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ブラックフライデー
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戦後のテレビ草創期から活躍し、ユニセフ親善大使としても活動している黒柳徹子さん。 俳優や音楽家、写真家、研究者など、多彩な人々と交流を重ねてきた黒柳さんは、作家たちとの出会いからも大きな影響を受けてきた。 そのひとりが、文豪・森鴎外の娘であり、耽美な世界観を持つ作家・森茉莉さん。出会ったのは、森さんが80歳を迎えた頃だった。 古びたアパートの一室での一夜や、深夜の長電話の数々。黒柳さんにとって、森さんとの時間は豊かで忘れがたいひとときだったという。 今回は、黒柳さんのエッセイ集『トットあした』(新潮社)から、この稀有な女性との出会いの記憶をお届けする。 黒柳徹子「森茉莉さんのこと――『トットあした』より」 森茉莉さんの小説を、私に激賞したのは三島由紀夫さんだった。 六本木の「鮨長」は三島さんも行きつけにしていて、時おり、顔を合わせた。三島さんの書かれた「熱帯樹」という芝居を観に行ったら、ロ
小泉悠・評「『ラスボス』が語る地経学入門」 地経学という言葉を頻繁に目にするようになったのはいつ頃からだろうか。私の場合、「オッ、地政学かと思ったら違うのか。地経学なんていう言葉があるのか」というようなことを数年前に思った記憶があるので、おそらく横文字ではなく日本語で遭遇したのだろう。とすると、2020年代に入る頃には、もうこの概念が日本語になって言論空間で流通していたことになる。 そうこうするうちに2022年には地経学研究所(IOG)が設立されて、我が国における外交・安全保障議論の中心に「地経学」がドーンと鎮座しているということになった。本書『地経学とは何か─経済が武器化する時代の戦略思考─』の著者である鈴木一人教授は、まさにそのIOGの所長を務める人物である。ということは、日本における地経学議論のラスボスみたいな存在だ。そのラスボスが地経学について語る本書は、入門編として最適の一冊と言
堀元見・著「最高の浅瀬弾丸ツアーみたいな本」 良質な知識エンタメには、必ず良い問いがある。 『会話の0.2秒を言語学する』はそれを改めて実感させてくれる本だ。 「会話のターンが切り替わるわずか0.2秒の間に、脳内で何が起きているのか」という問いは極めて分かりやすく魅力的で、読者を自然に言語学の世界にいざなってくれる。語用論だの統語論だの意味論だのという、門外漢からは何をやっているかすら分からない言語学のジャンルに次々に足を突っ込んだかと思ったら次々に離脱する。ひとつの問いを追いかけていくうちに、なんとなく色々なジャンルを浅く広く知れて得した気分になる。七つの海の浅瀬で遊び回る弾丸ツアーみたいな本だ。 著者の水野と僕はもう5年近く「ゆる言語学ラジオ」というYouTubeチャンネルをやっている。僕たちは昔からこういう「浅瀬弾丸ツアー」みたいなコンテンツが好きで、その共通点があったから、一緒に知
戦後八十年を契機にして、「なぜ日本は戦争をしたのか」という問いが改めて話題になっている。各界の俊英を集めた対米戦争シミュレーションで「必敗」という結論まで得ながら、当時の政府と軍部は開戦を決断した。従来の仮説では、米国の経済制裁によって、日本は資源確保に行き詰まり、数年で苦境に陥ると考えられていた。そのため低い勝算であっても対米戦に活路を見出さざるを得なかった、というわけだ。 つまり日本の損失を回避するために、時の権力者たちはみんなで危ない橋を渡ることに賭けた、というのだ。この非合理ともいえる賭けに国民の多くが巻き込まれ、数多の人命が失われた。だが当時はマスコミの扇動もあり、国民の多くもその決断を支持したではないか、とされている。みんなで危ない橋を渡ったのだから、日本国民全体が責任を負うべきだ、という極論までこの通説は地続きである。 だが本書の見解は違う。なによりも経済的要因から戦争をみて
