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国連も注目する都市デジタルツイン、PLATEAUの海外展開における課題は何か

海外にも広がるアクセンチュアのユースケース支援、“デジタル公共財”としてアピール

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: アクセンチュア

 都市デジタルツインの実現を目指し、国土交通省がさまざまなプレイヤーと連携して推進する「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。今年度もPLATEAUの3D都市モデルを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2025」において、幅広い作品を募集している。賞金総額は200万円となっている。

 本特集ではPLATEAU AWARD 2025の協賛社とともに、PLATEAUに携わる人々が、その先にどんな未来を思い描いているのかを探っていく。

 今年度、Project PLATEAUでは、これまでの取り組みを加速/深化させ、社会の“デジタル公共財”として普及させていくために、ビジョンのアップデート(「PLATEAU VISION v2.0」)を行っている。その中では、キーアクションのひとつとして「都市デジタルツインの海外展開」も掲げている。

 海外のさまざまな国で高まる「都市デジタルツイン」のニーズに、PLATEAUがどのように応えられるのか。また、その際の課題とは何か。

 今回は、さまざまな国連機関の活動を宇宙技術の領域からサポートする国連宇宙部(UNOOSA:United Nations Office for Outer Space Affairs)と、Project PLATEAUを推進する国土交通省 都市局、さらにPLATEAUのエコシステム戦略の立案やその実現に向けた民間サービスのモデル創出を支援してきたアクセンチュアに、PLATEAUの海外展開という未来像を語ってもらった。聞き手は角川アスキー総合研究所の遠藤諭だ。

国際連合宇宙部(UNOOSA) UN-SPIDERアソシエートエキスパートの高見純平氏、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 デジタル情報活用推進室 室長の高峯聡一郎氏

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ シニア・マネジャーの増田暁仁氏、同本部 ストラテジーグループ マネジャーの土田秦平氏

PLATEAUの適用拡大フェーズに向け、海外展開のあり方を模索中

――(アスキー遠藤)まずはアクセンチュアの増田さんから、PLATEAUの海外展開に向けた取り組みの背景について、簡単にご説明いただけますか。

アクセンチュア 増田氏:アクセンチュアでは、Project PLATEAUにおいて、さまざまなユースケースの企画推進や実証を支援し、社会実装に近づけていくことにコミットしてきました。そうした成果もあり、6年目を迎えたPLATEAUは、いよいよ“デジタル公共財”として、世の中に欠かせないものになりつつあると感じています。

 現在、Project PLATEAUは、さまざまなユースケースの実証から社会実装へと進むフェーズ2にありますが、目標である2028年度からのフェーズ3に向けて、データ・カバレッジをさらに拡大することで、幅広いサービスの開発と実装、高度な課題解決につなげていく必要があります。

Project PLATEAUのロードマップ。現在は、2028年度(目標)からのフェーズ3に向けた取り組みを進めている

 そして、フェーズ3に向けたキーアクションのひとつとして、PLATEAUを国外にも輸出し、エコシステムを海外まで広げることにチャレンジできないか、という議論をさせていただいているところです。

今後のキーアクション(案)のひとつとして「都市デジタルツインの海外展開」を掲げている

――海外展開の具体的な取り組みも始まっているのでしょうか。

アクセンチュア 土田氏:そうですね。ひとつの例として、デジタルツイン技術に強みを持つスペースデータさんが、マレーシアで展開されているユースケースをご紹介します。

 ここでは、人工衛星による撮像データをAIで処理することで、いかに低コストで早期に、広域のデジタルツインデータ整備とシミュレーションが実施できるかを検証しています。3D都市モデルが整備できていない都市において、衛星画像をベースにCityGML形式のモデリングを行い、3D都市モデルとの互換性を持たせたうえで、洪水時の状況を三次元的にシミュレーション可能にするという取り組みです。

「衛星データによる都市デジタルツインの構築調査業務」(スペースデータ)の概要

 こうした取り組みを行う背景としては、災害シミュレーションに対するニーズはどの国でも非常に高い一方で、従来の公共測量手法による3D都市モデルの整備には一定のコストと時間がかかり、特に新興国ではモデル整備のハードルが高いという課題があります。

