BBCは信頼回復のために「奮闘しなくてはならない」と英文化相 トランプ氏演説映像の編集問題で

ダークカラーのジャケットを着たナンディー文化相が、英下院で話している

画像提供, UK Parliament/PA

画像説明, 英下院で発言するリサ・ナンディー文化相

BBCのドキュメンタリー番組「パノラマ」が行ったドナルド・トランプ米大統領の演説の編集が、視聴者に誤解を与えたとの批判が上がっている問題で、イギリスのリサ・ナンディー文化相は11日、BBCは信頼を回復するために奮闘しなくてはならないと述べた。

ナンディー文化相は、BBCへの特許状(憲章)の見直しが、「真に説明責任を果たす」BBCの確立につながると述べた。また、BBCを「国家的機関」として擁護した。

トランプ氏は10日、自分の演説に対して「パノラマ」が行った編集をめぐり、BBCに対して法的措置を取ると警告した。同氏の弁護団はBBCに対し、14日までに番組の「完全かつ公正な撤回」を行うよう要求。応じなければ10億ドル(約1543億円)の損害賠償を請求すると通告した。

これを受け、BBCのティム・デイヴィー会長は、「私たちは自分たちのジャーナリズムのために戦わねばならない」と述べた。デイヴィー氏は9日、ニュース部門トップのデボラ・ターネス最高経営責任者(CEO)とともに辞任を発表した

英紙テレグラフが今月初めに伝えたBBCの内部メモは、番組「パノラマ」がトランプ氏による2021年1月6日の演説の2カ所をつなぎ合わせて編集したことで、トランプ氏が議事堂を襲撃するよう支持者を明示的に促しているかのように見せ、視聴者に誤解を与えたと指摘していた。BBCのサミール・シャー理事長は10日、英議会下院委員会への書簡で、編集について「判断の誤り」があったとして謝罪した。

流出したメモは、BBCの編集基準委員会の元独立外部顧問で、6月にその任を退いたマイケル・プレスコット氏が書いた。

このメモでは複数の「懸念すべき事柄」が指摘されている。その一つとして、BBCアラビア語について、イスラエル・ガザ戦争報道における偏向の「体系的問題」に対応がとられていないと懸念が示されている。

メモの中でプレスコット氏は、BBCのトランスジェンダー関連の報道についても懸念を表明。トランスジェンダー支持を推進するLGBT(性的少数者)専門記者らによって、事実上の「検閲」がなされているとした。

デイヴィー氏は11日、スタッフに対し、「私たちはいくつかの間違いを犯し、その代償を払うこととなった。しかし、戦う必要もある」と述べた。「この物語は敵だけが語るものではない。我々自身の物語なのだから」。

デイヴィー氏はまた、BBCは「困難な時期」を経験したが、「ただ良い仕事をすれば、それはどんな新聞や武器化よりも雄弁だ」と語った。

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同日午後、ナンディー文化相は英下院で、「危機にひんしているものが何かを考える」べきだと、BBCを攻撃する議員に警告した。

「編集上の欠点への重大な懸念を指摘することと、下院議員が機関(BBC)そのものに持続的な攻撃を仕掛けることは根本的に異なる。BBCは単なる放送局ではなく、我々全員に属する国家的機関だからだ」と、ナンディー氏は述べた。

さらに、BBCは「非常に論争的かつ対立的な問題の報道についてあらゆる方面から批判を受け、特定の政党に放送時間を割きすぎている、あるいはほとんど割いていないと非難されてきた」と付け加えた。

BBCへの特許状は、BBCの資金調達と規制義務を定めたもので、政府と協議して定められる。10年ごとに見直しが行われ、現在の特許状は2027年末に失効する。ナンディー氏は、新たな特許状の制定に向けたプロセスが、「現代にふさわしい使命の刷新」の助けになるだろうと述べた。

「パノラマ」の編集をめぐる批判へのBBCの対応の遅れが、BBCの信頼を損なったことに、ナンディー氏は懸念を示した。

ナンディー氏はBBCアラビア語に「深刻な懸念と欠点」があることを認めつつ、ワールドサービスについては、「暗闇の中にいる人々にとっての丘の上の光」になっているとして強い支持を示した。

BBCの編集指針基準委員会の関係者は、今後数週間以内に公聴会に臨む見通し。

下院の文化・メディア・スポーツ委員会による公聴会には、BBCのシャー理事長、ロビー・ギブ理事、キャロライン・トムソン理事が出席するとみられる。

流出したメモを書いたプレスコット氏と、BBCの元編集顧問キャロライン・ダニエル氏も呼ばれるとみられる。

最大野党・保守党のナイジェル・ハドルストン影の文化相は、BBCには「偏向の事例が多すぎる」ため、「制度上の変化」が必要だと語った。

同党のケミ・ベイドノック党首は11日、BBCは「大切にされるべき」機関だが、視聴契約料(受信料に相当)を支払う人々を繰り返し失望させてきた」とソーシャルメディアに投稿した。

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トランプ氏は、BBCが14日までに番組の「完全かつ公正な撤回」を行わなければ法的措置を取ると警告している。BBCは適切な時期に回答するとしている。

11日のスタッフ向けの電話会議では、デイヴィー氏もシャー氏も、トランプ氏の警告に言及しなかった。

英首相官邸は、これは「BBCの問題だ」としている。

首相官邸の報道官は、「進行中の法的問題について、政府がコメントするのは適切ではないことは明らかだ」と述べた。

「我々の立場は明確だ。BBCは独立した機関で、編集上の決定についての質問にはBBCが回答すべきだ」

演説の編集をめぐる問題が、キア・スターマー英首相とトランプ氏との関係に影響をおよぼすかもしれないという懸念はあるか問われると、前出の報道官は、両首脳は「非常に強い」関係を築いていると答えた。

報道官は、BBCがトランプ氏に直接謝罪すべきかどうかについては言及を避けた。