言語化という言葉が大はやりだ。自分の気持ちを上手に言語化したい。普通の人にはできないすごい技を言語化したい。しかし、人間ならだれでもできるスゴイことがある。言語を使えることである。そして、様々なことの言語化の中で、言語の言語化――言語を使うときに頭の中で起こっていること――がもっとも難しいということを知っている人はめったにいない。この難題に果敢に挑んだのが、軽妙な語り口で言語を伝える人気YouTube番組のパーソナリティの水野太貴氏だ。氏は言語の職業研究者ではない。しかし「ゆる言語学ラジオ」の軽妙なテイストを期待して本書を手に取ると、中身の濃さに打ちのめされるかもしれない。夜も昼も言語のことを考えている言語オタクが本気で書いた「ガチ本」だ。 私たちは言語を空気とおなじくらいあたりまえだと思い、言語を話せる自分の凄さをわかっていない。著者は普通の人が会話をするときにまったく気づかないで行って
老若男女が「推し」を持つようになった現在、職場その他で推しについて語っている人を横目に見ながら、なんとなくの疎外感を覚えている人もいるのではないか。 一体、彼ら彼女らは何をそんなに嬉しそうに盛り上がっているのか―――そんな人の目にこの対談はどう映るだろうか。オタクやアイドル本人の心理を描いた短編集『くたばれ地下アイドル』でデビューした作家、小林早代子さんと、ブロガーで旧ジャニーズ事務所時代からSTARTO ENTERTAINMENTのタレントを10年以上見守ってきた、推し活界のトップランナーであるブロガー・あややさん。 コロナ禍、ジャニーズ事務所問題、タレントたちの独立と激動の数年間にオタクたちはどう変わったのか。彼女たちはいま何を感じているか。 互いの推しが事務所を退所して…… 小林 私のデビュー作『くたばれ地下アイドル』刊行時にあややさんと対談させていただきましたが、この数年でオタクと
【全2回(前編/後編)の後編】 国内外で動画配信され、世界中で話題となっている高畑勲監督のアニメ映画「火垂るの墓」。今年の8月15日には、高畑監督が亡くなって以来7年ぶりの「金曜ロードショー」放送が決まっている。 戦争末期、神戸の街で飢えと孤独にさらされながら必死に生きようとする14歳の少年・清太と、4歳の幼い妹・節子。そんな兄妹の過酷な運命を描いた同作は空襲、孤立、そして飢餓の描写が観る者の胸を締めつける物語だ。 原作者の野坂昭如氏は、「火垂るの墓」と「アメリカひじき」の2作で第58回直木賞を受賞し、職業作家となる悲願を果たした。しかし、執筆後は一度も「火垂るの墓」を読み返すことはなかったという。 なぜ、自身の代表作となった傑作を手に取ろうとしなかったのか。それは、野坂氏が抱え続けてきた“自責の念”があったからだ、と指摘するのは文学やメディアの現場に長く関わってきた南陀楼綾繁(なんだろう
水野太貴・評「『ゆる言語学ラジオ』相方より」 幸運なことに、著者の堀元さんは面白い雑学を見極めるセンスと、それを適切に配列し、良質なコンテンツに変える構成能力に長けている。ところが不幸なことに、彼はその才能を余すところなく無駄遣いした。端的に言うと、『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』はそういう本である。 堀元さんとの付き合いは長い。YouTube、Podcast番組「ゆる言語学ラジオ」「ゆるコンピュータ科学ラジオ」をふたりで始めてもう3年以上経つ。同番組でも、その嗅覚と構成力はいかんなく発揮されている。 僕もゆる言語学ラジオの台本を構成することがあるのだが、面白い研究や知識というのは諸刃の剣だと常々思う。それ自体が面白すぎると、構成をついサボってしまうからだ。「成人向けの作品で使われるオノマトペ『くぱぁ』の原形は紀元前5世紀にあった」(第2部Section II)という事実があれ
