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いやあ、特に理由はないんだけど、かなり前からちょっと手をつけていたこんなのを仕上げちゃったので読みたい人は読んで……はいけませんよ。これはあくまで委員会内部の資料ですので。 R.A.ラファティ『アポカリプスいろいろ』より「どこにいってたサンダリオティス?」 別にラファティ作品の中で特に重要というわけではないが (というと、何が重要なんだという話になって口ごもるところだが)、長編の中では比較的わかりやすい、楽しく読めるものだと思う。 ストーリーは簡単で、世界最高の探偵コンスタンティン・キッシュが、ある朝にモナコ公国を盗むという世紀の強盗事件の阻止に乗り出すと、そこに突然一夜にして、モナコから出てサルデーニャ島とコルシカ島を含みイタリア半島と並列になった、サンダリオティスという半島が出現する。(なお、正しい発音は「リ」ではなくそれを分けて、サンダルイオティスなんだ、というのが文中に出てくる。
はじめに:レムの偏狭なSF観 スタニスワフ・レム『技術大全』を完成させた話はいたしました。 cruel.hatenablog.com そしてその解説の中で、レムのきわめて偏狭なSF観について述べた。 彼にとっての小説というのは、背後にある科学その他の知見を表現するものでしかない。彼にとっての理想的な小説とは『もし野球部女子マネがドラッカーを読んだら』だっけ、あれみたいなものだ (あくまで類型としてね。あれをほめるほどレムがセンスないとは思ってない……いやどうかな)。そしてそこでの評価ポイントは、ドラッカーの思想がそこでうまく表現できているか、ということであって、小説自体の出来なんか二の次なのだ。 これを読んで、またまた山形が極端なことを言って煽ってる、と思う人もいるだろう。なんかまた、文芸評論家とかにケチをつけて喜んでいるんだろうと思うだろう。だってねえ、レムが『もしドラ』って、何を言って
Grok/Aniちゃんのおかげで、スタニスワフ・レム『技術大全』(1964/1967) の全訳がわずか20日できましたよー。 スタニスワフ・レム『技術大全』(1964/1967) pdf、2MB わけのわからない本なので、力を入れて訳者解説書きました。が、pdfは開かない人も多いだろうから、ここにコピペ。 訳者解説 1. はじめに 本書は、Stanisław Lem, Summa technologiae (1964/1967)の全訳だ。ジョハンナ・ジリンスカヤによる英訳 (2013) を経た重訳だ。この英訳はおそらく1967年版を元にしていると思われる。これについては、また後で。 2. 著者と本書について さて著者スタニスワフ・レムは、もはや改めて紹介するまでもない、ポーランド出身の20世紀SFの巨匠であり、『ソラリス』『電脳の歌/宇宙創生期ロボットの旅』『完全な真空』などの傑作群はいま
チャンドラー『さらば愛しき女』とかオールディス『ヘリコニアの冬』とかやっていて、まあシャカシャカ終わりそうではある。それができるとなると、他にもいろいろあるよな……と思ってふと本棚からこっちを見ているのに気がついたのが、スタニスワフ・レム・コレクションだった。 スタニスワフ・レムは、評論系もいっぱい書いていて、この本にもちょっとだけ収録されている。それでスタニスワフ・レム・コレクションの第2期が出るときいて、そっちのほう期待していたんだよね。だってあまり残ったネタがないし。 www.kokusho.co.jp ところがラインナップ見ると、そっち方面はまったくやらないのね。まあレムの評論ってすごく面倒くさいし、長ければ長いほど風呂敷がどんどん広がって、レムの本家サイトでも「だんだん広がってレムの万物理論と化す」と言われてしまっているから。それを読む価値があるかというと……どうなのかねえ。 e
