2025-11-01

たこ焼き事件

俺はその日、昼のピークが終わって、厨房の片隅で一息ついていた。

油の匂いがまだ鼻に残っている。ポテトの音も止み、静かな時間

  

俺は休憩の前に、自分で買った6個入りのたこ焼きバックヤードの棚の上に置いた。

「あとで食べよう」と思って。

ソース青のり香りが漂って、ちょっと幸せな気分になってたんだ。

  

──が、10分後。

  

戻ってきたら、容器の中は空だった。

ソースのしみだけが、俺のたこ焼き存在証明していた。

  

最初冗談かと思った。

でも、串もない。ゴミ箱を見ても、跡形もない。

完全に食われてる。

  

厨房にいたのは3人。

  

まずは店長小林さん。

甘いものが好きで、粉もんほとんど食べない。

でも昨日、給料前で昼飯を抜いてたって言ってたな。

  

次にバイト仲間の真帆

いつも「たこ焼き大好き!」って言ってる関西出身の子

でも今日は昼休みコンビニパスタを食べてたはず。

  

そして新人の圭吾。

まだ入って一週間。仕事は遅いけど、よく厨房つまみ食いをしてる。

ソース匂い嗅ぐと腹減るんすよ」って笑ってたっけ。

  

俺はごみ箱をもう一度見た。

そのとき、紙ナプキン茶色い指の跡がついてるのを見つけた。

──ソースの色だ。

  

ナプキンそばに、圭吾のマスクが落ちていた。

たぶん、食べるとき外して、落としたんだろう。

  

「……犯人、圭吾だな」

  

そう思った瞬間、バックヤードのドアが開いて、

圭吾がポテトバスケットを持って入ってきた。

  

「先輩、たこ焼きっすか? あれ、めっちゃうまかったっす!」

  

悪びれもせず笑う圭吾を見て、

俺は言葉を失った。

  

……この職場、地味にホラーだ。

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