「トランプ関税」の合憲性、米最高裁が厳しく追及 口頭弁論で保守派判事も疑問呈す

ダークカラーのコートに赤いネクタイを着けたトランプ米大統領が、各国への関税率が書かれたボードを掲げながら話している

画像提供, KENT NISHIMURA/POOL/EPA-EFE/REX/Shutterstock

アメリカのドナルド・トランプ大統領による広範な関税措置の合憲性が争われている訴訟で、米連邦最高裁判所は5日、口頭弁論を開始した。保守派を含む大半の判事が、関税措置は正当だとするホワイトハウス側の主張に疑問を呈した。

トランプ氏は関税措置について、アメリカの製造業の基盤を回復し、貿易不均衡を是正するために必要だと主張している。しかし、大半の最高裁判事からはこの主張に対して厳しい指摘が相次いだ。

最高裁の判事9人のうち保守派は6人、リベラル派は3人。

関税措置をめぐっては、トランプ氏による大統領権限の逸脱だとして、米国内の中小企業や複数の州が異議を申し立てている。

保守派判事が多数を占める最高裁では通常、重要な判決を下すまでに数カ月を要する。しかし、トランプ政権が大統領権限の拡大を推進する上での最初の試金石になると受け止められているこの訴訟では、より迅速に判断が示されると予想されている。

トランプ氏が指名した保守派のエイミー・コーニー・バレット判事は、「つまり、防衛や産業基盤が脅かされているので、すべての国に関税を課す必要があると主張したいと? スペインやフランスに対してもその必要があると?」と疑問を投げかけた。

また、「(関税対象となっている)一部の国については理解できるが、なぜこれほど多くの国が相互関税政策の対象となる必要があるのか、説明してください」と求めた。

口頭弁論にはスコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官、ジェイミソン・グリア通商代表が出席。最高裁が政権側に有利な判断を下さない場合、政権は別の関税当局に頼る方針だとした。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は口頭弁論に先立ち、「ホワイトハウスは常に、プランBを準備している」と述べていた。

この日の口頭弁論が終わった後、トランプ氏は米FOXニュースに出演し、いい一日だったと思うと語った。

さらに、自分の政権がこの訴訟で敗れれば、この国にとって「壊滅的」なことだとし、「この国の歴史で最も重要な訴訟の一つ」だと付け加えた。

トランプ政権、「国家を滅ぼしかねない」危機に対応と

この訴訟は、 トランプ氏が関税措置の根拠として挙げている1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)の適用をめぐるもの。IEEPAは、「異常かつ並外れた脅威」に対処する権限や、緊急事態に際して貿易を「規制」する権限を大統領に与えている。

トランプ氏は、中国、メキシコ、カナダからの麻薬密輸は緊急事態にあたるとして、2月にIEEPAを初めて適用して3カ国からの輸入品に関税を課した。

4月にもIEEPAに基づく関税措置を発表。ほぼすべての国からの輸入品に10~50%の関税を課すよう命じた。トランプ氏は、アメリカの貿易赤字が「異常かつ並外れた脅威」をもたらしていると主張した。

アメリカは今夏、新たな貿易協定を結ぶよう各国に迫りつつ、これらの関税を断続的に発動した。

トランプ政権は、IEEPAが大統領に与えている規制権限には関税措置も含まれると主張。「国家を滅ぼすような、持続不可能な」危機にアメリカが直面していたため、大統領による緊急対応が必要だったとしている。

政権側の代理人ジョン・サウアー訟務長官は、トランプ氏による関税措置が違法と判断されれば、アメリカは「容赦ない報復貿易措置」にさらされ、「経済と国家安全保障に対する壊滅的な影響」を被るだろうと警告した。

この訴訟が示唆すること

ジョン・ロバーツ連邦最高裁判所長官は、「(関税措置の)正当化が、あらゆる国のあらゆる製品に対して、どんな額でもどんな期間でも構わず関税を課す権限のために利用されている」と指摘した。

税金を課す権限は憲法によって議会に与えられており、最高裁は伝統的に、その権限の議会から政権への委譲に関して制限を設けてきた。

最高裁が今回の訴訟で、トランプ氏に有利な判断を下した場合、「議会が対外貿易規制の責任を完全に放棄するのを阻止できるものはあるのだろうか」と、トランプ氏に指名された保守派のニール・ゴーサッチ判事は疑問を呈した。

そして、政権側の代理人サウアー訟務長官の主張を認める理由を見つけるのに「苦労している」と付け加えた。

「気候変動が起きているという国外からの『異常かつ並外れた脅威』があるとして、大統領がガソリン車や自動車部品に50%の関税を課すことは可能なのだろうか」と、ゴーサッチ判事は疑問を呈した。

関税か税金か

原告である複数の州や民間団体の弁護団は、IEEPAには「関税」という言葉が一切使われておらず、議会には大統領に既存の貿易協定や関税を「無制限に破棄する権限」を与える意図はなかったと主張している。

民間企業側の代理人ニール・カティアル氏は、IEEPAは禁輸や輸入量の設定で貿易を遮断する権限は認めているが、歳入を増やすという目的での関税措置は行き過ぎだと指摘した。

判事は5日の口頭弁論で、輸入者に関税の一部を還付することや、トランプ氏が関税措置の根拠に「緊急事態」をあげていることについては、比較的時間をかけなかった。

代わりに、IEEPAの条文やその歴史に焦点を当てた。歴代大統領は制裁措置の発動にIEEPAを頻繁に適用してきた。しかし、関税措置のために利用したのはトランプ氏が初めてだった。

サウアー訟務長官は、関税は法律で認められたほかの権限の自然な延長として捉えるべきだと主張。これは税金ではないとした。

「何度言っても言い足りないが、(中略)これは規制のための関税であって、税金ではない」

また、歳入を増やすための権限は「付随的なものにすぎない」とも主張した。ただ、トランプ氏自身は関税によって歳入が増えると誇らしげに語っている。

関税と税金の区別は、多くの判事を悩ませているとみられる。

「関税は税金ではないと言いたいようだが、実際のところ、これはまさに税金だ」と、リベラル派のソニア・ソトマイヨール判事は述べた。

一方、何人かの判事は、とりわけ国家安全保障や外交政策の文脈において、大統領権限に制限を設けることへの疑念を示した。

トランプ氏が指名した保守派のブレット・キャバノー判事は、貿易を遮断する権限を大統領に与えておきながら、1%の関税を課す権限を与えないのは「常識的」ではないように思えると述べた。

満席の聴衆、反応は

この訴訟は、トランプ政権がすでに得ているとみられる約900億ドルの関税収入に影響をおよぼす可能性がある。

最高裁は5日、口頭弁論のために集まった聴衆で満員だった。原告側と政府側の主張は3時間近く続いた。

最高裁でトランプ氏に有利な判断が下されれば、政権に不利な下級審判決3件が覆されることになる。

聴衆の中には、サラ・ウェルズ・バッグスの最高経営責任者兼創設者サラ・ウェルズ氏の姿があった。

同社は、授乳器用バッグをデザインし、海外で製造している。関税措置の影響で、今年初めには約2万ドルの関税を支払ったという。その後はサプライチェーンの転換を試みるために輸入を停止。残っていた在庫が完売し、製品開発を停止したため、一部の従業員を解雇せざるを得なかったという。

それでも、法廷でのやり取りに勇気づけられたと、ウェルズ氏は語った。

「大統領がIEEPAのもとで行った越権行為を、判事たちは真に理解している。そう思った」と、ウェルズ氏は述べた。「この権限は制限されるべきだという感覚を、判事たちが持っていると感じた」。