Photo Stories撮影ストーリー
ヤママユガ科の一種(Actias ningpoana)の羽は、拡大すると道路を走る車の列に見えると、撮影者のユアン・ジー氏は話す。(PHOTOGRAPH BY YUAN JI, NIKON SMALL WORLD)
「ニコン・スモールワールド顕微鏡写真コンテスト」は49年にわたり、私たちの周りにある小さな世界をあらわにする最高の写真を紹介してきた。
2023年、最優秀賞の栄誉に輝いたのは、オーストラリアのパースにある視力研究センター、ライオンズ・アイ研究所の研究員ハサネイン・カンバリ氏が、同僚のジェイデン・ディッキンソン氏の協力を得て撮影した作品だ。中央にあるのがネズミの網膜で、その周囲に、目と脳の間で情報を伝達する視神経が張り巡らされている。
「(この写真は)私たちが目を開けた瞬間、どのような構造が機能し、どれくらいエネルギーが使われているのか、という感覚を抱かせてくれます」とカンバリ氏は説明する。
赤、黄、青の筋は、視神経の内部構造を分子レベルまで明らかにしている。この前例のない写真は、糖尿病網膜症の治療法の開発に役立つ可能性がある。人間の場合、糖尿病網膜症になると視界がかすみ、やがて完全に見えなくなる。症状の進行を食い止めるには早期発見が重要だ。そして、医師が目の内部をより詳しく見ることができれば、その複雑な内部構造に対する理解を深められ、患者を失明から救えるかもしれない。
私たちの世界を拡大して見てみると、魅力的で新たな知見を得られることがある。この写真は、そのほんの一例だ。ここでは、芸術と科学の両方を体現しているおすすめの作品を紹介しよう。
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