あいつ「ケーキ切れなそう」 ネット上ではかつてとは比べ物にならないスピードで俗語(スラング)が生まれては消えている。最近、物議を醸している言葉の一つが「ケーキ切れそう」「ケーキ切れな(さ)そう」というものだ。 この言葉は手先の器用さや、ナイフの使い方に関するものではない。 「ケーキ切れなそう」というのは、あまり頭が良くない、という意味。つまり一種の悪口である。 「語源」は、宮口幸治・立命館大学教授の著書『ケーキの切れない非行少年たち』。 宮口氏が児童精神科医として医療少年院に勤務した時の経験をベースに書かれた同書はコミック化もされ、シリーズ累計で180万部のベストセラーとなっている。 宮口氏が同書で明らかにした「ケーキの切れない非行少年」の存在は、これまであまり語られてこなかった「境界知能」という問題を世に多く広めることにつながった。 ケーキを切れないとはどういうことか。彼らはどうして非行
イスラエルによるガザ攻撃は、ジェノサイドであると国際的な批判がたかまっている。あるアメリカ人作家は、80年前にナチス・ドイツに迫害され、あるいは虐殺されたユダヤ人たちと今日過酷な状況にあるパレスチナ人たちを重ね合わせ、警告の声をあげている。 その作家は、奇想天外なショートショート集『一人の男が飛行機から飛び降りる』、『ケータイ・ストーリーズ』(ともに柴田元幸訳)などでカルト的な人気を誇るアメリカ人小説家のバリー・ユアグロー。 彼の父はベルリン大学でアインシュタインに物理を学び、文豪ヘルマン・ヘッセと文通するなどドイツのワイマール文化を謳歌していた。が、ヒットラーが政権を奪取した1933年、ナチ突撃隊に襲われ、数週間の潜伏後、偽造パスポートを持って国外脱出し、パレスチナのユダヤ人社会に移住した。しかし、そこでもまた有害なナショナリズムが吹き荒れ、テロが横行していたーー。 ユアグローが亡き父の
不注意さや落ち着きのなさ、考える前に行動してしまう――そんな特性を持つADHD(注意欠如・多動症)。 「飽きっぽい」「忘れ物や失くし物が多い」「じっとしているのが苦手」「順番を待てない」「会話の流れを気にせず発言する」 こうした行動の特徴から、日常生活の中でうまく環境に適応できず、困りごとを抱えることもあります。 このように、ついネガティブに語られがちなADHDについて、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンさんは、全く違う角度から光を当てています。彼の著書『多動脳─ADHDの真実─』(新潮社)では、ADHDを「弱点」ではなく「能力」としてとらえ直し、その本質をわかりやすく伝えています。 『スマホ脳』や『ストレス脳』といったベストセラーでも知られるハンセンさんの考え方に、大きく共感を寄せたのが、精神科医の和田秀樹さんです。 自身もADHDであることを公表している和田さん。60歳を超えた
第一学習社『カラー版新国語便覧』 「値段に対して本の価値が高すぎる!」――目下SNSで話題のこのベストセラー、改めて手にとると確かに情報量が凄まじい。え、カラーでこの厚みで950円? しかも自分が学生時代に使っていたものよりずいぶん親切なつくりになっているような……? 今回取り上げるのは第一学習社『カラー版新国語便覧』。便覧――教科書でも問題集でもない、ロッカーに置きっぱなしだったという人も多かろう、分厚くて重たいアレである。 そもそも国語便覧や資料集のような、教科書会社が発行する副教材は学校専売であることが多く、本来なら一般に出回らない。本書が例外的にオンラインショップでの販売に至ったきっかけは、web上のとある記事が今年に入ってバズり、「読みたい!」という声が数多く寄せられたからだ。 「【編集は語る】第一学習社 国語課のディープな座談会『国語便覧』」と題されたそのコラムでは、それぞれ現
