■地中に潜む水音
広場の下には、囁きの川が流れていた。
その水は透き通り、人々はそこに声を投げ入れ、
互いの顔を映した。
だが門の上に立つ者たちは告げた。
「その川を塞げ。囁きは混乱を呼ぶ」
石は投げ込まれ、流れはせき止められた。
街は静まり返り、影は長く伸び、夜ごとに靴音が
巡った。
声を失った人々は、胸の奥で波を打たせながらも、口を閉ざした。
やがて川は地下にしみ込み、見えぬところで
勢いを増した。
石垣を揺さぶり、根を削り、広場の地面に
ひびを走らせた。
その時、石は外され、囁きは再び地上を流れた。
だが人々は知っていた。
川の水音は、もう二度と澄みきった調べには
戻らぬことを。
――沈黙は秩序ではない。
それは声を地下に押しやり、やがて都市そのものを
震わせるのだ、と。
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