Thoughts and Notes from CA

アメリカ在住、外資系企業歴30年の日本人会社員。 アメリカでの生活、海外での子育て、外資でのキャリア構築、そして現地に暮らして見えてきたアメリカ政治のリアルまで、日々の体験を通じて気づいたことをゆるく発信。 グローバルに挑戦する日本人が、少しでも勇気を持てるような発信を目指しています。

英語力の弱さゆえに発揮できた「聞く力」

日本に一時帰国して必ず行くのはラーメン屋と本屋。本屋で平積みの本を見るのは、アマゾンでおすすめをポチるのとは違う独特の醍醐味がある。流行りの本が書店の中央に陣取る一方、「この本まだ売れてるんだぁ」と、根強く平積みの位置を維持するロングセラーもある。特に新書コーナーには常駐している本があり、阿川佐和子さんの『聞く力』は、そんな本の代表格だ。

 

1万部売れるのは出版される本の1%と言われる出版業界で、190万部という驚異的な出版数を誇る。気にはなりつつもスルーしてきた本の一冊であったが、ビジネス書としても推薦されることが多いので今回手に取ってみた。

 

ロングセラー『聞く力』の語るもの

本書は雑誌での対談連載やテレビのインタビュー番組を多くこなしてきた筆者による「聞く」という行為を通して人の魅力を見つけ、感じるための指南書。タイトルには「35のヒント」というサブタイトルがつけられているが、それから想起される「ノウハウ本」の類ではない。どちらかというと、

  • 話相手にはかけがえのない「魅力」が必ずあると信じきる前向きさ

  • 言葉の端々や仕草まで、相手に向けられた圧倒的な注意力

  • 一つ一つのコミュニケーションの経験からの失敗と反省を重ね続け、より「聞く力」を磨くための「学ぶ力」

のような、原理原則が紹介されている。その原理原則も、大上段に構えて偉そうに提示するのではなく、数々の経験や失敗談からじわじわと語られていくため、興味がそそられ、ページを手繰る手も加速される。

 

『聞く力』が軽視されがちなアメリカの職場

私が働くアメリカの職場は、「聞く力」よりも「主張する力」の方が重んじられる。というか、それがないと生き抜いていけない。もちろん、「相手の話をしっかり聞いて、相手の主張を尊重する」ことの重要性はものすごく形式上は重視されている。なので、相手の主張を遮る際は必ず、

I'm not trying to interrupt you, but..
I don't mean to cut you off, but…
いや、君の言うことを遮るわけじゃないんだけど

前置きをつけて遮るということがマナーとなっている。でも、これは形式的な実質的には、

But you're actually interrupting me
でも、結局遮ってるよね

って感じだが、最低限のマナーを守った上での話の主導権の奪い合いなので、仕方がない面もある。というか、そんなことでいちいち凹んでいたら生き抜いていけない。

 

英語力の弱さゆえに発揮できた「聞く力」

そんなアメリカの職場で管理職経験の長い私だが、拙い英語の割に部下から、

You’re the best manager I’ve ever worked with
今までの上司の中で一番やりやすい

と言われることが多い。

 

もちろん、これは現在の上司へのリップサービスもあると思うが、職場が別々になった以前の部下から

I’m currently job hunting and would love to work with you again. Don't you have any open positions at your company?
今、仕事を探していて、また君と働きたいんだけど、君のところで空いているポジションないかなぁ。

という問い合わせを受けることもかなり多い。


で、本書を読んで思ったのだが、私は英語力の弱さゆえに、自己主張の強いアメリカの職場で、結構「聞く力」を発揮していたのではないかということ。部下とは必ず週に一度は一対一で面談をするが、英語力の無さゆえに

  • 聞き流したら絶対に頭に入ってこないので、とにかく相手の言うことに集中する

  • 相手の言っていることがわからなくても、何が相手の伝えたいことなのか丁寧に確認をする

  • 細かな英語のニュアンスを聞き取る自信がないので、声のトーンや仕草にも最新の注意を払う

  • 「きっと良いことを言っているんだろうけど、自分が聞き取れていないだけ」と相手の発言意図を肯定的に捉える

ということを積み重ねている。アメリカの職場は上意下達の雰囲気が強い。なので、上司との面談で自分が話したかった事案を全く聞いてくれずに、自分の要件と指示だけを伝える上司って結構多い。これは結果論ではあるのだが、英語力の弱さゆえに意外にも「聞く力」を発揮できていた気がする。

 

それでも慣れって怖い

私も10年以上アメリカで管理職をしているので、当然「慣れ」がでてきている。それが故に、部下や相手の言うことを「聞き流す」ことが振り返ってみると増えてきている気がする。私が「聞き流す」ことに慣れてしまえば、アメリカ社会では、単なる「英語力が弱い上に、話を聞かないただのおじさん」である。

 

本書を読んで、無自覚に発揮していた自分のアメリカ社会での強みを再認識したので、おごらずにもっと同僚やチームメンバーの話をちゃんと聞くようにしよう。

 

阿川佐和子さんの『聞く力』。ロングセラーにはロングセラーなりの理由があるもの。本書は自分の「聞く」という行為を振り返るよいきっかけを提供してくれる。まだ、手にとったことがない方がいたら、私のような思わぬ発見があるかもしれないので、手にとってみては?

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