フリー記者の烏賀陽弘道氏は職業柄、政府や企業のプロパガンダをウォッチする習慣があるという。 その烏賀陽氏が最近心から驚き、かつ悔しさを感じたのが、斎藤元彦兵庫県知事の選挙戦をめぐるPR会社社長の「告白」だったという。 何に驚き、何が悔しかったのか。烏賀陽氏による「プロパガンダ・リテラシーのすすめ」とは――。 烏賀陽弘道・評「斎藤知事の『ダーク・オペレーション』にはたまげた」 最近、地団駄を踏むほど悔しい思いをした。 兵庫県の斎藤元彦知事が再選を果たした昨年11月17日の選挙で、斎藤陣営のPR会社「メルチュ」の折田楓社長が、そのプロパガンダ戦略を詳細に記したブログを公開したのは同20日だった。 これまで、選挙候補者や政治家、政府のプロパガンダを請け負うPR企業の存在は、大手広告代理店やPR会社の名前が囁かれながら、往々にして実態は闇の中に隠れていた。彼らは隠密と保秘が鉄則で、クライアントとの
2023年に第一子を出産した山口真由さん 山口真由さんは一昨年、第一子を出産した。山口さんは東京大学法学部在学中に司法試験と国家公務員I種試験に合格、卒業後は財務官僚を経て弁護士に転身し、ハーバード大学ロースクールを卒業してニューヨーク州弁護士登録。現在は信州大学特任教授を務めながら、執筆活動やテレビ出演に活躍中だ。30代で当時はそこまで一般的ではなかった卵子凍結の体験談を公表し、キャリアと妊活のはざまで感じた葛藤を告白したことは話題を呼んだ。 現在、子育て真っ最中の山口さんは、「母親に向いてない」と思わされることはしょっちゅうだという。それでも母になったことを後悔してはいない。ここで取り上げるNHKの女性記者と女性ディレクターが書いた『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』や、彼女たちが本を書くきっかけとなったイスラエル発のノンフィクション『母親になって後悔し
遠藤周作氏 2020年に発見された遠藤周作の未発表原稿のほか、短編6作を収録した文庫『影に対して―母をめぐる物語―』が刊行した。没後25年を経て見つかった表題作はどのような作品なのか? 文庫刊行に際して、息子・龍之介氏が遠藤周作との思い出と、未発表原稿への想いを綴った書評を紹介する。 遠藤龍之介・評「封印された原稿」 父の未発表原稿が発見された――遠藤周作文学館から連絡を受けた時には驚きました。死後二十五年も経って……。 主人公は小説家になる夢をあきらめた男。「なんでもいいから、自分しかできないと思うことを見つけて頂戴」。母の言葉を胸に小説家を志したのに、ついぞ母の望む生き方はできずにいる。この主人公は明らかに父であり、「母」は父の母親である遠藤郁です。 父はこれまで何度も小説に母親を登場させてきましたが、「影に対して」には母親への思いがより濃厚に描かれていました。家族描写など極めて私小説
「図書館に住みたい!」その理想を実現した2人の家づくりをまとめた一冊『図書館を建てる、図書館で暮らす―本のための家づくり―』(新潮社)が刊行された。 読書家なら震えるほど羨ましいコンセプトの自宅を作り上げた2人は、学芸プロデューサーの橋本麻里さんと、文筆家でゲーム作家の山本貴光さんだ。 2019年末に建ちあがった、膨大な蔵書を収める家〈森の図書館〉を作り上げるまで、そしてそこで実際に暮らして考えたことを綴った本作の読みどころとは? 翻訳家で文芸評論家の鴻巣友季子さんの書評を紹介する。 鴻巣友季子・評「『良き隣人』たちと築く知の宇宙」 『図書館を建てる、図書館で暮らす―本のための家づくり―』は、多くの読書家、蔵書家、あるいは積ん読家にとって、まさに憧憬の書と言えるだろう。 私はご夫妻のうち山本さんと先にお会いしているが、初対面で戴いた瀟洒な名刺には「森の図書館司書長」と刷りこまれていた。よく
いよいよ第2期トランプ政権が、1月20日にスタートする。とはいえ、あのハチャメチャな言動を続けてきたトランプがなぜ大統領に選ばれたのか、多くの日本人が十分に理解しているとは言いがたい。 トランプを支持する人たちの言い分に耳を傾けることで、アメリカの分断の深層に迫った著書『トランプ再熱狂の正体』を、アメリカ政治と社会に詳しいエコノミスト・吉崎達彦さんの書評で紹介する。 *** なぜ、ドナルド・トランプ氏は再選されたのか。前回の選挙結果を受け入れず、司法の追及も受けている人物が、なぜかくも熱狂をもって迎えられるのか。 「トランプ現象」には既にさまざまな解説本が出ている。ラストベルトに住むトランプ支持者たちの実態については、朝日新聞の金成隆一記者による『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』(岩波新書)など一連の優れた著作がある。歴史的な洞察については、会田弘継氏の『それでもなぜ、トラ
