【検証】 ガソリンから生鮮食品まで、トランプ氏は物価を下げるとの公約を守っているのか

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トム・エッジントン記者(BBCヴェリファイ)
ドナルド・トランプ氏は昨年、インフレへの対処を中核とする選挙公約を掲げ、米ホワイトハウスへの復帰を果たした。
生活費の急激な上昇は、アメリカの有権者の最大の関心事となっている。トランプ氏は、ジョー・バイデン前大統領に責任があると非難した。
トランプ氏はまた、「初日から」アメリカ国民の物価を引き下げるとする包括的な公約を打ち出した。
勝利から1年が経過した現在、BBCヴェリファイ(検証チーム)は、トランプ大統領の一部の主張を検証した。
生鮮食品
「私が勝利すれば、就任初日からすぐに物価を引き下げる」
トランプ氏は2024年8月の記者会見で、包装された食品、牛乳、肉類、卵に囲まれながらこう宣言した。
公式統計によると、バイデン氏が大統領だった4カ月間を含む、2025年9月までの12カ月間で、アメリカにおける食料品価格は2.7%上昇した。また、コーヒーは18.9%、牛ひき肉は12.9%、バナナは6.9%それぞれ値段が上がるなど、一部の品目で急上昇が見られている。
トランプ氏が就任した2025年1月以降のデータでは、4月に一度だけ下落が記録されたものの、それ以外の月では、食料品価格が毎月上昇していることが示されている。
食品経済学を専門とするデイヴッド・オルテガ教授はBBCヴェリファイの取材に対し、「アメリカ合衆国の大統領が食品価格を左右できる力は非常に限られており、特に短期的にはほとんど影響を及ぼせない」と語った。
オルテガ教授によると、トランプ氏の関税政策が、特定の食品の価格上昇を招いているという。アメリカで消費されるコーヒーの3分の1はブラジル産だが、これには現在、50%の関税が課されている。
また、トランプ氏による不法移民の取り締まりも影響を及ぼしている可能性があると、オルテガ氏は指摘する。特に農業分野では、労働者の最大40%が非正規滞在者と推定されており、その数は約100万人に上る。
「知っての通り、農家や企業はより多くの労働力を確保するために賃金を引き上げなければならない。しかし、それが価格上昇にどれだけ影響しているのかを算定するのは、現時点ではほぼ不可能だ」
国際会計事務所KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は、関税や移民政策の変更がコスト上昇に寄与しているとの見方を示す。
「こうした政策の変化が、インフレ圧力として現れ始めていることは、疑いようがない」
一方で、他の要因も影響しているとスウォンク氏は指摘する。
「コーヒーについては、非常に悪いことに生育期に気候問題が起こり、それに加えてブラジルおよびコロンビアへの関税が影響を強めた」と、スウォンク氏は説明した。

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ホワイトハウスの高官はBBCヴェリファイに対し、トランプ大統領は南米の天候パターンを制御することはできず、コーヒー価格の高騰は世界的な現象だと述べた。
コーヒーの価格動向を追跡するデータによると、価格は世界的に上昇し、2月にピークを迎えたが、現在は下落傾向にある。
この高官はまた、牛肉価格の上昇に対処するため、大統領が一時的に輸入を増加させていると説明した。
食料品価格は全体的に上昇しているものの、すべての品目が値上がりしているわけではない。
トランプ氏が1月にバイデン氏の後任として就任した時点で、大型卵1ダースの価格は4.93ドル(約740円)だったが、鳥インフルエンザの流行を受け、3月には過去最高の6.23ドル(約930円)に達した。
しかしその後、価格は1ダースあたり3.49ドル(約520円)まで下落している。
「トランプ大統領の供給側政策が、ジョー・バイデンによるインフレ危機を抑え込んでいる」と、ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は述べた。
過去12カ月間で価格が下落したその他の品目には、バターおよびマーガリン(マイナス2%)、アイスクリーム(マイナス0.7%)、冷凍野菜(マイナス0.7%)などが含まれている。
電気料金
大統領選の期間中、トランプ氏は電気料金の大幅な引き下げを公約として掲げた。
「私の政権下では、エネルギーおよび電気料金を12カ月以内、最長でも18カ月以内に半分に削減する」と、トランプ氏は2024年8月の集会で述べた。
しかし、トランプ氏が大統領に就任して以降、エネルギー価格は上昇している。
米エネルギー情報局(EIA)の最新統計によると、2025年8月時点での一般家庭向け電気料金の平均は1キロワット時あたり17.62セントと、1月の15.94セントから上昇している。

