メルマガはこちらから

PAGE
TOP

国内省令改正から国際標準化へ エイターリンク知財担当の小舘氏に聞くルールメイキング戦略

ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:エイターリンク株式会社 小舘直人氏

連載
ASCII STARTUP TechDay 2025

 AIや脱炭素など技術革新が進む中、国際的な「ルールメイキング」はスタートアップにも無関係ではない。ASCII STARTUP TechDay 2025のセッション「新産業創出のルールメイキング戦略 〜変化する世界にスタートアップはどう適応する?~」では、空間伝送型ワイヤレス給電のパイオニア・エイターリンク株式会社から知財標準化マネージャーの小舘直人氏が登壇する。創業当初から標準化に挑む同社の戦略と、スタートアップが世界で戦うためのヒントを聞いた。

――まず、エイターリンクの事業について教えてください。

「ワイヤレス給電で配線のない”デジタル”世界」を実現する会社です。スタンフォード大学発の技術をもとに、離れた場所に電力を送るワイヤレス給電ソリューション「AirPlug™」を開発・販売しています。配線がネックになる分野に応用しており、工場のロボットハンド向けの磁気センサーやビルの空調向け温度センサーは量産化済みです。埋め込み型医療機器などでの展開も視野に入れています。日本・北米を中心に6カ国で展開しており、すでに現場導入も進んでいます。

――標準化の分野では、どんな活動を?

 エイターリンクのワイヤレス給電ソリューション「AirPlug™」は、920MHz帯の周波数を利用しています。創業当初、この周波数帯は日本の総務省令で使用が認められていませんでした。そこで業界団体の1社年て関係省庁に制度化の要望を出し、既存の無線システムと共存できる条件を検討したことで、2022年に総務省令改正を実現しました。いまはその延長として、国際的な標準化活動にも取り組んでいます。世界無線通信会議(WRC)に関連する会合では、各国政府の代表団と直接やり取りしながら、「我々が使用している920MHz帯の1W送電は、人がいる環境で使用することができ、既存の無線通信への影響は限定的である」といった説明をして回っています。

――WRCなどの会議では、どんな議論が行なわれるのでしょう?

 一言でいうと、世界の電波の使い方を“言葉の定義”から”周波数の利用方法”までそろえる作業です。ワイヤレス給電(WPT)という言葉は、スマホの置くだけ充電から電気自動車の充電、宇宙からの送電まで幅広い用途の意味を包含しており、国によって意味の捉え方も制度も違う。そのため、まずは「どの周波数帯を」、「どの程度の出力電力で」、「どのような環境で」使うのかを共通言語化する必要があります。

 大きな会議の場だけでなく、各国の政府担当者とテーブルを囲み、私たちの実験データやレポートを見せながら一つひとつ疑問に答えていきます。「携帯電話に干渉しないのか?」といった具体的な懸念に対して、根拠を示しながら納得してもらう。まさに“1国ずつ説得する”地道な活動です。そうした積み重ねが、世界共通のルールづくりにつながっていきます。

――標準化の現場には、どんな力学が働いているのでしょう?

 大きく分けると「WPTの内側」と「外側」の2つがあります。内側は、同じWPT分野の事業者です。ここでは仲間として協力し合い、共通の定義や安全基準を整えていく関係です。

 一方の外側には、携帯電話など既存の無線通信分野があります。私たちの920MHz帯は携帯電話事業者の利用周波数に近いですので、影響について丁寧に説明します。各国の事情や国益も踏まえつつ、「どこまでなら許容できるか」を一緒に探っていきます。

――現場の雰囲気はどんなものですか?

 意外と穏やかです。交渉というより、科学的な事実を共有する「対話」に近いですね。ただし、政治や産業の背景を理解していないと前に進めません。例えば、オランダでは900MHz帯の一部が軍事利用されていますし、インドでは製造業の国産化を国策として進めています。

 相手国が何を優先しているのかを把握しながら、「この周波数なら共存できるのでは」と道筋を探っていく。そのバランス感覚が求められます。ときには会議後に各国代表と食事をしながら、ざっくばらんに意見交換をすることもあり、その信頼関係から次の合意形成につながることもあります。

――スタートアップが標準化に関与する意義は?

 標準化に関しては、電波などに関わっていないなら、やらなくてもいい領域もあるとは思います。とはいえ、コロナ禍前後で話題になった宅配の「置き配」のルール変更のように、一見関係なさそうでも、今まで当たり前に“無理”だと思っていたことが、規制を変えることで大きくゲームが変わることがあります。国内・海外を含めてロビイングをうまく活用すれば、新しい市場を生み出すこともでき、事業の可能性は大きく広がります。

――知財の観点ではいかがでしょう?

 知財については、オープンクローズ戦略で競争優位性を築いていくことが大事です。USBがいい事例ですね。あらゆるUSB製品はロゴを付けたり認証を受けたりすることで、USB団体に使用料を払っています。当社は特許庁から特許庁長官表彰をいただいたりと、知財活動に積極的に取り組んでいますし、標準規格化のアライアンス団体の設立も準備しています。標準化によって国際的にみんなが「AirPlug™」使えるようにしつつ、プロダクトとライセンスの2つのギアを噛み合わせて回していく。そうした仕組みづくりを、スタートアップにもぜひ意識してもらいたいです。

――当日のセッションではどんな内容をお話しされる予定ですか?

 BluetoothやWi-Fiなど、皆さんが日常的に使っている技術の多くも、実はこうした標準規格アライアンスから生まれています。企業や団体がビジネスとして競争しながらも、普及しなければ利益も生まれない。その絶妙なバランスの上に成り立っています。当日は、こうした実例を踏まえながら「標準化をどう戦略に生かすか」、その具体的なヒントをお話しできればと思います。

小舘 直人(コダテ・ナオト)氏
エイターリンク株式会社 知財標準化マネージャー。創業メンバーとしてVPoEを経て現職。空間伝送型ワイヤレス給電「AirPlug™」に関する知的財産と標準化活動を統括。総務省日本団の一員としてアジアや米州で開催される地域会合や国連の電気通信分野における専門機関であり主にジュネーブで開催されるITU-Rの関連会合に参画している。

 2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、16時15分開始セッション「新産業創出のルールメイキング戦略 〜変化する世界にスタートアップはどう適応する?~」にて、エイターリンクの小舘直人氏にはスタートアップとして海外でのルールメイキングに携わっている実地の経験をお話いただきます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。

 「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要

▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)

 【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
 【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
 【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
 【入場方法】事前登録制(入場無料)
       18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
 【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
 【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
 【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/

 ※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー