AIに仕事を奪われない人の共通点。いま “非認知能力” が人生を左右する

中山芳一様

学力のように数値で示せる能力(認知能力)と異なり、自制心や向上心、協調性といった「測れない力」を総称して「非認知能力」と呼びます。この概念は、かつては主に子どもの教育分野で注目されてきたものですが、IPU・環太平洋大学特命教授の中山芳一先生は、「これからの時代を生きる大人にこそ、非認知能力は不可欠な資質である」と語ります。その理由を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

【プロフィール】
中山芳一(なかやま・よしかず)
1976年生まれ、岡山県出身。All HEROs合同会社代表。IPU・環太平洋大学特命教授。元岡山大学教育推進機構准教授。岡山大学教育学部卒業後、1999年当時は岡山県内に男性たったひとりといわれた学童保育指導員として9年間在職。以降は、教育方法学研究の道へと方向転換する。幼児教育から小中高の学校教育まで、さまざまな教育現場と連携した実践研究を進めるなか、岡山大学で学生たちのキャリア教育の主担当教員となる。四半世紀以上に及ぶ小学生と大学生に対する教育実践の経験から、「非認知能力の育成」という共通点を見出し、全国各地で非認知能力の育成を中心とした教育実践の在り方を提唱してきた。若者たちへの社会進出支援や企業向けセミナーなど、社会人を対象とした活動も精力的に行っており、非認知能力の重要性をあらゆる世代に発信している。主な著書に、『非認知能力の強化書』(東京書籍)、『教師のための「非認知能力」の育て方』(明治図書出版)、『「やってはいけない」子育て 非認知能力を育む6歳からの接し方』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。共著書、監修書も多数。

大きく3つに分類できる非認知能力

評価測定可能ないわゆる「認知能力」に対し、評価測定ができない力を「非認知能力」と呼びます。ただし、評価測定の基準を、もう少し深掘りする必要があります。それは、評価測定する際、「共通の尺度」でできるかどうかというものです。

学力などの認知能力なら、数学のテストが何点で英語が何点というように、共通の尺度で評価測定することができます。一方の非認知能力も、「自分の思いやりは80点くらいで、我慢強さは50点くらいかな」というように「個別の尺度」であれば評価測定できるでしょう。しかし、非認知能力に関しては、すべての人にあてはめて評価測定できる共通の尺度は存在しません。ですから、より厳密にいうなら、非認知能力とは「共通の尺度で評価測定できない力」のことなのです。

いま、「思いやり」や「我慢強さ」を例に挙げたように、非認知能力は、多種多様な能力の総称に過ぎません。その分類は識者によって異なりますが、わたし自身は、以下の3つにわけてとらえています。

非認知能力の分類
【1】自分と向き合う力
【2】自分を高める力
【3】他者とつながる力

【1】自分と向き合う力なら、たとえば「自制心」「忍耐力」「回復力(レジリエンス)」などが挙げられますし、【2】自分を高める力とは、「自信」「楽観性」「向上心」などのことです。ただ、いくら自分自身としっかり向き合って自分を高められたとしても、社会のなかで生きていく以上、他者とのかかわりは避けられません。

そこで求められるのが、【3】他者とつながる力です。これには、たとえば「コミュニケーション力」「共感性」「協調性」などが含まれます。

若手のビジネスシーン。笑顔

非認知能力の注目度が高まっている時代背景

この非認知能力が最初に注目されたのは、子ども教育の分野でした。しかし、私たち大人にとっても非認知能力は非常に重要なものだと考えます。

そう言える要因のひとつが、AIの登場です。AIは、いわば「スーパー認知能力者」といえる存在です。かつてであれば、多種多様な知識をもっている人が周囲から重宝がられることもありましたが、AIが台頭したいま、状況は大きく変わりました。

調べものや分析はAIに任せればよく、代わりに私たちがするべきは、AIにはできないことです。たとえば、多くの人とつながることで新しい価値を生み出すようなことは、人間にしかできません。このような「人間にしかできない分野」では、コミュニケーション力や協調性といった非認知能力が不可欠と言えます。

また、「人生100年時代」になったことも、非認知能力の重要性が高まっている要因として挙げられます。健康寿命が延びたため、60代や70代になっても元気に仕事を続ける人が増えています。ビジネスパーソンとして長く活躍するには、時代の変化に合わせて学び続けるための向上心や自制心が欠かせないでしょう。

そして、人生100年時代においては、リタイアしたあとも長く人生が続きます。老後を豊かなものにしようと思えば、孤立を防いで社会とつながるためのコミュニケーション力など、やはり非認知能力が不可欠になるのです。

腕組みをするビジネスパーソン

大人だからこそ非認知能力を高められる

ただ、「三つ子の魂百まで」という言葉もあるように、一般的には「人間の性格の土台は3歳から10歳くらいまでに決まる」と言われます。みなさんのなかにも、「いまさら自分の性格は変わらない」「大人になって非認知能力を高めるなんて難しそう」と思う人もいるかもしれませんね。

しかし、安心してください。非認知能力の研究を長く続けてきた私が、大人になってからでも非認知能力は高められることを保証します。

非認知能力は、基本的に「行動」に表れます。たとえば、誰かを見て「あいつって我慢強いな」「あの人はコミュニケーションがうまい」と感じるとき、なにを見ているかといえばその人の行動ですよね? つまり、非認知能力は行動に表れるのです。

では、子どもの場合はどうでしょう? じつは、子どもの行動を左右する最大の要素は、非認知能力ではなく「気質」です。気質とは生まれもった個人の性質のことで、基本的には生涯変わらないものです。「生まれついて我慢強い子」もいれば、逆に「生まれついて我慢が利かない子」もいます。そうした気質のちがいが、それぞれの行動を左右するのです。

しかし、小学校3年生や4年生頃から、脳の前頭前野という部分の発達に伴い、自分のことを客観視し行動をモニタリング(自己観察)する能力がぐんと伸びていきます。そうして、「あ、いまちょっとまずいことをしちゃったな」「今後はこうしていこう」というように、自分の行動をコントロールできるようになるのです。

ですから、大人は非認知能力を高められないということはありませんし、むしろ、前頭前野がしっかり発達して自分をコントロールできる大人のほうが、非認知能力は高めやすいのです。

中山芳一先生

【中山芳一先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
「言葉の力」で行動が変わる。AI時代を生き抜く “非認知能力” の磨き方
一流リーダーは、“メタ認知” で自分を磨く。非認知能力を高め、チームを動かす習慣 (※近日公開)

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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