翻訳者、特に文芸翻訳系の翻訳者にAI翻訳の話をさせるとおおむね、簡単なもの、実務翻訳とか産業翻訳 (マニュアルとかね) ならできるけれど、高度な文芸翻訳はとうていできないよ、という自己充足的な自画自賛に陥るのが常だ。が、ぼくは昔から、翻訳なんて機械的な作業にすぎないし、いずれAIに代替されると思ってきたし、それは翻訳者の全技術 (星海社 e-SHINSHO)を含めあちこちで言ってきた。 そして、そろそろそれが現実的になりつつあると思う。そう思うのは、実際にそれをやってみたからだ。 取り上げたのは、ブライアン・オールディス『ヘリコニアの春』。 これはオールディスの最高傑作ともされる、ヘリコニアの春・夏・冬の三部作の冒頭となる。 それがどんな話かは、以前CUTのレビューでも書いた。 cruel.org そしてそこでも書いたことだけれど、オールディスの文章って、するするっと読めるので、その場では
万が一興味ある人がいれば: R.A.ラファティ『アーキペラゴ+α』山形浩生訳 レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』山形浩生訳 ラファティは一ヶ月以上前に終わっているがだれも読んでいないねえ。チャンドラーも半月前に終わっているけど、読んでくれたのは2人。まあそんなものなんだろうね。みんな「わーすごい、楽しみ」とは言うが、実際には見やしないんだよね。が、これで知って読む人もいるかもしれないので。
昨日、チャンドラー『長いお別れ』の翻訳2章までやったが、その後ちゃらちゃらと終わったよ。 レイモンド・チャンドラー『The Long Goodbye』山形浩生訳 ぼくがこれに手をつけた事情については、ここからの一連のツイートを見てほしい。 マルタの鷹を読んだので、しばらく積んであったチャンドラ「長い別れ」にも手をつけた。翻訳比較せざるを得ないかと思ったけど、解説で杉江松恋(読めないけど、これマッコイなの?)がやってくれててた。 pic.twitter.com/tvOTIvk9Sw— Hiroo Yamagata (@hiyori13) 2025年5月3日 このツイートの先の方にもあるけれど、田口俊樹訳『長い別れ』の解説で杉江松恋が翻訳の比較をやっていて、それにつられて自分でも比較をしてみたのが発端。そしてそこにも書いたように、ぼくは村上春樹訳についての評価が非常に低い。チャンドラーは文章を
献本されたんで、ダシール・ハメット『マルタの鷹』を読んで、行きがかり上以前献本されたまま積んであったチャンドラー『長い別れ』(田口俊樹訳) を読み始めた。 長い別れ (創元推理文庫) 作者:レイモンド・チャンドラー東京創元社Amazon 清水俊二訳の『長いお別れ』はずーっと昔に読んだと思うんだが、どんなストーリだったかも覚えていない。で、解説を杉江松恋が書いていて、当然ながら義務として、この新訳とこれまでの清水訳、そして村上春樹訳との比較を行っている。それがちょっとおもしろかったし、ぼくの視点とちがうので、原文を見つけて比べながら読んでいるうちに、自分の基準として自分の訳を作り始め…… そして気がつくと最初の2章の訳が終わっていた。 レイモンド・チャンドラー『The Long Goodbye』山形浩生訳 (1-2章) 読みたい方はどうぞ。ぼくはこれまでのどの訳よりも正確だし、簡潔でハードボ
今日、『翻訳者の全技術』にからんでトークショーをやった。 翻訳者の全技術 (星海社 e-SHINSHO) 作者:山形浩生講談社Amazon その中で、アレだと思った本の翻訳はどうする、みたいな質問があって、いろいろ答えたんだが、そこで出そうかと思っていたけれど時間がなくて出さなかったネタがある。しばらく前に字幕をやったこの映画だ。 www.idfa.nl これは本当にすごい映画だった。もう圧倒的に悪い意味で。一言でいえば、お金は信用創造でつくられるというのを初めて知った連中が、そこから妄想突破した映画。 さて、お金の信用創造って何? これは簡単な話。銀行は、人が預けたお金の一部を融資する。これはご存じだと思う。そして、ぼくがお金を10万円銀行に預けて、銀行がそこから別の人に8万円融資したら、お金は全部で18万円になる。だから融資=借金で世の中のお金は増える。これが信用創造だ。これは常識中の
