
「半導体の分野では、材料メーカーが強くなる時代です。特に材料の世界は日本企業だけで連合を作って、世界を席巻できる。こんな面白い世界はない」
昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧:日立化成)が2023年1月に統合して誕生した化学メーカー「レゾナック」の染宮秀樹CFOは、Business Insider Japanの取材にしみじみとこう語る。
染宮氏は、メリルリンチ、JPモルガン証券などを経て、ソニーの半導体事業のCFOを歴任。投資銀行時代には、ソフトバンクによるスプリントの買収をはじめ数々の「大型案件」にも携わってきた、財務・M&A のプロフェッショナルだ。染宮氏は、レゾナックの髙橋秀仁社長が統合前に昭和電工・昭和電工マテリアルズの社長に就任したタイミングで、「チーム髙橋」の一員としてCFOに着任した。
半導体の「後工程」に必要不可欠な素材で世界トップシェアを誇る同社において、これまでに16事業の売却と半導体事業への投資集中という「経営の選択と集中」にコミットしてきた。
染宮氏に、半導体事業への集中の背景、事業売却に対する考え方、そして、不確実性が高まる時代におけるレゾナックの今後の戦略を聞いた。
・レゾナックの「強み」とは何か
・16事業を売却、「守りの改革」の全容
・トランプ2.0の影響、不確実性時代の半導体
「レゾナックは半導体材料メーカーではない」

—— 2023年1月に昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧:日立化成)が合併してレゾナックが誕生しました。そこから半導体事業へかなり力を注いでいるように感じます。
染宮秀樹CFO:レゾナックが提供しているのは、半導体の材料です。半導体の材料は需要が非常に大きくて、テクノロジーとしても我々が引っ張っていける領域だと自負しています。
ただ、半導体材料メーカーになるのかと言われるとそうではありません。半導体の次に別の需要がきたら、そこに材料を提供する会社になっていくと思います。半導体の次にドラえもんがやってきたら、ドラえもんに材料を提供する会社になるわけです(笑)。
我々は世界で勝っていく「機能性化学メーカー」なんです。「機能性化学」の出口の1つが半導体であり、当面の間そこが1番熱い。
—— あくまでも機能性材料のソリューションの一つとして、今は半導体に注力しているわけですね。ベースとなる研究開発力を保ち続けることが最も重要になりそうです。
我々の中でベースとなる技術は、「作る化学」「混ぜる化学」「考える化学」です。
上流にある、独自の素材を作る力(作る化学)。その素材を組み合わせて、競争力のある製品を生み出す力(混ぜる化学)。分子設計から合成する部分まで、実験を1000回繰り返すのではなくAIとシミュレーションで開発ができる競争力(考える化学)。それが機能性化学の強さのベースになっています。

——だからこそ、市場が変化していくなかで最適な素材を提供できると。
半導体の世界では、「微細化」(編注:半導体の回路を細かくすることで高性能化すること)に限界が見えてきたなかで、我々が提供する後工程材料を組み合わせたパッケージング工程で付加価値を出すことが求められています。そういった時代になると、後工程材料を提供している我々が1番強みを発揮できるんです。
TSMCやサムスン、NVIDIAなど(の半導体製造メーカー)が3つ星のレストランだとすると、我々はそういったレストランから「パスタを作ってほしい」と言われているようなものだったわけです。「85度で10分煮たらこれくらいのアルデンテになるようなリングイネが欲しい」みたいな。それを作って売っていた(材料として提供していた)わけです。
ところが、これからは違います。例えば、我々の代表的な製品に「銅張積層板」という材料があるのですが、そこに塗る樹脂の特性として「高温になっても反らない」という要素が求められています。
「3年後にこれだけの高温でも反りを抑えられる技術を実現できる、5年後にはこうできる」と分かっていると、それを基に「こんな構造の積層のパッケージが作れます」と、お客様に提案できるようになるんです。そうなると、だんだんと後工程の材料屋の付加価値が高くなっていく。そういう方向を目指していこうとしています。

—— レストランに食材と一緒にレシピを売っていく、と。具体的にどう実現しようとしているのでしょうか。
レゾナックが保有する最新パッケージ技術に対応した設備を備える「パッケージングソリューションセンター」が、それを目指す施設です。
我々とコンソーシアムを組んだ同業者が提供する材料や、装置メーカーも交えて、「将来こういうパッケージを作りたい」という試作品を作り、どの程度パフォーマンスを上げられるかを評価できます。おそらく世界中でそういった施設を持っている材料屋は我々だけです。
半導体の微細化が主流だった時代には、ロードマップを示していたのは東京エレクトロンやApplied Materials(アプライド・マテリアルズ)、ASMLといった装置メーカーでした。
後工程(が重要な)の世界になっていくと、材料屋から提供できるロードマップがどんどん出てくるようになる。理想は「オイシックス」です。
オイシックスのミールキットを提供されるレシピ通りに作ると、むちゃくちゃ美味しい料理ができますよね。 オイシックスが提供しているものは、材料のパッケージです。
同じように、我々が売っているのも材料のパッケージです。それに基づいて「こういうレシピで作ってください」と、我々がお客様をガイドできるような存在になっていくのが理想なんです。
半導体注力へ、進めてきた「守り」の事業改革

—— レゾナックが誕生してから2年以上経過しました。半導体領域へ注力していく中で、これまでは「守り」の経営を続けてきたと聞きます。具体的には何をやってきたのでしょうか。
いくつかの側面があります。まず1つは、レゾナックでは半導体材料を中心とした成長事業で全EBITDAの約6割 (2024年度)を稼いでいます。一方、売上高だと全体の3割程度です。売り上げの残りの6、7割の事業は、収益面で半導体材料に劣っていた。やっぱりある程度、事業を再構築する必要がありました。
もともとレゾナックは、昭和電工時代に日立化成を1兆円で買収する際に、巨額の借金をしており、会社のバランスシート(貸借対照表)に課題があったんです。 そういった状態から、成長投資を継続できて、業界再編のようなことも仕掛けられる状態にまで修復していくことも必要でした。
—— 事業再編の基準は?
ポートフォリオの中で、「3つのクライテリア(基準)」を設けていました。戦略適合性とハードルレートを超える資本収益性、そして我々がベストオーナーかどうかです。
この3つの視点から見たときに、レゾナックの外に出した方がお互いにとってプラスになる事業は売却を進めていく判断をしました。ポートフォリオに残すことにした事業も、モビリティ事業のように構造改革をして収益性を取り戻していく取り組みを進めてきました。
筋肉質なポートフォリオにしていこう、というのが守りのアクションの1つでした。











