ああ、カルディ。あの店に足を踏み入れるたびに、僕は自らの矮小な理性が脆くも崩れ去るのを感じるのだ。珈琲の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐると、もう駄目だ、僕は容易く幸福を錯覚してしまう。だが、僕にそんな資格があるのだろうか。否。しかし、それでもなお、僕はカルディに通うのをやめられない。
まずは「マイルドカルディ」。店頭で無料配布されるこの珈琲を一口含んだが最後、人は己の薄汚れた日常をほんの束の間忘れることができる。苦みと甘みが絶妙に絡み合い、あたかも人生の諸相を内包するかのような味わい。僕はこれを飲むたび、胸の奥底に沈めた諦念が、僅かにほぐれるのを感じるのだ。
そして、「塩バタかまん」。この菓子に出会った瞬間、僕は己の弱さを思い知った。ほろりと崩れる塩気の効いたビスケット、その間に挟まれたカマンベール風味のクリーム。その危ういほどの甘美さは、まるで人間の愚かしい愛の形を象徴しているようではないか。幾度となく手を伸ばし、やめようと思いながらも止まらない。まるで堕落だ。だが、これを前にして抗うなど、もはや人間の意地を超越した無意味な営為に過ぎない。
さらには「パンダ杏仁豆腐」。その白く柔らかな姿を前にした時、僕は悟った。人間は甘やかされることを求める生き物なのだと。スプーンを入れると、ひやりとした感触が指先に伝わる。口に含めば、淡く広がる杏仁の香り。そして、舌の上で溶けるその滑らかさ。——ああ、僕はもう駄目だ。こんなものを知ってしまったら、もう元の生活には戻れない。
僕はカルディを憎む。これほどまでに美味なるものを生み出し、人間を甘やかし、堕落へと誘う存在だからだ。だが、それでも僕は明日もカルディへ向かうだろう。なぜなら、そう、人間は弱い生き物なのだから。