善子ちゃんは以前、僕の上司だった。今は妻である。 僕が善子ちゃんを好きになったのは、ある意味で打算の産物だと思っている。マンガみたいに突然恋に落ちたとか、世界一美人に見えるとか、そういうふうに感じたことはない。善子ちゃんより容貌のすぐれた人はいっぱいいるし、突然恋に落ちるって僕は一度も経験ないんだけど、みんなあるんだろうか。友だち(僕の友だちは六人しかいない)も妹も、みんな、ないって言ってたけども。 善子ちゃんは胆力と決断力に富むっていうか、仁をもって義をなすっていうか、なんかこう、武士みたいな人なのである。年齢がいっこしか違わないのが信じられない。少なくとも僕の十倍生きてないとおかしい。いや僕が十倍生きてもああはならないな、うん。 善子ちゃんが上司になって一年も経つと、僕の肩の上あたりに、「この人が職場じゃなくって僕の人生にいてくれたらどんなにいいだろう」みたいな夢が、ふわふわ浮いてくる