宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究開発部門が、静止光学衛星による常時地球観測システムの実現に向けた研究開発を加速。「大口径光学アンテナ合成開口実施」(OSCAR-J)と呼称する新しい研究開発プロジェクトを、三菱電機や国立天文台とともに開始する。
OSCAR-Jは、「Optical Synthetic-aperture Collaborative Advanced Research in Japan」の略称。地球静止軌道からでも地球観測に適した観測精度を実現するために、大型で精密な光学望遠鏡の基盤技術を世界に先駆けて獲得することをめざしている。
JAXAではこの構想を実現する手段として、複数枚の鏡を組み合わせて1枚の大きな主鏡として機能させる、分割鏡技術に着目。JAXAによれば、可視光領域の光学衛星への搭載を想定した分割鏡技術は、これが世界初の試みとなる。
「日本の強みである材料技術や精密部品の製造技術、光学センサーの構築技術」などを活用し、宇宙空間で直径3.6m級の大型光学望遠鏡を実現するための地上実証を実施。実際と同じ1/1スケールの機能実証モデルを設計・製造し、分割鏡技術の実現性を確認するための光学試験(合成開口試験)を、地上の試験設備で行う。
同モデルの主鏡は6枚の分割鏡で構成し、このうち2枚を使って鏡の精密製造技術や光学性能を検証。残りの4枚は、同じサイズと質量の模型となる。分割鏡の実現には、複数枚の鏡を高精度に安定して製造する技術や、鏡同士を精密に位置合わせする技術、それを確認するための精密な計測技術といった要素技術が重要となるため、そうした研究開発をJAXAが担当する。
OSCAR-Jでは、今後の地球観測ニーズとして「いつでも観測できる」(常時性)、「見たい場所をすぐ観測できる」(即時性)、「同じ場所を継続して観測できる」(連続性)といった要望に応えられる、新しい広域観測システムを実現するため、“常に上空にあり続けられる”静止軌道の特性と、きわめて高い分解能をもつ大口径光学アンテナ技術を組み合わせる。
これにより、防災・減災などの公的利用や、インフラ監視、経済活動の把握といった民間利用にも役立つ、「これまでにない多様な宇宙利用の未来」をめざす。
さらに、今回の開発で得られる光学アンテナの技術は、地球・月近傍間の高速光通信や、高精度な天文観測用宇宙望遠鏡の実現といった、幅広い応用にもつながるとのこと。
OSCAR-Jに参加する機関と役割分担は以下の通り。
- JAXA:三菱電機/国立天文台と連携し、口径3.6m級光学アンテナの機能実証モデルによる光学試験(合成開口試験)などの分割鏡技術の研究開発を実施
- 三菱電機:軌道上環境を考慮した光学性能予測技術について、従来より高精度な開発プロセスの効率化をめざす宇宙機デジタルツインの基盤技術の研究開発を実施
※ここでの宇宙機デジタルツインとは、「熱・構造・光学を連携させた光学アンテナの精密シミュレーションモデルを構築し、軌道上の熱環境に影響される光学アンテナの光学性能状態を高精度に予測する技術」を指す - 国立天文台:従来困難であった試験環境における凸面大型鏡の鏡面計測技術の研究開発を実施

