シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

娑婆

書評:『なぜ人は締め切りを守れないのか』

いい本に出会ったので紹介したくなりました。紹介します。 なぜ人は締め切りを守れないのか作者:難波優輝堀之内出版Amazon この本は「人はなぜ締め切りを守れないのか」という疑問から出発して、人間にとって時間とはどういうものなのか、ひいては「いい時間…

害獣が当たり前に侵入してくる地方生活と、クマが揺さぶる社会契約の論理

www.nikkei.com news.yahoo.co.jp クマ害に悩む秋田県で、とうとう自衛隊要請が出た。 上の記事によれば、自衛隊による駆除自体は法的権限からみてできないと認識したうえで、自衛隊にしかできない仕事を要請するという。下の記事によれば、防衛省は派遣の方…

オタクが動物化したのか、動物がオタクになったのか──『動物化するポストモダン』再読、それからコジェーヴ

動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)作者:東浩紀講談社Amazon 最近私は「近代社会ってなんだろう?」ってことに関心があって、近代社会とその続きについて書いてある本を再読してまわっている。ゆうべは東浩紀『動物化するポス…

中年男性を不審に見る目線と、外国人を不審に見る死線

日本人男性は安全・安心を想像できる身なりと行動ができてなければ不審の目でみられる……ということが実際あったし今でもあると思うんですが、だとしたら、それと同じ目線と論理が素性の想像しがたい外国人男性に向けられるのはスムーズな流れだと思われます…

アイデンティティを購入しづらくなった後の世界

昨日、Xでアイデンティティと消費個人主義についてしゃべった内容をまとめることにしました。 1.アイデンティティが消費活動として、商品として贖われる時代があった 20世紀の後半から21世紀の初頭にかけ、日本では個人が「私はこういう人間だ」「これって…

遅れてやってきたポストモダンをどうすべきか?って?

週末に、はてな匿名ダイアリーに「要するにエコチェンバーこそが現実になってしまったんやな」というフレーズが書きこまれて、はてなブックマークが集まった。 ちなみに、このフレーズは「日本人ファースト勢に見えている世界」というはてな匿名ダイアリーの…

「プロパガンダしかなく、扇動者しかいなくなった世界」

参議院選挙が近くなり、インターネットに選挙のにおいが充満している。そういう雰囲気に感化されたくないと思い、期日前投票を済ませることにした。例年以上にインターネットじゅうが選挙めいていて、政治めいていて、プロパガンダめいているからだ。 普段は…

キツくなっていく近代人の条件と、その近代人から落伍しそうな私自身

blog.tinect.jp リンク先では、近代という時代、近代という体制の前提条件が崩れ始めている2020年代について、中世という時代とその前提条件を例に挙げながら書いた。20世紀後半にはポストモダン、ポスト近代という言葉も登場したけれども、実際にはごく最近…

どんなにAIが利口になっても、選挙をAIに任せてはいけない

p-shirokuma.hatenadiary.com AIの脅威は色々あるけど、現在の私には、民主主義や個人の自由にとっての脅威が一番気になる。AIに意見を言わせる振舞いが増え、社会のなかで当たり前になったら、それってヤバいやつなんじゃないか? って意見を上掲リンク先に…

AIに判断や主体性を委ねていると、自由も民主主義も滅ぶだろう

blog.tinect.jp 上掲リンク先で、AIと付き合う際に決して忘れてはならないことを書いた。AIが進歩したからといって判断を丸投げしてはいけない。判断の主体性や責任性はこれからも人間が引き受けなければならないし、AIが普及すればするほど、AIに問いを立て…

パラドゲーを越えてきた世界

それが起こったとしても、誰も第三次世界大戦と呼ばないし、そんな風にも見えない - シロクマの屑籠 2025年の正月、上掲リンク先のような放談を書いたが国際情勢のほうが放談を上回ってきて、いよいよ未来を心配するようになった。日本は島国なので他国から…

頑丈な人間・頑丈に見えて命を削っている人間、どちらも恐ろしい

先週読んだ、「眠いと思うから眠いんです。眠いと認めなければ、いくらでも時間がうまれてきます。」という文章がなかなか忘れられず、以下のようにはてなブックマークを書いた後も反芻してしまっていた。 これは、恐ろしく、深く、重要なお話だと思いました…

せっかちな社会で、熟成に時間のかかるワインとどう向き合うか

blog.tinect.jp 上掲は、今朝、寄稿させていただいたbooks&appsさんの記事だ。ワインを趣味にして良いことも悪いこともあったので、それらをまとめたつもりだ。健康至上主義な人はワインなんて近づかないほうが良く、もっと健康に貢献する趣味を探したほうが…

日本社会は若者をダンピングして少子化をきわめた、それは世界も同じではなかったか?

www.asahi.com 少し前に、2024年の出生数が70万人を割り込むという推計がアナウンスされた。70万という数字にこだわっても仕方がない。男女が出会いにくく、子どもをもうける動機も少なく、子どもを育てるコストやリスクばかり目立つ状況では当然だろう。 少…

インターネットで民主主義が加速して良かったですね

ビバ! デモクラシー! 兵庫県知事選、結果はどうあれ投票率の高さを鑑みれば民主主義が終わったどころか、真の民主主義が高らかに産声を上げたと言っていいだろう。あらかじめ地盤・看板・カバンを備えた既得権益者が勝つ時代は終わった。これからはblog、S…

