込め、殺人に利用していた。ところがあるとき、一家に変化が起きた。
第二子が誕生したんです。

 

栗原:そのとき作られたのが三角部屋だったというわけです。

雨穴:ひろとくんの子供部屋ってことですか?

栗原:ちょっと狭いですが、ベビーベッドくらいなら置けるでしょう。
大きな窓がついていて、日当たりもいい。

雨穴:でも、長男を殺人に利用するような人間が、次男のためにわざわざ部屋を作ったりしますかね?

栗原:そこなんです。
隣人の話によれば、親はひろとくんを可愛がり、外に連れ出すこともあった。Aくんとあまりにも扱いが違います。
そこから推測できるのは、Aくんは彼らの実子ではなかったという可能性です。

雨穴:養子ですか。

栗原:詳しいことはわかりませんけどね。
いずれにせよ夫婦はAくんを、利用するためだけに育てていた。そんな人間でも、我が子はかわいいのでしょう。
実子が生まれると、並々ならぬ愛情を注いだ。問題は育てる場所です。

家の中では、日常的に殺人が行われている。そんな場所で最愛の我が子を育てたくなかった。ひろとくんだけは、この家と無縁でいてほしかった。

雨穴:それで新しい部屋を?

 

栗原:薄暗い殺人屋敷の中で、唯一清らかで、太陽の光に満ちた部屋。
この部屋でひろとくんは、何も知らずに育った。

雨穴:でもその一方で、夫婦はAくんにひどいことをしていたんですよね。
ひろとくんの幸せを願うんだったら、部屋を作るより犯罪をやめるべきだと思うんですけど……。

栗原:やめたくても、やめられなかったんじゃないですか?

雨穴:え……?

栗原:前から思っていたんです。はたしてこの夫婦は、自らの意思で殺人を行っていたのだろうか……と。たとえば誰かの指示で、脅されてやっていた可能性もあると思うんですよね。

雨穴:首謀者がいると?

栗原:はい。もしそうだとしたら、彼らの生活は地獄です。怯えと罪悪感に満ちていたことでしょう。
そんな中で生まれた第一子は、彼らにとって唯一の希望だった
地獄の底でも一輪の花を探すのが人間というものです。

雨穴:自分たちの人生を、ひろとくんに託したということですか……。

栗原:そう考えると、狛江の家の見え方もだいぶ変わってきます。

 

栗原:この家には、が共存している。
「光」とはキッチンや寝室など、窓がたくさんあって、外から見られても何一つ恥じることのない部屋。

それらはすべて、ひろとくんのために作られた部屋だったんでしょう。夫婦はそこで「理想的な家族」を演じていた。

しかしその一方、この家には「闇」がある。子供部屋、浴室、謎の空間…。夫婦はここで悪行を繰り返していた。

そんな「光」と「闇」の境界線……それが二重扉だったんです。

 

栗原:この間取り図をはじめて見たとき、子供が部屋から逃げ出さないように、万全を期して扉を二枚付けたのだと思っていました。
しかし、それは大きな勘違いでした。

この二重扉は、Aくんとひろとくんを会わせないための装置だったんです。

 

栗原:たとえば母親がAくんに食事を運ぶために子供部屋に入るとき、扉が一枚しかなければAくんがひろとくんを見てしまう可能性がありますよね。

 

栗原:しかし、二重扉ならその心配はありません。

雨穴:二人の子供は、お互いの存在を知らなかったということですか?

栗原:同じ家に住んでいる以上、声は聞こえるでしょうし、まったく気づかない、ということはなかったと思います。

ただ、Aくんが実際にひろとくんの顔を見ることで、どんな感情を抱くか分からない。自分とは正反対の境遇の彼を見て、嫉妬し、危害を加えるかもしれない。

雨穴:夫婦はAくんを支配しながら、同時にAくんに怯えていた……?

栗原:ええ。そう考えると、ダブルベッドの謎も解けます。

 

栗原:埼玉の家では、夫婦は別々のシングルベッドに寝ていた。しかし狛江の家にはダブルベッドが一つ。

この違いは何か。結論から言うと、ダブルベッドは夫婦のものではなかったんです。
おそらくここには、ひろとくんと母親が寝ていたんでしょう。

 

栗原:夜、父親は一階で警察や復讐目的の侵入者が来ないか小窓から見張り、母親はひろとくんの世話をしながら、子供部屋の監視をしていた……外敵と敵を分担していたということです。

雨穴: ……すると、隣人が見たというAくんの姿は……?

栗原:たぶんその日、何かがあったんです
Aくんは、寝室の窓の前に立っていたそうですね。

雨穴:はい。

 

栗原:そこには壁に密着するようにベッドが置かれています。窓の前に立つことはできませんよね。

雨穴:つまり、Aくんはベッドの上に座っていた……

栗原:母親とひろとくんが寝ているベッドに座り、彼は何をしていたんでしょうね。

雨穴:まさか……

栗原:少なくとも、夫婦にとっては望ましくない異常事態だったことは確かです。

雨穴:しかもそのあと、一家は逃げるように引っ越した……

栗原:そういえば、時間大丈夫ですか?

 

―――時計を見ると、すでに約束の時間は30分後に迫っていた。

 

雨穴:遅れるところでした。そろそろバスに乗ります。

栗原:では、切りますね……あ、そうだ。一応、忠告しておきますが、宮江柚希さんに会うなら気をつけたほうがいいですよ。

雨穴:なんでですか?

栗原:昨日、埼玉の事件について色々調べていたら、奇妙な情報が見つかりましてね。
宮江恭一さんに、奥さんはいなかったそうです。

雨穴:え……

栗原:それでは失敬。

 

―――彼女ははっきり『夫』と言った。
内縁の夫だったのかもしれないし、そもそも栗原さんの情報が間違っている可能性もある。

ただ、私にはずっとひっかかっていることがあった。

最初に電話したとき……

 

雨穴:宮江柚希さんのお電話でよろしいですか?

宮江:…………もしかして、狛江の家の?

 

―――私がまだ「宮江柚希さんのお電話でよろしいですか?」としか言っていないのに、彼女はすぐに『狛江の家の件』だと分かった。

もしや『宮江柚希』という名前は、彼女が家のことを調査するときだけに使っている、偽名なのではないか。

 

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宮江柚希の正体とは…?