1000万曲以上のコレクションの中から、好きな曲を好きなだけ聞けるストリーミング型音楽配信サービスが欧米で急速に普及し始めている。その筆頭が英スポティファイ(Spotify)や仏ディーザー(Deezer)などだが、もう1つ、多くの若者の間で浸透しているサービスがある。2008年のサービス開始からわずか3年で月間3000万人を超える利用者を集めた、米グルーヴシャーク(Grooveshark)だ。
音楽をパソコンやスマートフォンにダウンロードしない、ストリーミング配信であることはスポティファイなどと変わらない。だが、決定的に異なる点がある。それは、利用者が音楽をアップロードし、その音楽を誰もがストリーミングで聞けるようにしている点だ。利用者がビデオをアップロードする米ユーチューブ(YouTube)と似たような仕組みである。
グルーヴシャークの利用者は、CDからコピーした音楽や、ほかの音楽配信サービスでダウンロードした音楽をグルーヴシャークにアップロードしている。一般的に考えれば、購入した音楽を私的利用の範囲を超えてインターネット上でシェアすることは、著作権の観点から“アウト”だろう。しかし、グルーヴシャークの創業者サム・タランティーノ氏は、同社のサービスは米国の「デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act=DMCA)」に従っており、合法だと主張する。
DMCAでは、著作権者からコンテンツの削除要求があった場合に、そのコンテンツをサーバーから削除すれば、サービス提供者側は法的責任を問われないことになっている。新しいサービスや技術の発展を阻害しないための“免責条項”である。
ももクロZもAKBもアップロードされている
しかし、音楽レーベルにとっては、それは見過ごせない大問題だ。当初、グルーヴシャークもユーチューブと同じ路線を歩んでいるように見えた。かつてユーチューブも、利用者がコンテンツをアップロードする行為が著作権侵害に当たると問題になった。だが、ユーチューブの影響力が拡大するに従って、音楽レーベルなど著作権者側はユーチューブをマーケティングに利用するようになり、現在はライセンス契約を結んでいる。
グルーヴシャークも、いったんはEMIミュージック・パブリッシングとライセンス契約を結んだが、2012年1月、EMIは一転してグルーヴシャークを訴え、現在はソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナーミュージックグループ、ユニバーサルミュージックグループを含む4大音楽レーベルすべてから訴えられている。
「グルーヴシャークは違法」との認識が広がったことで、利用者数はピーク時の約4割に相当する月間1200万人まで減少した。しかし、ここにきて、再び利用者が増え始めている。きっかけは、スマートフォンの普及だ。
過去6カ月間でスマートフォン経由での利用者数は250万人となり、パソコンからの利用者を合わせると2000万人程度まで利用者数を戻している。今年1月時点で日本でもスマートフォンから約8万5000人が利用しているという。日本の音楽も、「AKB48」から「ももいろクローバーZ」、「サザンオールスターズ」から「宇多田ヒカル」まで数多くのコンテンツがアップロードされている。
4大音楽レーベルから訴えられながらも、今なおサービスを続けるグルーヴシャークの主張とは。そして、音楽レーベルの怒りとは。グルーヴシャーク創業者兼CEO(最高経営責任者)であるタランティーノ氏と、英国のソニー・ミュジックエンタテインメントで音楽配信事業を担当するエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントのオール・オバーマン氏に、それぞれの言い分を聞いた。

まず、グルーヴシャークのビジネスモデルを簡単に説明してください。
サム・タランティーノ(以下、サム):ストリーミング型音楽配信事業には、大きく分けて2つのビジネスモデルがあります。1つは、広告収入に頼った無料サービスで、もう1つは利用者が定額料金を支払うサービスです。ビデオ配信サービスを見れば、この2つの違いがよく分かるでしょう。前者の代表がユーチューブで、後者がネットフリックス(Netflix)やフールー(Hulu)です。
私たちが前者、つまりユーチューブ型のビジネスモデルを信じているのは、売り上げの点で見ても利用者の数で見ても、最大の動画サービスはユーチューブだからです。欧米のオンライン広告市場では、ざっくり言って、利用者1人当たり約5ドルの売り上げが見込めます。ユーチューブの利用者数を約10億人とすれば、単純計算で50億ドルの売り上げが見込めるわけです。
3000万ユーザー程度では、新人を育てられない
一方、ネットフリックスやフールーでは、おそらく2000万~3000万人の利用者が上限でしょう。潜在的には1億人程度はあるかもしれませんが、まだ先は遠い。音楽業界は、この広告型の無料サービスを生かせば、定額サービスよりももっと稼ぐことができると思っています。
さらに、1つ重要なことを付け加えるとすれば、音楽業界は新人アーティストをいかに育てるかという課題を抱えています。その観点で言えば、3000万人の規模では、新たなアーティストを作り上げることができません。10億人の規模は必要です。かつては、ほぼすべての家庭に普及していたラジオを通じて、新人アーティストを宣伝し、ヒット曲を生みました。しかし、今ではユーチューブがその役割を担っています。
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