『東大ファッション論集中講義』が読みやすかった

東大ファッション論集中講義 (ちくまプリマー新書)作者:平芳裕子筑摩書房Amazon ファッションの本は色々な方向性・難易度のものがあってとっつきにくい。 大きな書店の、ファッションのジャンルの棚を探せば望みの本に出会える気がするかもしれない。が、な…

『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』から始める歯切れの悪い意見

この文章は、歯切れが悪い話として受け取っていただきたいし、少なくとも私はそう読んでもらえたらと願いながらこれを書いている。 歯切れの悪い話とは、アニメや漫画に登場する、なにやら依存症や精神疾患に当該しそうな登場人物の描写について色々と言う人…

低感情社会、皆がニコニコしていなければならない社会

p-shirokuma.hatenadiary.com 先週、怒鳴り声がどんどん社会のなかでストレスフルなものとみなされるようになり、他人に害をなすものとして浮かび上がってくる話をした。昭和時代には怒鳴り声、ひいては大きな声が溢れていたが、令和時代の日本社会はそうで…

「怒鳴り声に無神経な年長者と繊細な年少者」問題について

togetter.com この話は私の見聞きしている状況、特に我が家の子どもが感じていることとも一致していると感じた。 「自分が怒鳴られているわけでなくても、誰かが怒鳴っているのを見るだけでストレスがきつい」、という話だ。 このtogetterに対して、たくさん…

Xのスケールの大きさと、ファクト・秩序・平穏の生産過程について思うこと

fujipon.hatenablog.com 「四十代最後の夏が終わろうとしている」というブログ記事を書くつもりでしたが、fujiponさんの上掲記事を読んで、何か鳴き声をあげたくなったのでクマーとさけぶことにしました。 fujiponさんが上掲記事でおっしゃっているように、S…

「向精神薬で自意識や虚無感の悩みが治る?」&「近代に根ざした自意識や虚無感は時代遅れでは?」

物語のパターンは既に出尽くしてる問題に絡めてだけど、近代に流行した鬱屈とした自意識や虚無感、20世紀後半にいい薬がたくさん発明されたおかげで「心療内科にいってお薬を飲めばいいのに」で解決してしまって、物語としての強度を保てなくなってる。— 小…

わかってもわからなくても、信仰は生活のなかにあるよ

blog.tinect.jp 黄金頭さんが、books&appsにて「おれたち日本人には『信仰』がわかるのだろうか」というタイトルの文章を寄稿してらっしゃった。そこに登場する宗教の話は、前半はドーキンスや無神論とその周辺の話、後半は吉本隆明や鈴木大拙などを引用した…

電信は令和のインターネットに届かなかった──『ヴィクトリア朝時代のインターネット』を読む

ヴィクトリア朝時代のインターネット (ハヤカワ文庫NF)作者:トム スタンデージ早川書房Amazon 前々から読みたかった『ヴィクトリア朝時代のインターネット』を購入して、最優先で読んだ。電信というひとつのテクノロジーの栄枯盛衰を描いたノンフィクション…

取引みたいなコミュニケーションは、誰にとって都合良いのか

今、研修医時代ぐらい忙しくて生きた心地がしない&働きすぎで急速に老け込みそうだと感じていますが、そうしたなか、書評のお仕事をいただきました&こなしました。 gendai.media 書評させていただいた作品は村雲菜月さんの『コレクターズ・ハイ』。上掲リ…

その支援はインクルージョンか、分離や排除や透明化か?

president.jp リンク先の文章は、前半はほぼ拙著『人間はどこまで家畜か』からの抜き出しで、とにかくも社会や環境が進歩した結果として精神医療のニーズは高まっていて、たとえばSSRIのようなセロトニンを補う薬が必要とさいれたり、ASDやADHDといった神経…

現代人は本当に思想に飼われている

president.jp リンク先の文章は、拙著『人間はどこまで家畜か』を一部引用しつつ、ひとまとまりの読み物として再編成しプレジデントオンラインさんに載せていただいたものだ。私たちは資本主義にいいように飼い馴らされ、その資本主義をますます充実させるた…

私たちは、自己家畜化をこえて"社畜"になる

p-shirokuma.hatenadiary.com 続き。 いつの世にも苦しみや悩みはあるし、その社会・その時代に最適な人もそうでない人もいるでしょう。アフリカの狩猟採集社会に最適な人と、幕末の日本の農村に最適な人と、2024年の東京に最適な人はそれぞれ違っています。…

高度な社会の一員になれていますか。これからもなれますか

「高度な社会は、それにふさわしい高度な人間を要請する」。 それが言い過ぎだとしたら、「高度な社会に適応するためには相応の能力や特性が求められ、足りなければ支援や治療の対象になる」と言い直すべきでしょうか。 少し前に「SNS上では境界知能という言…

かつて私たちがいた世界『窓ぎわのトットちゃん』

映画『窓ぎわのトットちゃん』 オリジナル サウンドトラックNBCユニバーサル・エンターテイメントジャパンAmazon ある人から、「シロクマさんは『窓ぎわのトットちゃん』を見ておいたほうがいいと思う」と勧められ、疲れたまま週明けを迎えようとしている連…

「いにしえの00年代のインターネットへの憧れ」はわかる気がする

今の10代の人の間で、「ゼロ年代のいにしえのインターネットへの憧れ」がそこそこ共有されているっぽいのに最近気づいてる— highland (@highland_sh) 2023年12月18日 highlandさんの上掲投稿を見かけて、その少し前に読んだ00年代のブロガーの文章を連想せず…