 そもそも多くの国では、2次元の災害リスクマップ、避難誘導マップすら整備できていないのが実情です。加えて、2次元の地図を整備して警戒を呼びかけても、住民の理解はなかなか得られません。

 そこで、簡易的ではありますが衛星画像のAI処理で都市のデジタルツインを構築し、洪水時のシミュレーションにより映像を作ることにしました。3Dの映像ならば、どこから、どんな形で水が押し寄せるのか、そのときにどう逃げればよいのかといったことが、住民にも直感的に分かります。

――近年は、あらゆる国で洪水や津波といった自然災害が頻発していますから、コストがかけられない国でもそれができるというのは、大きなメリットですね。

土田氏:こちらのデモ動画を、先日、オーストラリアで開催された「IAC 2025(国際宇宙会議)」カンファレンスで発表し、現在、各国政府機関からの意見聴取を進めているところです。

 まだ取りまとめの最中ですが、やはり新興国を中心として、位置精度がある程度整った3Dモデリングによる災害シミュレーション、ビジュアライズが短期間でできるソリューションには、強いニーズがあることを感じています。

 今回の対象地域選定では、国連の高見さんにもご協力いただいて、実際にそうしたニーズのある地域を選定することができました。

国連も注目する「都市デジタルツイン」実現プロジェクト、PLATEAUに対する評価は

――なるほど、ここで国連が登場するわけですね。高見さん、どのような背景から協力することになったのかを教えてください。

国連宇宙部 高見氏:まずは国連という大きな組織内での、われわれUNOOSA(国連宇宙部)の役割から簡単に説明させてください。

 「国連機関」と聞くと、一般にはUNDPやUNESCO、UNHCR、WHO、WFP ※注といった名前が思い浮かぶと思います。こうした機関は「専門機関(Specialized Agencies)」と呼ばれており、それぞれ独立したミッションを持って活動を行っています。その活動の中では、衛星画像、地理情報システム(GIS)といったものも使われます。

※注:それぞれ、UNDP(国連開発計画)、UNESCO(国連教育科学文化機関)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、WHO(世界保健機関)、WFP(国連世界食糧計画)。

 ただし、こうした専門機関の活動は基本的にプロジェクトベースで実施されており、利用する技術やツールなどは多種多様です。そこで、国連の中の「セクレタリアット」と呼ばれる事務局組織が、各国連機関を巻き込みながら、スタンダード作りやルールメイキングを担っています。

 こうした事務局は複数あるのですが、わたしの所属するUNOOSAは宇宙領域の事務局組織となります。具体的には、新興国の開発を促進するために利用される宇宙技術に関するルールメイキングや、そのルールを国際展開するための情報発信などを行っています。

――さまざまな活動を行う専門機関があって、それらの機関にスタンダードな技術や仕様を提案したり、支援を行ったりする“調整役”のような組織ということですか。

高見氏:そういうことです。もちろん国連機関だけでなく、加盟国なども支援の対象です。

 宇宙領域を担当する組織として、近年では、衛星画像を使って都市デジタルツインを作る技術の発展に注目していました。そして2024年、過年度に多くの洪水被害が発生したトンガ王国において、デジタルツインを使った災害シミュレーションの実証実験を行うことになり、そこに参画されたスペースデータさんの技術を見て「これは面白い、ぜひ使っていきたい」と考えました。

 先ほど土田さんがご紹介されたマレーシアでの事例も、こうした取り組みの延長線上にあるものです。

港での洪水発生時の影響シミュレーション映像(出典:スペースデータ プレスリリース)

――衛星データが関係する取り組みだから、高見さんのお仕事につながったわけですね。ただし、高精度な3D都市モデルを前提とするPLATEAUとは、かなり毛色の違う取り組みではあります。PLATEAUについてはどのように見ていますか。

高見氏:個人的な話になりますが、前職で航空測量会社に勤務していたときには、PLATEAUのデータをかなり活用していました。その中で感じたことは、PLATEAUの3D都市モデルは建物の詳細な表現が可能なLOD3、3D Tiles形式のデータが整備されておりGISで使いやすいこと、そして「オープンデータ」という思想がとても有益であることの2つでした。