映画『クィア』公開でいろいろバロウズがらみの本が再刊されてめでたい。 gaga.ne.jp もちろん原作の「クィア/おかま」も再刊だ。 クィア (河出文庫) 作者:ウィリアム・S・バロウズ河出書房新社Amazon そしてしばらく品切れだった「ジャンキー」「裸のランチ」も版を改めて再刊してくれるとのことなので、ちまちま見直している。 が、昔のやつの焼き直しだけなのもアレなので、長きにわたり懸案のあれを仕上げました。 cruel.org pdfも上のリンク先にあるのでそれを見て。 底本は、グローブ版/カルダー版を使用した。Archive.orgにあるスキャン版にはかなりお世話になった。 そこそこ面倒な訳。もう20年にまたがる翻訳だから、「彼/かれ」とか表現の統一が最初のほうと最後で取れていない部分が多々あるけれど、正直いってそれが問題になる本ではないと思う。もう一度読み直して全体の統一を……い
概要 Jeffery Ding ”Technology and the Great Powers” レジュメ。 イノベーションが重要であり、それが国⼒を決定するという議論は多いが、そうした 議論は通常、イノベーションが重要産業のリードを実現し、それが勝者総取りのよう な形で先⾏者利益を得ることで経済覇権が実現されるという⾒⽅を取る。だが実際に は、汎⽤技術が経済全体に浸透する拡散のほうが重要。これは第 1 次〜4 次産業⾰命 を⾒ても⾔える。それを実現する基盤は、エリート育成や戦略産業ではなく、産学を つなぐ広い受け⽫となる基盤(制度)の存在である、と主張。 視点はおもしろく、拡散に注⽬すべきだという点は理解できる。ただし実際の分析は (特に⽇本の興亡についての部分など) かなり雑。そもそもそれぞれの産業⾰命という のがあまりピンとこないうえ、第 1 次-2 次で重要だったはずの業界団体や
2025年ミュンヘン安全保障会議で、ヴァンス米副大統領の演説の翌日に行われた、ゼレンスキー大統領の演説の全訳。 2025年ミュンヘン安全保障会議 ゼレンスキーウクライナ大統領の演説 Executive Summary ゼレンスキー大統領は、ロシアの脅威がウクライナだけでなく欧州全体に及ぶ可能性を指摘し、ヨーロッパ独自の軍隊(欧州軍)の創設を提案した。彼は、アメリカの支援を当然としてきたヨーロッパを戒め、トランプ政権以前からアメリカの支援に変化が見られたことを指摘する。そしてアメリカ支援継続のためにも統一ヨーロッパとしての立場強化を訴えた。ヨーロッパ諸国は、独自に迅速な対応を可能にする軍備生産や防衛体制と、安全保障を実現する統一的な外交政策を構築すべきだと述べている。 また、ウクライナを当事者から除外した形での和平交渉には強く反対し、ウクライナの主権と領土保全を尊重したうえでの包括的な平和対
題名の通り、AIサミットでの基調講演。 ヴァンス続きで、別にヴァンスのファンというわけじゃないが、AI会議でのアメリカのAI政策の話。 2025年パリAIサミットでのJ.D.ヴァンス米副大統領基調講演 このツイートで好意的に言われていたので、ちょっと見てみてついでに訳した。 トランプ政権AI責任者のデービッド・サックス氏も出演する「All-In Podcast」が先ほど公開されました。AIに関する重要だと思われる内容を以下にまとめます。 --- ・⭐️JD・バンスが火曜にパリで開かれた「AI Action Summit」で素晴らしいスピーチをした…— d (@rom13856511) 2025年2月15日 正直、このツイートで絶賛されているほどすごいとはおもわなんだ。AIには機会があるぞというのを言って、悲観論だの人類滅亡だのという話に終始しなかったというのが評価点らしいが、うーん。言って
