韓国で現地時間11月4~5日に開催されたLinux Foundationの「Open Source Summit Korea 2025」で、「Linux」および「Git」の創始者であるLinus Torvalds氏が、長年の協力者でありVerizonのオープンソースプログラム責任者であるDirk Hohndel氏と共に基調講演に登壇した。Linux、「Rust」、そして今や誰もが話題にする人工知能(AI)について、率直かつ会話形式で語り合い、Linuxの進化、現在の技術トレンド、そしてオープンソースコミュニティーの持続的な強さに関する新たな洞察を提供した。
Torvalds氏はまず、自身の役割について振り返り、「この20年近く、私はプログラマーではない。技術的なリードであり、メンテナーだ……実際の作業は他の人々が行っている」と述べた。Linuxが成熟する中でも、保守作業の必要性が絶えないことを強調し、「各リリースには1000人以上の貢献者がいる。それが2カ月ごとに続いている」と語り、プロジェクトが継続的な改善とハードウェアの革新に適応しながら成長していることを示した。
さらに、「人々が新しいハードウェアを作り続ける限り、カーネル側では常に作業が発生する。しかしそれがなくても、プロジェクト開始から35年が経った今でも、コアカーネルコードの修正や、より美しく、保守しやすく、安定したものにする作業が続いていることには驚いている」と述べた。
その後、両氏はRustのLinuxカーネルへの統合について議論を展開した。Torvalds氏は、Rustが「多くの報道を生み、内部でも議論を巻き起こした」と認め、一部のLinuxメンテナーが辞任する事態にもなったと明かした。それでも同氏はこの変化を擁護し、「価値はある……時にはメンテナーに新しいアイデアにもっと開かれるよう促す必要がある」と述べた。カーネルコミュニティーは、安定性と進化の必要性のバランスを取るべきだと語った。
AIの開発への影響
AIの開発への影響について話題が移ると、Torvalds氏は「AIの良い点の1つは、NVIDIAがLinuxカーネル領域で良きプレーヤーになったことだ。20年前にはそうではなかった」と述べた。
かつてTorvalds氏は「NVIDIAはわれわれが関わった中で最悪の企業だった」と語っていたが、今ではその状況は一変している。「現在のNVIDIAはLinuxを非常に重視しており、同社から多くのカーネルメンテナーが出ている」と述べた。
AIそのものは、Linuxやオープンソースソフトウェアにとって、良い面も悪い面もある混合的な存在である。Torvalds氏は、良い面として「AIを活用して、メンテナーがパッチの流れや安定版へのバックポート作業を処理するのを支援する取り組みが進んでいるが、まだ多くは実験段階だ」と語った。
一方で、悪い面として「AIがわれわれのインフラに非常に大きな混乱をもたらしている。AIクローラーがカーネルのソースインフラを這い回っており、それが大きな負担となっている。常にウェブサイトを叩くことで、運営者にとっては計算資源とコストの面で大きな痛手だ」と述べた。
Hondhel氏も同意し、「cURLのDaniel Stenberg氏は、AIによって生成された粗雑なセキュリティ報告が、彼のプロジェクトに対する事実上のサービス拒否(DoS)攻撃だと語っている」と指摘した。これに対しTorvalds氏は、「われわれはそこまでの事態には至っていないが、AIを誤用した人々によって作られたと思われるバグ報告やセキュリティ通知が届いており、それがメンテナーのリソースを奪っているのは確かだ」と述べた。
Hondhel氏はさらに、AIを「オートコレクトの強化版のようなものだと思っている。AIはコード補完や構文支援、標準ライブラリーの活用においては非常に優れている」と述べたが、現時点では実際に動作するプログラムを生成するには至っていないと指摘した。


