トランプ氏、自分にはBBCを提訴する「義務」があると 演説編集めぐり

ドナルド・トランプ米大統領の写真

画像提供, Getty Images

アメリカのドナルド・トランプ大統領は10 日、BBCのドキュメンタリー番組「パノラマ」で自身の演説の一部が編集された方法をめぐり、BBCを「訴える義務がある」と述べた。

トランプ氏は米FOXニュースのインタビューで、2021年1月6日の自身の演説が「切り刻まれ」、その提示方法が視聴者を「あざむいた」と語った。

トランプ氏がこの問題について公に発言したのは初めて。これに先立ち、トランプ氏の弁護士はBBCに書簡を送り、同社が撤回、謝罪、補償を行わなければ、10億ドル(約1543億円)の損害賠償を求めて提訴すると警告していた

BBCのサミール・シャー会長はすでに、パノラマの編集は「判断の誤り」だったと謝罪している。

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FOXニュースの「ジ・イングラハム・アングル」に出演したトランプ大統領は、訴訟を起こすかどうかを問われ、「まあ、やらなければならないと思う、分かるだろ、なぜやらないんだ、彼らは人々をあざむいたし、それを認めている」と答えた。

トランプ氏は続けて、「彼らは実際に私の1月6日の演説を変えた。それは美しい演説で、とても落ち着いた演説だったのに、彼らはそれを過激に聞こえるようにした」と述べた。

「そして彼らは実際にそれを変えた。彼らがやったことはかなり信じがたいものだった」

再び訴訟を提起するのかと問われると、トランプ氏は「まあ、私はそれをやる義務があると思う。なぜなら、人々にそんなことをさせてはいけないからだ」と答えた。

このFOXニュースのインタビューは10日に収録されたが、BBCに関する部分はアメリカで11日の夜遅くまで公開されなかった。

BBCは9日にトランプ氏の弁護士から書簡を受け取った。書簡では、ドキュメンタリーの「完全かつ公正な撤回」、謝罪、そして「トランプ大統領に対し、引き起こされた損害に適切に補償すること」を求めている。

書簡は、14日のグリニッジ標準時午後10時までの回答を求めている。

BBCは「適切な時期に回答する」と述べている。

BBCニュースは、大統領のこの発言について、BBCにコメントを求めている。

今年1月にホワイトハウスに戻って以来、トランプ氏は自身に関する報道をめぐり、他のメディアに対しても法的措置を示唆してきた。トランプ氏はアメリカのCBSニュースとABCニュースの双方と和解し、多額の支払いを受けている。また、米紙ニューヨーク・タイムズに対しても法的措置を取る構えだ。

英野党は取材協力を打ち切る意向

編集された演説は、2024年11月の米大統領選の数日前に放送された番組「パノラマ」で放送されたもの。先週、英紙デイリー・テレグラフがBBC内部から流出したメモを公開し、初めて大きな注目を集めた。

そのメモは、BBCの編集指針基準委員会の元外部独立顧問が書いたもので、トランプ氏の演説の一部が編集され、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃を明示的に扇動したかのように示唆する形になっていることに懸念を示していた。

トランプ氏は実際には、「私たちは議事堂に向かって歩いて行く。そして勇敢な上院議員と下院議員を応援する」と述べていた。

しかしパノラマで放送されたドキュメンタリーでは、トランプ氏が「我々は議事堂に向かって歩いて行く。そして私は君たちと一緒にいる。そして戦う。我々は必死に戦う」と発言したように編集されていた。

演説全体では、トランプ氏は「戦う」または「戦っている」という言葉を、さまざまな場面で、合計20回使用していた。

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両氏は、今回の件がBBCの公平性に関してより広範な疑問を投げかけているとする批判に対し、反論してきた。

デイヴィー氏は11日、BBCの全スタッフに対するビデオ会議で、「我々はいくつかの誤りを犯し、それが代償を伴った。しかし戦わなければならない」と述べ、「この物語は敵によって語られるだけではない。我々自身の物語だ」と付け加えた。

また、BBCは「困難な時期にあるが(中略)良い仕事をしている。それはどんな新聞よりも、どんな武器化よりも雄弁だ」と語った。

しかし、この会議に出席したデイヴィー氏もシャー理事長も、トランプ氏の法的措置の脅しには言及しなかった。

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キア・スターマー英首相の報道官は、これは「BBCの問題であり」、「進行中の法的問題について政府がコメントすることは明らかに適切ではない」と述べた。

この対立は、BBCにとって微妙な時期に起きている。BBCのガバナンスと資金調達の枠組みを支える特許状(憲章)が、2027年末に期限を迎える予定となっている。

特許状の更新の協議は、リサ・ナンディー文化相が監督する。ナンディー氏は11日の下院で、この協議により、BBCの「現代にふさわしい使命を更新」し、同社を確実に「真に説明責任を果たす」組織にすると述べた。

また、「編集の欠点への重大な懸念を指摘することと、下院議員がBBCそのものに持続的な攻撃を仕掛けることは根本的に異なる。BBCは単なる放送局ではなく、我々全員に属する国家的機関だ」と語った。

下院の文化委員会は、今後数週間以内にBBCの幹部を呼ぶ予定。これにはサミール・シャー理事長や、理事のロビー・ギブ卿、キャロライン・トムソン理事が含まれる。

また、テレグラフに掲載された流出メモを作成した元編集指針基準顧問のマイケル・プレスコット氏も、証言を求められる見通し。

こうしたなか、野党・リフォームUKが、同党の台頭に関するBBCのドキュメンタリーへの協力を終了する方針だと、同党内部のメールから判明した。

BBCニュースが確認したこのメールは、ドキュメンタリー制作チームには党幹部への「前例のないアクセス」が与えられていたが、トランプ氏をめぐる対立を理由に、映像の使用に対する同意を撤回すべきだと記している。