基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

人間の性欲の処理が愛玩動物に移行した社会を描き出す、村田沙耶香によるディストピアSFの傑作──『世界99』

世界99 上下巻セット集英社Amazonこの『世界99』は『コンビニ人間』などで知られる村田沙耶香の3年以上にわたる連載をまとめた大長篇だ。10人の子どもを産むことで一人の人間を殺しても良い、特殊なシステムが生まれた日本を描き出す「殺人出産」や、カジュ…

人肉食が合法化した社会で何が起こるのかを描き出す、ディストピア食人ホラーSF──『肉は美し』

SF

肉は美し作者:アグスティナ・バステリカ河出書房新社Amazonこの『肉は美し』はブエノスアイレス生まれの著者による、人肉食が合法化された世界を描き出すディストピアSFホラー長篇だ。2017年に刊行された本作は、ショッキングな設定ながらも全世界100万部…

大富豪が成層圏に二酸化硫黄を散布し始めたら何が起こるのかを全世界規模で描き出す気候変動SFの傑作──『ターミネーション・ショック』

ターミネーション・ショック作者:ニール・スティーヴンスン,坂村健パーソナルメディアAmazonこの『ターミネーション・ショック』は、『スノウ・クラッシュ』をはじめとした数々の近未来・テクノロジーSFで知られるニール・スティーヴンスンによる最新の気…

NHKの放送100年特集ドラマ原作にして、世界のエンタメSFに比肩しうる壮大な長篇──『火星の女王』

火星の女王作者:小川 哲早川書房Amazonこの『火星の女王』はNHKの放送100年特集ドラマ「火星の女王」の原作にして、『君のクイズ』や『地図と拳』で知られる作家・小川哲によるSF長篇だ。小川哲は今年でデビュー10周年だというが、デビューは早川書房が主…

何も対策をうたなかったら〈選択問題〉によって崩壊する可能性が高い保険市場をどのように成立させるのか──『ヤバい保険の経済学』

ヤバい保険の経済学――〈選択問題〉で、なぜいつもコケてしまうのか?作者:リラン・エイナヴ,エイミー・フィンケルスタイン,レイ・フィスマンみすず書房Amazonこの『ヤバい保険の経済学』は、特に保険でよくみられる「選択問題」、またこれが存在する「選択市…

ヒューゴー賞中篇部門を受賞した、遺伝子編集技術によって、マンモスが復活した近未来を描き出す遺伝子工学SF──『絶滅の牙』

絶滅の牙 (創元SF文庫)作者:レイ・ネイラー東京創元社Amazonこの『絶滅の牙』は最新のヒューゴー賞でノヴェラ部門を受賞した、マンモスが〝脱絶滅〟を果たした未来を描き出す遺伝子工学SFだ。マンモスが遺伝子編集技術で復活する! と簡単に言うが、そこに…

2025年ベスト級! フランスの哲学者・作家による、連作短篇と長篇の間のような、独特の味わいを残すSF作品集──『7』

7作者:トリスタン・ガルシア河出書房新社Amazonこの『7』は、フランスの小説家・哲学者のトリスタン・ガルシアによる、連作短篇集と長篇の間のようなSF作品集だ。物語は6つの短篇と一つの中篇から構成されているが、中篇(死んでも同じ自分に転生し幾度も生…

健康に長生きするために、何をしたらいいのか──『OUTLIVE(アウトリブ) 人はどこまで生きられるのか』

OUTLIVE(アウトリブ) 人はどこまで生きられるのか 健康長寿の限界を超える科学的戦略作者:ピーター・アッティア,ビル・ギフォードNHK出版Amazonプーチンと習近平が臓器移植や永遠の命について語り合ったというニュースが先日世界をかけめぐった。権力者は…

ソローキンの集大成的作品と評される、シンゾーもトランプも存在する近未来SFごった煮長篇──『ドクトル・ガーリン』

SF

ドクトル・ガーリン作者:ウラジーミル・ソローキン河出書房新社Amazonこの『ドクトル・ガーリン』は、ロシアを代表する作家のひとりウラジミール・ソローキンによって2021年に刊行された、邦訳としては最新の長篇となる。ソローキンの作品としては、単独の長…

自炊観を一変させる、12カ国の自炊料理調査の旅──『世界自炊紀行』

世界自炊紀行作者:山口祐加晶文社Amazonこの『世界自炊紀行』は、『自分のために料理を作る』などで知られる自炊料理家の山口祐加による、世界12カ国をめぐって各家庭の自炊料理や料理観を調査し、まとめた一冊である。僕も結婚してからずっと家の食事当番で…

脱成長でも経済成長推進でもない、第三の道について──『GROWTH | 「脱」でも「親」でもない新成長論』

GROWTH――「脱」でも「親」でもない新成長論作者:ダニエル・サスキンドみすず書房Amazonこの『GROWTH』は、ロンドン大学キングス・カレッジ研究教授にしてテクノロジーの社会へのインパクトが専門の学者である著者が「経済成長」について語った一冊だ。経済成…

米国の移植医療をめぐる状況と、ひとりの移植医の悔恨を語る回顧録の傑作──『呼吸を取り戻せ | 肺移植がもたらす奇跡と悲劇』

呼吸を取り戻せ――肺移植がもたらす奇跡と悲劇みすず書房Amazonこの『呼吸を取り戻せ』は米国で移植医として長年勤務してきたデヴィッド・ワイルが書く、米国の移植医療にまつわる話と彼の人生を綴った回顧録だ。「移植医」とは耳慣れない言葉だが、外科手術…