俺たちは氷の中で生まれた。
狩りの最中に仲間の耳が凍り落ちるのは日常茶飯事だったし、マンモスの肉が腐る前に食べきれなければ、次の食料まで飢えるしかなかった。
寒さに負けて死んだ子どもを数えたらキリがない。
それでも、俺たちは生きた。
最近「氷河期世代への支援」とか言ってるのを見るたびに、胸がざわつく。
でもな、俺たちはマジで氷の中だったんだよ。リアルで氷河の中。ツンドラ。永久凍土。石しかない。
履歴書なんて書いたことないし、字すら知らんかった。でも、木の枝から槍を削るスキルだけで、群れの中に居場所をつくってきた。
それが社会ってもんだった。
あの頃はな、火を知ってるってだけでマウントが取れた。
「お前の部族、まだ火知らねぇの?」って。
今で言うと、たぶんスマホ持ってないやつくらいの扱いだった。
あと、洞窟の壁に絵を描くやつがいて、正直ちょっとウザかった。
「これ、俺たちの文化の記録だから」って言うけど、俺は見てのとおりマンモスしか描かれてないあれを文化と呼ぶ勇気はない。
でもそうやって、バカみたいな寒さの中でも笑いながら、俺たちは生きてた。
火を囲んで、肉を焼いて、凍った鹿の内臓をすすって。
あれが青春だった。
あの後、温暖化が進んで、獲物が減って、どこに行っても水ばっかりで、
結局、火も槍も使いどころがなくなって、俺たちは過去の世代になってしまった。
だから今、氷河期世代とか軽々しく言う若いのを見ると、思わず言いたくなる。
お前らが履歴書で苦しんでたとき、俺は氷の洞窟でトナカイの骨を煮ていた、と。
こっちは履歴書どころか、紙すらなかったんだよ。
筆記用具? 黒曜石しかない。
でも誰も労ってくれない。
せめてこうして、記録を残しておく