 日本以外の国でも、都市計画や土地利用状況の評価などに衛星画像を役立てよう、という議論はあります。ただし、国土に関する情報の秘匿性や、衛星画像取得のコストなどが課題となって、話が進まない状況も多く見られます。新興国でも、航空機や車にLiDARを搭載して取得した地形の点群データを持っていることはあるのですが、それすらなかなかオープンデータにはなっていません。

 PLATEAUのように、オープンデータとして広く公開し、民間も含めて活用を促していくという考え方は、予算も少ない、リソースもない新興国において、特に有益に働くのではないかと考えています。

――データの正確さやリッチさだけでなく、「オープンであること」もPLATEAUの特徴であり、世界にアピールできる優位性であると。

高見氏:そうですね。オープンであるからこそ、周辺技術もユースケースも発展しています。これを海外展開できれば、日本の企業にとっても政府にとっても「技術の国際展開」という文脈で良いことなのではないでしょうか。

 UNOOSAとしても、そこに協力できると考えています。これまで国連の中でスタンダードづくりを行ってきた実績がありますし、国連だからこそ対外発信や各国のニーズ収集が強みとなっています。さまざまな国連機関、これまでのプロジェクトでデジタルツインを扱ってきた機関などに、もっとPLATEAUについて知ってもらうような声がけができると思います。

 実際、GISを扱う国連機関のコミュニティや、各国政府機関が集まる場などで、PLATEAUのサイトを英訳したものや、英語版の発表資料などを共有するような取り組みはすでに行っています。

――日本のPLATEAUコミュニティとも連携しているのでしょうか。

高見氏:昨年、わたしから国土交通省の都市局さんにお声がけをさせていただきました。

 PLATEAUに関しては、すでに標準のデータ形式や技術スタンダードの資料はあるのですが、「どう使っていくか」というユースケースの資料が整備されていない現状があると思います。その部分をPLATEAUコミュニティと一緒にやっていけたら、海外展開において非常に有益なのではないかと考え、それを提案させていただいているところです。

「これまでどおりでは通用しない」海外展開、 PLATEAUはどう進化すべきか

――ここまでPLATEAUの海外展開、国連からの評価についてお話をいただきましたが、PLATEAUを推進する側の高峯さんはどう感じましたか。

国交省 高峯氏:まず、都市デジタルツインの重要性に対する認識は、国際的にもおおむね一致しているのだと思います。防災をふまえた都市づくりなどを進めるにあたって、都市デジタルツインは非常に重要な技術である、そうした共通認識が広がっていると思います。

 その一方で、今後のProject PLATEAUが海外展開を進めていくことを考えたときには、「これまでどおりのやり方では、なかなか通用しないだろう」という思いもあります。国ごとの制度の違いもありますし、技術面でも再検討が必要になると考えています。

――各国でのデータの秘匿性など、制度面の課題は先ほど話題に上りましたが、技術面ではどんな課題があるのでしょうか。

高峯氏:これまで日本国内で整備されてきたPLATEAUの3D都市モデルは、非常に高精度なものでした。ただし、先ほど紹介いただいたマレーシアやトンガのように、そこまで高精度なデータ整備ができないケースは多くあります。日本国内でも、あらゆる自治体や都市が高精度のデータを整備できるとは限りません。それでも、災害シミュレーションという特定の目的に限れば、ある程度効果が見込めるという話でしたよね。

 冒頭で増田さんがおっしゃったように、PLATEAUは“デジタル公共財”です。この点を、国はあらためて認識する必要があります。民間企業も公共機関も、このデータを使ってデジタルツインの世界を作り、ビジネスを展開したり行政に活用したりする。そのために一番大切なのは「データ・カバレッジの拡大」だと考えています。

 カバレッジ拡大のためには、「あらゆる場所の、高精度なデータ」を追い求めるのではなく、「必要な場所の、必要な精度(品質)のデータ」を整備していく方針にしていく必要があります。PLATEAUのユースケースを見て必要性を感じた自治体や海外の政府が、「早く、安く、効率的に」導入できるものにしていく、ということです。