好きなものについて、誰かに語りたい。 ライブ終わりの感動冷めきらない時や、本や漫画を読み切って余韻に浸っている時間など、「この気持ちを誰かに共有したい」と思うタイミングは、しばしば訪れるものではないでしょうか。 多くの人は、その気持ちを言葉にして発信する場として、XやインスタグラムなどのSNSを選びます。 しかし、そのような個人の「好き語り」があふれ、それに対して個人が簡単に意見を述べられるSNSの世界では、「自衛」が非常に重要であると、書籍『「好き」を言語化する技術(三宅香帆著)』で著者は語ります。 編集者として出版社に勤めながら、古典文学や漫画やゲームなど、数々の「好き」についての発信を続け、23万人のXのフォロワー数を抱えるたられば氏も、長年インターネットで発信を続けた経験から、この書籍には「SNSで好きを語る心得と極意」が詰まっていると語ります。 *** SNSを始めたころ、すくな
近年、「言語化」というワードをよく耳にするようになりました。 SNSなどで多くの人が自分の気持ちを発信する現代では、「モヤモヤした気持ちを、言葉でうまく表現できない」という悩みを持つ方も多いようです。そんな中で話題を集めているのが、三宅香帆さんの著書『「好き」を言語化する技術』。 10年前から、はてなブログ「kansou」を運営し、日々「言語化」に向き合ってきた大人気ブロガーのかんそう氏も、「好き」を言葉にすることの難しさを語っています。 月間240万PVの最高値をたたき出し、はてなブログ内で6位の登録者数を誇るかんそう氏が、同書を読んで「10年前の自分に平手打ち」をしたくなった理由とは。以下、そのワケを語っていただきました。 *** そもそも「好き」を言語化する必要があるのか。 SNSが異常発達し、毎分、いや毎秒のように赤の他人の感想が流れてくる「1億総批評家時代」「1億総発信者時代」と
「すごく感動したのに、おもしろかったしか言葉が出てこない!」 「大好きなものについて「なんで好きなの?」と聞かれると、うまく言語化できずもどかしい」 これらは誰しも一度は抱えたことのある悩みではないでしょうか。 そのような悩みをまさに言語化していると話題の書籍が、『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(三宅香帆・著)です。 『変な家』シリーズが大ヒットした作家の雨穴(うけつ)を生んだ人気WEBメディア「オモコロ」編集長の原宿さんは、大好きなハンバーガーの魅力をうまく語れない事態を憂慮して、同書に手を伸ばしたそうです。全力で言語化に向き合った結果、どんな顛末を迎えたのでしょうか――。 *** なんか、そう、なんとなくフィレオフィッシュ好きなんだけど… 昔からマクドナルドのメニューと言えばフィレオフィッシュが好きだったのだけれど、あまり人から共感
2023年に来日した韓国の尹錫悦大統領(首相官邸HPより) なぜ韓国で戒厳令? たった6時間で解除、国民からは「恥ずかしい」の声 韓国が揺れている。2024年12月3日22時25分ごろ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は1980年以来となる非常戒厳令を宣言したが、たった6時間で解除された。 宣言時のテレビ演説で、尹大統領は「北朝鮮の共産勢力の脅威から大韓民国を守るため」、「親北朝鮮の反国家勢力を根絶するため」、「自由な憲法秩序を守るため」に戒厳令を発したと述べていた。 戒厳令を宣言するほど差し迫った国家転覆の危機があるのかと思いきや、共感の声は多くなさそうだ。本来は尹大統領の味方であるはずの与党・国民の力からも激しい反発が起こり、韓東勲(ハン・ドンフン)同党代表は戒厳令を「違憲、違法」だと切り捨て、尹大統領の脱党を要求。 親北朝鮮の反国家勢力として尹大統領が非難していた野党・共に民主党は、
