イタリア料理の最高峰決めるコンクール…伝統が革新に出会うカルボナーラ
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日本人シェフらがイタリア料理の腕を競う「第16回全国イタリア料理コンクール」の決勝戦がこのほど、東京都内で行われ、東京都墨田区のイタリア料理店「チエロ・エ・マーレ」のシェフ・矢口喜章さんが優勝しました。
同コンクールは、在日イタリア商工会議所の主催。参加対象者は、日本在住でイタリア以外の国籍を持ち、2年以上のプロ経験を持つシェフで、「カルボナーラ」がテーマの今回のコンクールには、約100人から応募がありました。
このうち、予選審査を勝ち残った8人が準決勝で競い、矢口さんと、東京都小平市のレストラン「イタリア料理 スカルペッタ 一橋学園」のシェフ・菊池優也さんの2人が決勝に進出。決勝戦では、60分の制限時間内に「伝統的なカルボナーラ」と「オリジナルメニュー」の2種類のカルボナーラを仕上げて、優勝を争いました。

審査基準は、「盛り付け」「味」「伝統イタリア料理の尊重」「創造性」の四つ。有名レストランのイタリア人シェフら5人の審査に加えて、決勝戦を見守った観客も試食して投票に参加しました。
審査委員長を務めたステファノ・ダル・モーロさん(東京都千代田区「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ」総料理長)によると、「伝統的なカルボナーラ」は、グアンチャーレ(塩漬けして熟成させた豚のほほ肉)、ペコリーノ・ロマーノ(羊のミルクが原料のイタリア最古と言われるチーズ)、卵黄、黒コショウの四つの食材からできており、パスタはリガトーニ(太い筒状のショートパスタ)かブカティーニ(穴のあいたロングパスタ)を使うとのこと。
くしくも決勝戦の当日、イタリアのフランチェスコ・ロッロブリージダ農業・食料主権・森林大臣が、ベルギー・ブリュッセルにある欧州議会の売店で販売されているカルボナーラソースの瓶詰めについて、「適切な素材が使われていない」と批判したとのニュースが飛び込んできました。会場でも大いに話題になりましたが、この瓶詰めソースには、グアンチャーレではなく、パンチェッタ(豚ばら肉の塩漬け)が使われていたそうです。伝統的なカルボナーラには厳格な決まりがあり、イタリアのシェフたちはその決まりをかたくなに守り続けてきたというわけです。
矢口さんと菊池さんが調理をしている間、カルボナーラにまつわる豆知識も披露されました。「カルボナーラのレシピで昔はよく使われていたのに、今ではNGとされる食材はニンニク」「カルボナーラはもともとイタリア半島を縦貫するアペニン山脈の炭焼き職人が作っていた料理と言われている」といったトピックが紹介されました。
シンプルだけど、それゆえに個性と力量が試される

1品目の「伝統的なカルボナーラ」は、具材が決まっていて工程もシンプルですが、両シェフの個性と力量が試されるものとなりました。試食したところ、菊池さんのカルボナーラは、卵黄がしっかりと主張する食感なのに対して、矢口さんのカルボナーラは、どちらかと言うとあっさりめで、グアンチャーレの香ばしさが引き立てられていました。
2品目の「オリジナルメニュー」は両シェフとも、伝統的なカルボナーラと比べて、見た目が華やかになっていました。矢口さんの「Carbonara due purte」は、ポーチドエッグ、牛肉の生ハム、黒トリュフがトッピングされたパスタがそれぞれ3点盛りのように盛り分けられていました。「まずトリュフが載ったパスタを少し食し、そのあとに牛肉の生ハムとポーチドエッグと混ぜて、お皿の上でカルボナーラを作り上げてください」と矢口さん。とても面白い発想でした。
菊池さんの「Pappardella ripiena alla carbonara(カルボナーラ風詰めパッパルデッラ)」は、トスカーナ州発祥の幅広の平打ちパスタ「パッパルデッラ」をカルボナーラに使用した意外性のある組み合わせ。ハーブなどでパスタの周囲を彩り、ローズマリーなどの香りにも魅了される、美しい盛り付けの一皿でした。

2品を作り上げた後、矢口さんは「かなりしんどかった。カルボナーラの特性上、どうしても固まってしまったりするので、その調整がかなり難しかった」と、決勝戦を振り返りました。審査員と投票する観客を合わせて70皿以上の料理を、短時間で作り上げるのに苦労したそうです。
菊池さんは「普段は病院給食で働いていて、週に1回、自分でイタリアンレストランを営業しています。このような環境で料理を作るには、まだまだ経験が足りませんが、このコンクールに参加できたのは、貴重な経験でありがたい」と感想を述べました。
審査員票と観客票を合わせた結果、わずかな差で矢口さんの優勝が決まりました。矢口さんは「今回が本コンクール初挑戦でしたが、優勝できて非常にうれしいです。私のオリジナルのカルボナーラは、誕生日やクリスマスなどの特別な機会に食べるように考えました」と話しました。
実は、矢口さんは同じ週に、ピザのコンテストにも出場しており、今回のオリジナルのカルボナーラは、たった2日間でレシピを作り上げたとのこと。また、自身の店のメニューに加えることを考えているとも明かしました。
イタリアは現在、イタリア料理を国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録することを目指しており、12月中にも結果が出る見通しです。今回のコンクールを通じて、日本でもイタリア料理がしっかりと根付き、すそ野がますます広がっていることが再認識できました。
カルボナーラは一見シンプルなパスタですが、シェフたちが「伝統を踏まえた上で創造」した結果、見た目や味わいの異なるカルボナーラが多く生み出されていることを、とても興味深く感じました。いろいろな店に足を運んで、カルボナーラを食べ比べてみてはいかがでしょうか。
(読売新聞メディア局 杉山智代乃)
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