都会で冬を越す在来種のコウモリにとって、外来種のドブネズミ(Rattus norvegicus)がどの程度危険な存在かを調べたところ、ネズミの恐るべき能力と大きな影響が明らかになった。ネズミたちは飛ぶコウモリを巧みに捕らえ、越冬場所の群れを組織的に襲っていた。論文は10月10日付けで学術誌「Global Ecology and Conservation」に発表された。
ドイツ北部の暗い洞窟の中、1匹のドブネズミが、尾でバランスを取りながら後ろ脚で立ち上がる。ネズミはふいに上に向かって手を伸ばしたかと思うと、空中を飛んでいるコウモリをわしづかみにし、その体に噛みついた。赤外線監視カメラに記録されたその映像を初めて見たときに、論文の最終著者でドイツ、ベルリン自然史博物館の行動生態・生物音響学研究室室長のミリアム・クネルンシルト氏は衝撃を受けた。
氏は最初、これは孤立した事例だろうと考えたという。ところがその後、ドイツにある別の洞窟を調査したところ、さらにゾッとするような事実を示す証拠が見つかった。
「そこでも同じような状況が見られました。ネズミたちは洞窟の出入口を巡回しており、50匹以上のコウモリの死骸を溜め込んでいる場所も見つかりました」と氏は言う。「これは単発的な問題ではないだろうと、われわれは考えました」
そこでクネルンシルト氏らは、都会で冬を越すコウモリの重要な拠点となっているこれらふたつの洞窟を再訪して研究結果を論文にまとめた。これは外来種のネズミが都会にすむコウモリにもたらす脅威が、これまで十分に認識されてこなかったことを示している。
こうした「ネズミ対コウモリの争い」を巡る最新の研究結果は、人間へ病気の感染が拡大する可能性を示唆するものだと語るのは、米コーネル大学の公衆・生態系保健学教授のレイナ・プローライト氏だ。
「ネズミを中心とするげっ歯類は、人間が手を加えたり、住み着いたりした場所で非常によく繁殖しがちです」と氏は言う。「人間が新たな環境に移り住むと、ネズミも一緒に移動し、そのネズミたちは自然界のウイルスを人間の間に持ち込む媒介宿主となる可能性があるのです」
狩るネズミ
ドブネズミは、適応力が高く、状況を見定めた行動を取る能力に優れる、世界でもっとも広く分布する侵略的捕食者の一種だ。クネルンシルト氏らが調査を行った現場では、完全な暗闇の中で、ネズミたちがさまざまな戦略を駆使して飛行中のコウモリを捕らえたり、冬眠中のコウモリを狙ったりする様子が観察された。
「ネズミは賢く、とても興味深い生き物です」と、クネルンシルト氏は言う。「わたし自身は、ネズミに対して特に嫌な感情を持っているわけではありません。ただ、数が多くなると、彼らは大きな問題をもたらすことがあるのです」
研究者の推定によると、ごく少数のネズミでも、わずか1年のうちに何千匹ものコウモリを殺せるという。コウモリたちはすでに生息地の喪失、気候変動、病気などによる圧力にさらされた状態にあり、そこにネズミによる捕食が加われば、弱い群れがとどめを刺される恐れもある。
事実、こうした事態はすでに発生している。侵略的なネズミたちは、島に生息するコウモリの種を激減させるのみならず、場合によっては絶滅に追い込んだ。ニュージーランドのオオツギホコウモリ(Mystacina robusta)も、犠牲になった種のひとつだ。1967年以降に目撃例がないこの種は、船に紛れ込んだネズミの侵入によって絶滅した可能性が高い。(参考記事:「絶滅した古代コウモリの新種発見、中新世のNZ」)
都市部のコウモリがこれと同じ運命をたどるのを防ぐために、重要な越冬地では、外来種のげっ歯類をより厳重に管理すべきと、クネルンシルト氏らは述べている。管理方法の例としては、ネズミが侵入できないゴミ容器、洞窟への侵入を防ぐ対策、ゴミのポイ捨てや都会の野生動物への餌やりを控えるよう呼びかけるキャンペーンなどが挙げられる。(参考記事:「根絶計画始動、海鳥を生きたまま食べる外来ネズミ」)
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