第2回 縄文人のDNAでわかった驚きの事実、瞳の色や酒の強さも
縄文人の人骨としては、異例なほど保存状態がよかった船泊23号からは、現代人なみの精度でゲノムが得られた。そして、いわゆる一塩基多型の違いに基づいた風貌まで再現された。
人の風貌というのは、非常に印象深いものだから、船泊23号の復顔は、国立科学博物館の特別展「古代DNA」においても、まさに「顔」役として起用されている。
しかし、古代ゲノム研究の射程は、それにとどまらない。船泊23号のゲノムからわかる特徴には、容貌といったものだけでなく、3800年前の礼文島での暮らしぶりに直結するものもあった。引き続き、神澤さんに話を聞く。
「船泊23号は、脂肪代謝に関わるCPT1A遺伝子に特別な変異を持っていました。この変異は現代人ではほぼ見られないんですけど、一部だけ、北極圏のエスキモーの人たちに、共通する変異が見られます。それは、脂肪代謝に関係するもので、脂肪からエネルギーを取り出すのに有利に働きます。北極圏に住む人たちは、エネルギーの多くを狩猟で得たアザラシの脂肪などから得てきたので、その変異が定着したのだと考えられています。それと同じ変異が、船泊23号にも、見つかったんです」
この非常に珍しい変異は、船泊23号だけではなく、同時に分析された男性の船泊5号にも見られた。つまり、船泊遺跡の集団にも定着した変異だった可能性がある。船泊遺跡からは狩猟道具やアザラシなどの骨などが出土しており、海獣類の狩猟が行われていたことは明らかだし、食事の8割方が海産物だったことが、骨の炭素・窒素の同位体比率を調べる方法でも示唆されている。
「礼文島は、冬は極寒ですので、夏などの季節限定的に来て狩猟する生活をしていたと考えています。礼文島のすぐ近くにトド島という島があるんですけれども、海獣類が多く来る地域だったようです。だから、実際に脂肪を多く摂取していたはずですので、ゲノムで見たときに、脂肪代謝に適した変異が存在しているのは合理的なんです」
さらに、船泊23号の体質にまつわることで興味をそそるのは、どうやら「酒に強かった」ということだ。わたしたちがアルコールを摂取したとき、代謝の過程で有害なアセトアルデヒドが発生し、それによって、顔が赤くなったり、気持ちが悪くなったり、二日酔いになったりする。船泊23号は、アセトアルデヒドを分解する酵素の遺伝子が「正常型」で、つまり、アセトアルデヒドを素早く分解できたので、快適に飲酒できたかもしれない。