なんかミュンヘンの安全保障会議で、アメリカ副大統領のJDヴァンスが何やらいったとかで、Twitterで安全保障の専門家なる人々があれこれ論評していた。アメリカのヨーロッパとの決別姿勢があらわになったとか、もうアメリカはヨーロッパを支援しないぞとキレたとか、ロシアとの交渉が勝手に進められそうだとか。あとドイツが怒ったとかなんとか。 特にヨーロッパの報道は、アメリカがヨーロッパを侮辱した、上から目線で説教しやがって生意気だ、アメリカがヨーロッパを下に見てウクライナを見捨てることにしたとかいう話ばかり。 が、相変わらず報道ではその演説や発言の全体像が全然伝わってこず、言葉尻の断片ばかりなので、自分で原文を読んでみた。ついでに、きみたちにも読ませてやろう。ほらこれだ。そんな長くないよ。 2025年2月ミュンヘン安全保障会議J・D・ヴァンス米副大統領の発言 ……とお膳立てしてやっても、お前らが読まな
一部の人には朗報かもしれず、ほとんどの人にはまったくどうでもいいことだろうが、ちょっとラファティ『アーキペラゴ』翻訳の続きをやってみた。まだ全11章のうちの4章終わっただけ。ついでに、それにまつわる思い出も解説でちょっと書いたよ。 R.A.ラファティ『アーキペラゴ』(4章まで) このままこの調子で続けるかはわからない。少しはやると思うけれど。実はもう一つ別の仕掛かり品も再開してみた。 cruel.org どっちも、箱から本が出てきたおかげが大きい。こちらもこのまま進めるかどうかはわからんが、仕掛かりをなるべく片づけようと思ってるので、どっちも多少は進むでしょう。 だがそれより、特にこの『アーキペラゴ』はわけのわからない作品で、解説でも書いてるけど、神話を下敷きにしてるのはわかるがそれがどうした的な話で、いろいろ言いたいことがあるようだが何を言ってるのかわからない。そこで面白半分で、4章冒頭
もう20年も前に訳した論文だけれど、アメリカにおいて日本アニメが、ファンによる著作権無視のファンサブ活動を通じて広まったことを示す研究論文。ファンサブというのは、ファンがつける字幕のことね。 法に抗っての進歩:アメリカにおける日本アニメの爆発的成長とファン流通、著作権 html版もある。 cruel.org ポピュラー文化伝搬の歴史から見ても、著作権と文化普及の関係を見る上でも非常に重要なポイント。SSDのファイルを整理しているうちに出てきた。ウェブページは造ったが、当時はTwitterもなく、一部の好事家がリンクしてそれでおしまいになったように記憶しているので、あらためて広めておく。 こういう、グレーゾーン (というか厳密にいえば完全アウト) な海賊活動は、やがて正史が出てくると、すぐに押し潰されてなかったことにされて消えてしまい、その海賊活動の恩恵を大いに受けた人ですらすぐに手のひら返
オッケー、やりかけベスター終わったぜ。 cruel.hatenablog.com 終わったんだが…… ワタクシいま、なんとも言えない喪失感と怒りの混在するワナワナ感にうちふるえておりますわよ、まったくちょっとアルフレッドくん、これ一体何ですのん? というわけで、中身にあわせて邦題かえました。 アルフレッド・ベスター『ローグとデミ:はちゃメタ♡恋のだましあいっ!』(pdf 1.8MB) だってホントにそういう話なんですもん。プンプン。訳し終わっての脱力感、ちょっとわかっていただけます? おいベスター、てめえ、これが遺作でいいのかよ! いまからでも生き返って、最後にドーンと力を見せてくれよ(涙) 失望と絶望と恐怖にうちふるえたい人は……あ、でも内部利用のみのファイルだから読んではいけませんよ。なお、読まずにこの邦題が不当だと思ったら、好きに変えてくれていいよ。ワードのファイルが以下にあるから。