――各国、各地域の事情や求めるユースケースに応じて、もっと柔軟にしたらいいんじゃないかと。

高峯氏:PLATEAUの技術面での課題と申し上げたのは、まさにこの点です。従来の高精度なデータではないものも包摂できる技術体系や制度体系、もしくはデータ形式に向けた見直しの議論が必要です。それが、海外展開だけでなく、国内における展開拡大においても非常に重要なところではないでしょうか。

 加えて、都市デジタルツインの取り組みに継続性を持たせるためには、「エコシステム」の形成も重要な要素だと考えています。

――データを整備する側だけでなく、それを活用する側もどんどん増えていくことが必要という話ですね。

高峯氏:そうです。エコシステムのあり方も議論が必要ですが、わたしが理想とする姿は、補助金頼みではなく、さまざまなステークホルダーの「受益者負担」で成り立つものです。各自治体と、それを取り巻くステークホルダーの皆さんが、必要な品質の3D都市モデルを自律的に更新していく、そこからビジネスが枝のように広がっていく――。そんなイメージですね。

 そう考えると、たとえば自治体がデータ整備を行っても、そのユースケースが「防災」だけではエコシステムは広がらない。Project PLATEAUとして、「効果を実感できるユースケース」をいかに幅広く用意できるのかも、重要な要素だと考えます。海外展開を通じてエコシステムを輸出していくうえでも、この点がやはり重要になってきます。

PLATEAUならば「AIロボットと人間が共存する未来都市」も描ける

――そろそろまとめに入りたいと思います。増田さん、ここまでの議論を聞いてどう感じたでしょうか。

増田氏:最後に高峯さんが説明されたPLATEAUのエコシステムの姿は、まさにわれわれが考えるものと同じです。

 これまでPLATEAUでは、リッチな情報を含む高精度な3D都市モデルを構築、公開してきました。しかし、ユースケースによっては、たとえば地形や建物形状だけのデータ、モデル化前の点群データといったものも、有益なものとして活用できます。

 ユースケースを拡大していくためには、そうしたものもエコシステムの一部、あるいは拡張領域ととらえて活用を進め、そこにも市場が広がっていくと非常に面白いなと思います。もちろん、それをProject PLATEAUのスコープとするかどうかは、また別の議論になりますが。

――これまでPLATEAUが培ってきた仕組みやルールが、新しいユースケースの登場を妨げることになってしまったら、まさに本末転倒ですからね。

増田氏:「ユースケースの広がり」という視点で、最後にひとつご紹介させていただきたいのが、アクセンチュアが毎年発行している調査レポートの2025年版「テクノロジービジョン 2025」です。今年は「AIの自律宣言」というテーマを掲げて、今後登場するであろう4つの技術トレンドを紹介しています。

 その中で、PLATEAUに関係しそうなのが「大規模言語モデル(LLM)が身体を持つとき」という技術トレンドです。簡単に言えば、これまでのロボティクスが高度なAIを搭載することで大きく進化する、という話です。

アクセンチュア「テクノロジービジョン2025」では、「LLMがロボットという身体を持つ」技術トレンドを紹介している(出典:アクセンチュア)

――ほう、面白そうですね。どう進化するんですか。

増田氏:これまでのロボットは、自律的に判断して動くといっても、たとえば工場や倉庫といった「ロボットのためにデザインされた閉鎖空間」の中でしか動けませんでした。それが、これからは「人間中心にデザインされた空間」、つまりわれわれの日常空間をAIが読み解き、そこを自在に動けるようになる。そして、AIがロボットという身体を通じて人間とコラボレーションしていくようになる。そういった進化です。

 このとき、PLATEAUの3D都市モデルのような正確な位置情報を持った空間情報があれば、ロボットと人間がコラボレーションするための“共通のフィールド”として、かなり有益なデータになるのではないでしょうか。

 PLATEAUについてはさまざまなユースケースが提案されていますが、将来的にはAIロボットと共存する世界も描ける。そうしたユースケースの登場にも期待したいですね。

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