マクシミリアン・ロベスピエールは、ルイ16世が統治する1758年のフランスに生まれた。優れた成績で学業を修めて弁護士となった後、第三身分である平民の議員として三部会、国民議会などに加わり、民衆の支持を集めてフランス革命を先導する有力な革命家となっていく。 しかし、ルイ16世や王妃マリ=アントワネットら王族のみならず、多くの政敵を断頭台に送りその首をギロチンではねさせたことから、ロベスピエールは「恐怖政治(テロル)の元凶」とされた。 そして、ロベスピエール自身も「暴君」と他派議員らに非難され失脚し、悲惨な最期を迎えることになる。パリ市庁舎で逮捕される際には、左頬に銃弾が貫通し、顎が砕けて大量出血した。瀕死の状態のまま裁判も行われずに死刑が確定し、逮捕から即日でギロチン送りとなったのだ。断頭台では、苦痛のあまりに物凄い叫び声を上げる中、刃が首を落とした。 露悪的な政治スタイルが売りのトランプ大
性に関する議論の難しさ 性に関する議論は、真面目にやろうとしてもさまざまな困難に直面しやすい。 「いやらしい」と生理的な反発を買うこともある。本来の主旨からはずれて「いやらしい話をしたいのかな」と誤解をされることもある。キワモノ扱いされるのも珍しくない。 さらには「あなたの立場はどうなのだ」と政治的なスタンスを問われ、うかつに答えると糾弾されるリスクもある。 日本史の研究者、高木まどか氏(東京都公文書館専門員)もこうした問題に常に向き合っている一人だ。高木氏の研究テーマの一つは、江戸時代の吉原遊廓。当然、文献資料の研究がメインとなるのだが、テーマならではの苦労があるようだ。 「あなたはこういう制度を許容、肯定するのか」 ある種の人達は、現在の価値観で過去を裁こうとする。そして時に研究者に対しても何らかの潔癖性を求めるのだ。これは対象が「戦前の日本」の場合でも見られることだろう。 こうした問
移民は世界的な問題だ。世界全体の移民数は、最新の統計では2億8千万人に達する。日本は公式には移民政策を採用していない。しかしそのおかげで“事実上の移民”として論じられることが多い在留外国人は340万人を超える。2070年には日本の人口の1割が「移民」になるという推計がある。 当然、移民はさまざまな社会的、経済的な影響を移住国に与えるだろう。移民について従来の経済学の本は、だいたいは労働問題に焦点を置くものが大半だった。移民が雇用を奪うのかどうか、というのは古典的な論争点だ。本書のユニークな点は、文化の移植をテーマにしたことにある。移民は自分たちの文化を持ち込む。例えば、イタリアのスパゲッティは、移民が米国に持ち込んだ食文化だ。だがいまや米国では定番の食事になっている。ただし米国風にアレンジされてだ。文化の移植は、移民の文化と居住先の文化がおたがいに影響し合うことで、多様な姿をとる。食事だけ
小川哲さん ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』の快進撃が止まらない。NHKのニュースでも「続く酷暑」「五輪まとめ」と並んで取り上げられるなどして社会現象と化している。「同じ名前の人物が大量に登場する」「登場人物が何の前触れもなく生き返ったり、また死んだりする」などと都市伝説的に語られた作品だが、『地図と拳』で直木賞を受賞した作家・小川哲さんはこれを「ツッコミなきボケ」と表現している。書評家の長瀬海さんとの対談をお届けする。 *** 長瀬 コロンビア出身のノーベル文学賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』がこの夏、文庫化されました。小川さんが作家として強く影響を受けた作品ですよね。 小川 そうですね。でもね、よく考えてみると不思議な話なんですよ。『百年の孤独』は単行本としては書店にずっとあったわけだから。それがこんなに売れる世界が到来するとは思いませんでした。コロナ
