米国カリフォルニア州魚類野生生物局は、地元の牧場主たちからの切実な苦情を受け、4頭のタイリクオオカミを法律に基づいて殺処分するという異例の措置を取った。実に100年以上行われてこなかった対応だ。
同局は2025年10月初め、カリフォルニア州のシエラネバダ山脈にあるシエラバレーと呼ばれる地区で、タイリクオオカミのつがいを捕獲して安楽死させた。この地域の牧場主たちからは、多くの家畜に被害が出ていると繰り返し苦情が寄せられていた。(参考記事:「シエラネバダ山脈 火災の爪痕を記録する」)
同局によると、最終的には「ベイエム・セヨ」と呼ばれる群れの完全な駆除を目指している。カリフォルニア州には、このようなオオカミの群れが合わせて10ほど確認されている。ベイエム・セヨについて言えば、殺処分の前にすでに2頭が死んでおり、残る個体は捕獲して野生動物保護区に放す計画だ。(参考記事:「オオカミの密猟が急増、米国でいったい何が起こっているのか」)
魚類野生生物局のチャールトン・H・ボーナム局長によると、この群れはここ7カ月で少なくとも87頭のウシを殺した。これは、オオカミが200頭以上いるオレゴン州での2024年の被害を上回る数だ。
14年前には、タイリクオオカミがカリフォルニア州に戻ってきたというニュースが歓迎をもって伝えられ、現在は50頭まで増えていた。タイリクオオカミは、通常は灰色または黒の体色で、オスの体重は40キロほどになり、ヘラジカやシカといった大型の獲物を狙う。絶滅危惧種に指定されているため、州法と連邦法の両方で保護されている。
しかし、ベイエム・セヨに対しては、威嚇、ドローン、24時間パトロールなど、数カ月にわたって試した非致死的手段は効果がなく、ほかの方法はないとの判断に至った。ボーナム氏は、「たいへん残念なことですが、ベイエム・セヨの行動パターンと規模は、長期的な回復計画の支障になると考えました」と述べている。
家畜への被害は、カリフォルニア州に生息するほかのオオカミの群れでもときおり発生しているものの、ベイエム・セヨの場合、主な獲物は野生動物ではなくウシだったようだ。
米国西部にオオカミを再導入する取り組みは、1995年にワイオミング州のイエローストーン国立公園から始まって30年を迎えるが、このような行動はめったに見られないと、米カリフォルニア大学の生物学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探究者)でもあるアーサー・ミドルトン氏は言う。(参考記事:「イエローストーン 自然保護の実験場」)
氏によると、シエラ地方にはイエローストーンのような手つかずの野生環境がないことも問題の一因となっているようだ。ミドルトン氏は、カリフォルニアの10のオオカミの群れを追跡し、捕食活動を分析する「カリフォルニア・ウルフ・プロジェクト(California Wolf Project)」を率いている。







