2025-09-10

地中に潜む水音

広場の下には、囁きの川が流れていた。

その水は透き通り、人々はそこに声を投げ入れ、

互いの顔を映した。

だが門の上に立つ者たちは告げた。

「その川を塞げ。囁きは混乱を呼ぶ」

石は投げ込まれ、流れはせき止められた。

街は静まり返り、影は長く伸び、夜ごとに靴音が

巡った。

声を失った人々は、胸の奥で波を打たせながらも、口を閉ざした。

やがて川は地下にしみ込み、見えぬところで

勢いを増した。

石垣を揺さぶり、根を削り、広場の地面に

ひびを走らせた。

その時、石は外され、囁きは再び地上を流れた。

だが人々は知っていた。

川の水音は、もう二度と澄みきった調べには

戻らぬことを。

――沈黙は秩序ではない。

それは声を地下に押しやり、やがて都市のもの

震わせるのだ、と。

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