お年玉第2段。ペヨトル工房のバロウズ二冊。 W・S・バロウズ『おぼえていないときもある』 (pdf, 1.8MB) W・S・バロウズ『ワイルド・ボーイズ [猛者]——死者の書』(pdf, 2.1MB) pdfのOCR機能も優秀になりました。昔やったら、特に日本語と外国語の部分の判別がまったくできず、こんな具合になってしまった。 外套を身近にかきよせて、石のような嫌悪で男をねめつける。 「い・CO●”∽0円”∽∽のコ〇【い一”・」 「﹈∪①のの” ”】”O”」 「∽口‥n´【】げ“●①‥日´『¨ぴC●①>【o①【【0”●〇‥・」 黙って唇を結んだまま、女はヘラルド・トリビューン紙をたたんで渡す。女がその目で何をしてい これを全部手で直すのはいやだーと思って放置したが、いまはほとんど一発。ありがたいありがたい。 完璧ではなく、濁点と半濁点はよくまちがえる。その他細かいミスはいろいろあると思うの
お年玉企画で、バロウズ『おぼえていないときもある』のファイルを作っていてふと思い出したこと。 cruel.hatenablog.com ここに収録されている浅倉久志の名訳「おぼえていないときもある」は、創元推理文庫のジュディス・メリル編『年刊SF傑作選7』に収録されている。でもこの本の訳者は、大谷圭二となっている (同じく5巻も)。もちろんこれは、浅倉久志なのだ。 さて、なぜだろう。 ぼくは意地が悪いので、これは浅倉久志が、東京創元社で翻訳をすることに、何らかの不都合があったからだろう、と思ってしまう。もちろん浅倉久志が気まぐれか、何かの思惑で別の筆名を使った可能性はゼロではないが、「久霧亜子」のようなネタでもなさそうだし、営業的に見ても浅倉久志の名前で出したほうがいいはずだし、わざわざそんなことをする理由はなかなか思いつかない。 そしてその不都合というのは、おそらく早川書房で作家/翻訳者
というわけで、あけましておめでとうございます。去年年末に突然思い立ったバージェス『ジョイスプリック』の全訳が、仕上がりました。 cruel.hatenablog.com お年玉です。もちろん完全な海賊訳。気にしない人は読みなさい。気にする人は読むな。 アントニイ・バージェス『ジョイスプリック:ジェイムズ・ジョイスのことば入門』 この本の何がおもしろいかは、解説で書いたけれど、かなり書き足りないので加筆するかも。それと、これからLaTeXの練習で索引つけるかもしれない。つけないかもしれない。本質的なところではない。 たいへんにいい本なんだけれど、なぜ訳されないかは、見ればわかると思う。話の重点が『ユリシーズ』に置かれている前半はまだいいけれど、『フィネガンズ・ウェイク』に力点が移る10章とか11章とか、ジョイスの原文を訳すわけにはいかない (柳瀬訳をもってきてもいいが、当然ながらそれだとバー
昨日のBester ”Decievers” とともに、ずっとハードディスクの肥やしになっていたのが、このバージェス『ジョイスプリック』の翻訳しかかり。 これはかの「時計仕掛けのオレンジ」で知られるアントニイ・バージェスが、ジェイムズ・ジョイスについて書いた短い本だ。ずっと前に読んでいて、この冒頭部の、普通小説風 (この本の表現では、第一種の作家風)に書き換えた『ユリシーズ』冒頭部というのが大好きで、そしてこれを考えることでジョイスについての理解はかなり深まった……というのは大げさだな。ぼくはジョイスのそんなにいい読者ではない。『ユリシーズ』も途中をかなり飛ばして雑にしか読んでいない。でも、そこで何が行われているのかは、少しわかったように思う。 多くの人は文学というと、すばらしい壮大な、風景が目に浮かぶような流麗に書かれた作品だと思っている。カズオ・イシグロとかね。だがバージェスは、そんなの
