関税対立で合意するなど、改善傾向にある米中関係。日本では高市早苗政権が発足し、日中関係は悪化する。中国国内では電気自動車(EV)などを中心に「内巻」と呼ばれる過当競争が続く。2026年の中国の政治・経済はどうなるのか。東京財団の柯隆氏に聞いた。

2025年は米国でトランプ第2次政権が発足し、関税戦争が勃発しました。25年10月の首脳会談を経て関税交渉に合意し、米国から中国への追加関税は相互関税とフェンタニル対策分を合わせて20%になりました。

東京財団の柯隆氏(以下、柯氏):25年前半は中国を含めた全世界が「トランプ関税」に振り回されました。中国経済は25年7~9月に落ち込みが表面化しましたが、10月に関税交渉で合意したことで経済は上向きそうです。25年通年の実質国内総生産(GDP)は成長目標である「5%前後」は達成できるでしょう。

 これはあくまでも公表数値です。実態としては4%前後にとどまるのではないか。若者を中心に失業率は高止まりし、不動産不況もあり、国家の収支は赤字です。中小企業は新型コロナウイルス禍の後遺症から復調できていません。

 米中の関税合意で、中国経済は大きく総崩れはしない。26年については楽観視しています。ただし、地方債務など解決すべき問題が残っています。政府の税収は減っており、債務処理の財源がない状況です。

米中関係は悪化しない

柯隆(か・りゅう)氏
柯隆(か・りゅう)氏
東京財団常勤研究員。1963年、中国江蘇省南京市生まれ。88年に来日し、92年に愛知大学法経学部卒業。94年、名古屋大学大学院修士(経済学)。長銀総合研究所国際調査部研究員、富士通総研経済研究所主席研究員などを経て2018年から東京財団に所属。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授も兼務。(写真=的野 弘路)

トランプ関税に対して中国はレアアース規制などのカードを切るなど、25年は米中対立も激化しました。

柯氏:トランプ大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席にとって米中の最終合意はウィンウィンの結果になったと言えます。対立が続くことはトランプ政権にとっても厳しい状況だったのは間違いない。米国経済への影響も避けられなかったでしょう。

 習政権にとっても同様です。レアアース規制というカードは切り続けるのが難しい。問題が長期化すれば中国以外の国で精錬工場の立ち上げが加速してしまいます。

26年の米中関係の行方をどう見ますか。

柯氏:トランプ氏は26年に中間選挙を控えています。これを考慮すると、25年のような横暴な振る舞いはできない。トランプ関税には違憲性を指摘する声もあります。26年の米中関係がより悪化するとは思えません。

一方、日本で高市早苗首相による台湾有事への発言をきっかけに日中関係が悪化しています。すでに中国政府は日本への渡航・留学の自粛を要請するほか、日本からの水産物の輸入停止に踏み切りました。

柯氏:これにはいくつかの偶然が重なりました。まず、米中政府が関税交渉で合意し関係が修復したことです。高市政権にとって、米中関係がこじれるほうが中国とやりやすかったのは間違いないでしょう。

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