核融合科学研究所(核融合研)、京都大学(京大)、名古屋大学(名大)の3者は11月6日、スウェーデン・キルナに設置したオーロラ観測用ハイパースペクトルカメラ「HySCAI(Hyperspectral Camera for Auroral Imaging)」による観測で、天文薄明時に青い光を放つ窒素イオンオーロラの高度分布を推定することに成功し、発光のピークが高度約200kmに位置し、極めて強い発光強度を示したことを共同で発表した。

  • オーロラが太陽に照らされる部分が変化する様子

    朝方で太陽が上がるにつれて、オーロラの太陽に照らされている部分が高高度から始まり、時間と共に下に広がってくるイメージ(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、核融合研の居田克巳特任教授、同・吉沼幹朗助教、京大 生存圏研究所の海老原祐輔教授、名大 宇宙地球環境研究所の塩川和夫教授の共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する地球科学を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

高度200kmにおける“明るいオーロラ”の発生機序解明へ

オーロラは、地球磁場に沿って宇宙から両極域に降り注いだ電子が衝突することで、地球大気中の窒素や酸素などの分子が励起されたり電離したりし、その緩和過程で発光する自然現象だ。その色は、赤や緑、紫など、多様であり、発光した原子や分子の種類、エネルギー変化の過程によって決まる。この光には、降下粒子大気状態に関する情報が含まれる。

オーロラは地上から見ると空に広がるが、実際の発光高度を確かめるのは難しい。1台のカメラだけでは高度推定が困難と考えられており、これまでは複数の場所に設置したカメラでステレオ(立体的)撮影を行い、高さを推定する手法が用いられていた。

そうした中、研究チームでは、実験室でのプラズマ研究から高度推定の着想を得たという。その研究においては、粒子ビームを打ち込み、それで励起された光と観測する視線の交わりから奥行きを推定する手法が以前より用いられてきた。そこで今回の研究では、その手法を応用し、ビームの代わりに太陽光で励起されたオーロラの発光(共鳴散乱光)が利用された。この光とカメラの視線の交点を用いることで、1台のカメラでも高度推定が可能となったのである。

また、今回の高度推定で用いられたのが、光を細かく分光できるハイパースペクトルカメラだ。通常のカメラによる観測ではたとえフィルターを利用したとしても、夜明けや夕暮れなどの「天文薄明」(空の明るさが完全に暗くならず、地球の大気で太陽光が散乱されることで薄明るい時間帯)の時間帯になると、太陽光の反射と共鳴散乱光が混ざり合い、区別が困難になる。これは、通常のカメラが光を赤・緑・青の3色で分割しているためだ。一方、ハイパースペクトルカメラは、光の色(波長)の情報を数百の細かく分割して観測できるため、両者を正確に分離して捉えられるのである。

もっとも、市販のハイパースペクトルカメラは日中の撮影を想定しており、暗いオーロラを対象とした観測は不可能だ。そこで、オーロラ観測を可能とする高感度のハイパースペクトルカメラのHySCAIの出番である。HySCAIは、核融合研によって2023年5月にスウェーデン・キルナに設置され、同年9月より本格観測を開始。今回の研究では、2023年10月21日早朝にキルナで観測された青いオーロラについて、HySCAIを用いた解析を実施。その結果、オーロラを発光させている窒素イオンの高度分布が精密に推定された。

夜間のオーロラ発光では、窒素イオンの発光は高度約130kmで最も強いことがこれまで知られていた。しかし、今回の夜明けの観測では、発光強度の増加率が高度200kmで最大となることが判明。これにより、少なくとも薄明時には高高度200kmの発光が非常に強く、窒素イオンが高い高度にまで存在している可能性が直接示されたとした。

今回の成果は、過去に報告されてきた「高高度の窒素イオンの密度が従来想定よりも高い可能性」という観測結果を裏付けるものだ。同時に、オーロラ発生の物理過程に関する理論モデルの検証を可能にするという。HySCAIによる高精度観測は、オーロラ研究に新たな道を拓くとした。

また今回のHySCAIによる観測は、従来定量的な観測が困難だった天文薄明の共鳴散乱光の時間変化を正確に捉えることに成功した。干渉フィルタを用いた従来のカメラ撮影と比較して観測領域を広げると共に、新しい高度推定の手法が実現された。さらにHySCAIでは、従来定量的な観測が困難だった天文薄明の共鳴散乱光の時間・高度変化を正確に捉えることもでき、長年にわたって未解決の電離圏イオンの生成・流出問題の解決につながる可能性があるとした。今後、国内外の大学・研究機関と協力し、この学際研究を進展させ、世界のオーロラ研究の発展に寄与することが期待されるとしている。