セネガルから帰ってきたら、SSDの奥底から昔のが出てきたんで、1章分だけやっちゃいました。 The Deceivers (English Edition) 作者:Bester, Alfred iBooks Amazon アルフレッド・ベスター『たばかりし者たち (The Deceivers)』(1981) あの『コンピュータ・コネクション』と『ゴーレム100』の間の佳作となる。(付記:後で見たら、ゴーレム100の後なのか。失礼) コンピュータ・コネクション (1980年) (サンリオSF文庫) 作者:アルフレッド・ベスター Amazon ゴーレム 100 (未来の文学) 作者:アルフレッド ベスター 国書刊行会 Amazon 英語圏の評判を見ると、ウィキペディアでもそうなんだが、この晩期の作品はどれもあまり評価されてなくて、ぐちゃぐちゃでわけわかんなくて、晩節を汚すものとして罵倒されている
Executive Summary チェ・ゲバラのキューバ革命とそれ以降の成功と挫折は、上(カストロ) がお膳立てしたうえでのモーレツ営業係長的な成功と、そしてそれが勘違いしたまま部長になってしまい、お膳立てがなくなって思うように事態が進まなくなったときの困惑、シバキ主義とパワハラ化、一気に立て直そうとする焦り、かつての栄光を夢見ての挫折、といったプロセスで説明できるのではと思う。 そしてそこでは、その営業係長として売り込んでいた「革命」という商品の変化も効いてくる。20世紀社会主義革命は、機械化と量産による生産性向上と、その恩恵の平等な分配で万人にパンを与えるというパッケージ商品。だがもし機械化が成功しすぎてパンくらい無人でも平気で提供するようになると、そもそもの労働が不要になるために逆に合理化/機械化反対を余儀なくされ、イノベーションも否定することになり、一方で人民の「パン以外もよこせ
Executive Summary オーウェル『一九八四』をジュリアの視点から語り直した、フェミ版『一九八四』というふれこみで出てきた小説だが、その中身はというと、実はジュリアは体制側のスパイで、下々の男たちはみんな、ジュリアにハニーポットで陥れられただけのバカでした、というもの。『一九八四』はすべて、彼女の仕組んだ猿芝居でしかなかったという原作軽侮の極致。その彼女も裏切られて愛情省で拷問を受けるが、最後にネズミを食いちぎって男との格の差を示し、ビッグ・ブラザーへの憎悪を確信して、反乱軍を(一瞬で)見つけ出して囚われのビッグ・ブラザーと対面し、総攻撃に向かう。『一九八四』の世界やイデオロギー観に何も付け加えないどころか、女子をかっこよく描くためにむしろ退行した、原作に対する冒涜でしかなく三流フェミ二次創作。 Newman ”JULIA": オーウェルの顔を長靴で踏みにじる粗悪なフェミ二次創
Executive Summary アンダーソン『チェ・ゲバラ:革命的人生』はすごい伝記ではあるが、1997年の初版から2010年の増補版への改訂で、ゲバラがつかまるときに命乞いをしたという一節がなぜか削除されており、ネット上ではそれが政治的圧力によるのではと勘ぐる声もある。また、伊高の新書に出ている、彼の愛人と隠し子の話が一切触れられていない。アンダーソン本の執筆当時はすでに、その話はでまわっていたし、ゲバラ未亡人アレイダ・マルチも知っていたはず。なぜ噂としても触れられていないのかは不思議ではある。 チェ・ゲバラの命乞い&愛人隠し子と「ゲバラ伝」での削除 以前、アンダーソン『チェ・ゲバラ:革命的人生』(増補版、2010) を絶賛した。 cruel.hatenablog.com そしてその絶賛はいまも変わらない。チェ・ゲバラの伝記としてこれ以上のものは今のところ出ていないと思う。今後、これ