米スタンフォード大学プレコート・エネルギー研究所のジェイムズ・スウィーニー教授は、「トランプ氏がその公約を掲げた当時、正確には価格を半減することは不可能だった」と話した。
スウィーニー教授は、電気料金には発電コストだけでなく、「電線や変圧器、その他すべてを通じて電力を供給するための費用」も反映されていると説明した。
価格上昇の要因については、同教授は需要と供給の両面を挙げた。
「現在、需要が急増しており、その主な要因はデータセンターだ。人工知能(AI)を使って画像を生成する人々が、大量の電力を消費している」

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スウィーニー教授は、再生可能エネルギーへの補助金削減や、発電設備の建設費を押し上げる輸入鉄鋼への関税も、価格上昇の一因となっていると付け加えた。
KPMGのスウォンク氏も、AIの急成長が価格上昇を招いているとの見方を示しており、特に低所得層に影響が及んでいると述べた。
「太陽光パネルや再生可能エネルギーへのアクセスがある消費者は、裕福な世帯である傾向があるため、こうした状況は格差をさらに悪化させている」
これに対しホワイトハウスの高官は、トランプ氏が石炭、天然ガス、原子力の利用拡大を進めていると述べ、「増大するエネルギー需要に対応し、エネルギー価格を引き下げる唯一の現実的な方法だ」と説明した。
自動車
トランプ氏は2024年9月の選挙集会で、食料品に関する公約を自動車にも拡大し、支持者に対して「価格を下げる。(中略)食料品、自動車、すべてだ」と述べた。
しかし、アメリカの自動車評価調査会社ケリー・ブルー・ブックによると、2025年9月には新車の平均価格が初めて5万ドル(約770万円)を超え、2025年1月の4万8283ドルから上昇した。

コックス・オートモーティヴのエリン・キーティング氏は、自動車価格は通常、年間2〜3%のペースで上昇すると説明。「過去12カ月間の自動車業界において最大の要因となっている関税は、インフレ効果しかもたらしていない」と述べた。
キーティング氏によれば、新車価格は現在、年間約4%のペースで上昇しており、そのうち少なくとも1ポイントは関税によるものだという。
「2026年にはさらに上昇すると考えている。多くの自動車メーカーは関税の影響による価格引き上げを控えているが、いずれは対応せざるを得なくなる」
キーティング氏はまた、トランプ氏の歳出法案に盛り込まれた税控除が、新車購入の動機付けになる可能性があると指摘した。
自動車価格の上昇についてBBCヴェリファイが質問したところ、ホワイトハウスの高官は、政権が「左派による過激なエネルギー詐欺を覆し、年間数十億ドルを節約するための」歴史的な規制措置を講じたと回答した。

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ガソリン
トランプ氏は選挙期間中、「ガソリン価格を1ガロンあたり2ドル未満にする」と、具体的な公約を掲げた。
米自動車協会(AAA)によれば、トランプ氏がホワイトハウス入りした当日の「レギュラー」ガソリンの平均価格は1ガロンあたり3.125ドル(約489円)だった。
公約で掲げた2ドル未満には遠く及ばないものの、ガソリン価格は全国平均で1ガロンあたり3.079ドル(約472円)まで下落している。
これに対し、ホワイトハウスの高官はBBCヴェリファイに対し、ガソリン価格比較サイトのデータを提示した。このサイトでは、AAAの統計よりもやや低く、全国平均が1ガロンあたり2.97ドル(約456円)となっている。
同高官はさらに、トランプ大統領がアメリカのエネルギーを迅速に放出し、全国の家庭にとって再びガソリンを手頃な価格にしたと述べた。













