
- 長年、会計士として働いてきたウェイ・カン・チャンは、時代の先を行くために「バイブコーディング」を学んだ。
- 彼は、会計などの仕事がAIに取って代わられるかもしれないという報道が相次ぐことで、次第にプレッシャーを感じるようになった。
- だが今ではAIを活用して会計業務の効率化を図っている。そして「バイブコーディング」から学んだことについて語った。
ウェイ・カン・チャン(Wei Khjan Chan)は18年以上にわたって会計士として働いてきた。会計は自動化のリスクが高い職種としてたびたび取り上げられてきた分野だ。自分が携わるような仕事がAI(人工知能)に取って代わられるという見出しを見るたびに、プレッシャーが募るのを感じていた。
「もっと早くAIを知っていればよかった。そうすればもっと早く自分自身をアップデートできたのに」と、39歳のチャンはBusiness Insiderに語っている。
彼は時代の先を行くため、「バイブコーディング」に取り組み始めた。これはAIツールを使ってコードを書き、アプリを開発したりするための手法だ。マレーシアの会計・コンサルティング事務所で監査パートナーを務める彼は、6月にシンガポールとマレーシアで開催されたコーディング講習会に参加した際、この手法に出会った。
テック系のバックグラウンドがないにもかかわらず、チャンはバイブコーディングによって自身の業務上の悩みを解決するウェブアプリを開発できた。
それは出張後の経費精算を効率化するためのもので、AIを活用したOCR(光学文字認識)によって領収書を読み取って処理し、経理チーム向けのファイルに自動的に書き出す仕組みになっている。
またチャンは、請求書の作成など、日常業務の自動化にもAIを活用するようになった。
「このコードはJavaScriptのかたまりで、正直、私には理解できない」と彼は自身のウェブアプリをBusiness Insiderに見せながら語った。
「バイブコーディングのツールとスキルがなければ、会計士がこれを実現することはなかっただろう」
AIはキャリアを変えるためのものではない。守るためのものだ
チャンは、キャリアを変えるためにバイブコーディングを学んだわけではないという。むしろ彼は、「AIの知識」はExcelのように、あらゆるオフィス業務において基本的なスキルだと考えている。
自身でアプリを作る経験を通じて、これらのツールがいかに強力かを実感した。以前は概念実証(PoC)のためにチーム全体で数週間を費やしていたが、今では1週間でプロトタイプを作れるようになったという。
またチャンは、こうした技術の普及も推進しており、マレーシアの会計士協会の委員として、大規模なAI研修の導入を働きかけている。
会計サービスの需要が増す一方で、会計士を目指す人は減少している。人手不足を補う手段として、AIの活用が有効だとチャンは考えている。
バイブコーディングを通して学んだこと
チャンは、AIに取り組み始めた当初、「フルコンテキスト長(AIが一度に処理できる最大文字数)」で詳細なプロンプトを書くようアドバイスされた。しかし、経験を重ねるうちに、長ければいいわけではないことに気が付いた。
「最初のプロンプトはすべてを正しく設定するために非常に重要だ」とチャンは言う。その後、変更が必要であれば、やりたいことをすべてプロンプトに書き込むのではなく、部分的に少しずつ調整するほうが効果的なのだという。
彼はこれを、インターンを指導するような感覚で行っている。つまり、タスクを小さく分解し、正確な指示を与えていく。指示が具体的であるほど、アウトプットの質も高くなる。
すべてを順調に学べたわけではない。あるプロジェクトで、チャンは単一の組織を前提にデータベースを構築した。しかし、後に複数企業への対応を求められた際、データベース全体を作り直す必要に迫られた。
「根本的に変えなくてはならなかった。あれは本当に大きな失敗だった」
この経験から、最初に設計の骨格を正しく作ることが重要だと学んだ。機能や仕様は後からいくらでも追加できる。
デバッグについては、基本的に「AIに不満を伝えるようなものだ」とチャンは笑いながら説明する。エラーメッセージの内容が変われば、それはAIが問題の解決に取り組んでいる良い兆候だ。逆に同じメッセージが繰り返される場合は、会話をリセットし、新しい例を用いてプロンプトを組み直す。
バイブコーディングは、たまにデバッグが必要なことはあるものの、終わりのない長時間の作業になるようなものではないとチャンは述べた。
彼は普段、子どもたちが寝た後に少しずつ手を入れ、機能を追加したり、処理を改善したりしていて、「ゲームをプレイしているような感覚だ」という。
こうして時間をかけて少しずつ組み立て、ちょっとした指示を与えていけば、すべてのパーツが一つにまとまるのだ。