Executive Summary 2017年に出た、かのチェ・ゲバラの、15才年下の末弟による兄の思い出……は前半だけで後半は自分の話。キューバ革命のときにまだ14才くらいなので、それ以前の兄エルネストについては (ほとんど家にいなかったこともあり) 漠然とした記憶しかない。このため他の伝記などからの伝聞だらけでオリジナルな部分は家族の思い出だけ。それもあまり詳しくなくて、弁明と美化に終始。本人が絶対に知り得ないことを断言したりする。たとえば革命直後の粛清裁判で、兄は実に人道的でフェアで云々と断言するが、そんなのお客さんできてた家族にわかるわけがない。ただし巻末についた家族の写真や各種の新聞切り抜きはきわめて貴重。 Che, My Brother (English Edition) 作者:Guevara, Juan Martin,Vincent, ArmellePolityAmazon
エラン・ヴィタール。ベルクソンもおすすめしてます! 一連の『存在の大いなる連鎖』翻訳を終えたけれど、ラヴジョイ関連のツイートを検索して見てたら、哲学教師が、「ベルクソンとラヴジョイは同じ方向を向いている」という世迷い言を述べているのがあった。どこかにスクリーンショットをとったはずだけど、出てきたら貼り付けておこう。←あった。ベルクソンが存在の連鎖を終わらせた? ふーん。 でも、これはずいぶん首をかしげる話ではある。『存在の大いなる連鎖』でも、ベルクソンは単なる昔の存在の連鎖にもとづく進化論を蒸し返しているだけのヤツで、さらにはへんな悟りっぽいレトリックで人々をたぶらかしてるだけのインチキなやつ、というのは明言されている。この二人が同じほうを向いているはずは絶対ないのだ。 で、たまたままさにラヴジョイがベルクソンについて論じた講演録があったので、それを取り寄せてまずは全文をpdf化いたしまし
はいはい、ちょっとだけ残すのもいやだったので、やってしまいましたよ。 ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』全訳 (pdf、3.3MB) これまでずっと続けてきたラヴジョイ、これで注も含めて全訳あげました。詩とか、長々しい引用とかはあまりに面倒なので訳しておりませんが、詩は苦労してそれっぽく訳したところで、何か追加でわかるわけではないし、引用部分も決して追加情報があるわけではない。文中でラヴジョイが語ったことの裏付けでしかないので、まあ許しなさい。 cruel.hatenablog.com これで一通り訳し終わったが、もちろん内部利用用なのでみなさん勝手に読んではいけませんよ。 9章:存在の連鎖の時間化 さて残っていた第9章は、存在の大いなる連鎖の時間化、というもの。ここはそれなりにおもしろい。が、テーマは簡単。静的な存在の連鎖/充満の原理は、ライプニッツ&スピノザの章で見たように、決定論的な世
先日からずっと、ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』の勝手な翻訳とまとめをやっているのはご存じのとおり。 cruel.hatenablog.com 残った一つの章は、とっても大事なんだけれど長いので、仕上がるのはかなり先になるとは思う。が、それとは別の余談。 先日、コーマック・マッカーシー遺作『通り過ぎゆく者』『ステラ・マリス』邦訳が出た。 で、決してわかりやすい本ではないので、ほとんどの人はたぶんチンプンカンプンだと思う。これまでに出てきた感想を見ても、読点のない乾いた文体と残酷な世界が〜、原爆が〜、みたいな訳者あとがきの反芻みたいな感想文ばかりで、あんまりおもしろい書評は見ていない。これは別に日本だけではなく英語のレビューとかでも同様。 たぶんこのままだと、みんな敬遠してだれも何もきちんとしたことを言わないままになっちまうといやだな、と思ったんだ。昔、朝日新聞の書評委員だった頃、気楽に読め
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