もうかなり昔のことですが、アメリカの出版社クノップあたりが中心になって、黒人文学を大きくクローズアップした時期がある。それと並行してユダヤ系作家にも力を入れた。そのあと、次は中南米、とクノップの編集長が言っていたのが今から十何年か前。その頃からアメリカは中南米作家に注目しはじめていた。ところで、それに先行する黒人文学とユダヤ系文学のブーム、この両者のあいだには似ているようでいて本質的な違いがあった。黒人文学のほうはブームが終ったとたんにひどく影が薄くなってしまった。ところが逆にユダヤ系の文学のほうは、いまさらユダヤ系と括弧をつけるまでもない、アメリカ文学の主流の一つになってしまったわけです。すると、アメリカでの中南米文学ブームはどっちのタイプだと考えるべきだろうか。いずれにしても動機はコマーシャリズムかもしれない、アメリカの出版社は大資本ですからね。中南米文学は黒人文学のような広がりかたを
一般に中南米作家の精神の底を流れているものは、第二次大戦直前の革命と反革命という大きな揺らぎのなかをくぐり抜け、第二次大戦後になってそれを芽吹かせた歴史感覚ではないかと思う。マルケスの場合も同じです。こういう時代背景を抜きにして、単に中南米という一つの地域の文化として考えたのでは分らない。マルケスをとらえるときには、国際的な視点というものが重要なんです。それはマルケスの作品が世界中に翻訳されているとか、コロンビア大学で名誉博士になったとかいうことで国際的なんじゃない。ひとえにローカルな視点を越えたという意味で国際的なんです。『百年の孤独』という作品はとにかく驚くべき作品です。背景とか登場人物の風習、習慣、そういうものはたしかに中南米的かもしれない。日本人なんかとは違ってあくが強いし、食ってるものだって、恐らくそれ食ったら三日ぐらいは体臭が抜けないだろうというようなものばかりだ。しかしそれに
どうもマルケスから話がそれちゃったけど。つまり日本人の活字離れとか、劇画の流行というのも、日本人の左脳に負担がかかりすぎた結果じゃないかと思うんだけど。だとしたら、これは宿命だね。たしかに左脳、デジタル脳の優勢は技術的な作業なんかするのにはいいかもしれない。だから自動車作るのはうまいけど、右脳が閉塞して左脳だけになっているから、読むのは劇画だけ、小説はだめ、というふうに、まあこれは避けがたいことかもしれないね。絶望的な日本人の不幸と思ってあきらめるべきかもしれない。だとしたら日本でマルケスは売れない。カネッティも売れない。ごく少数だけが小説読んで、理解できる人は孤独に悩むしかないんじゃないか。そうしたら、ここで話していることも意味がなくなってしまう。あきらめるか、それとも多少の努力はして、脳の調整をしてみるか。作曲なんていう仕事は右脳なしにはできないらしい。日本の作曲家で国際的な高い評価を
「文庫化されると世界が滅びる」と噂され、発売後も話題騒然の『百年の孤独』。作者は魔術的リアリズムの旗手として数々の作家に多大な影響を与えたガルシア=マルケスだ。 そのマルケスと『百年の孤独』について、日本のみならず海外でも高く評価される作家・安部公房が語った貴重な談話がある。1982年、ノーベル文学賞を受賞したマルケスを、日本文学史に輝く天才作家は、どうみていたのか? 安部公房生誕100年を記念して、新潮社から8月28日に刊行される『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』に収録されたその談話「地球儀に住むガルシア・マルケス」を全文公開する。 *** マルケスについて、すでにノーベル賞を受けてしまった今となっては、あらためて僕がなにか言う必要もないような気もするけど。これまでたまっていた言いたいことを一応棚ざらいするくらいのつもりで……。ところで、どういうふうに話をもっていったらいいのかな。皆さんがマ
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