2025-02-24

ランチバイキングの鷹

増田、またアイツ来てるよ。カオリちゃん

バイキングレストランホール仕事に就いて5年。

店には様々な客が来る。近隣のOL交際費ケチりたいママ友主婦ランチ難民と化したおっさん…。

カオリちゃんとは、過食嘔吐する客の事だ。スポーツ実業団選手レベルの量の料理テーブルに並べ、

貪り、吐き、また盛る。決まって小柄でやせ型の若い女で、バイキング店には1-2名の固定のカオリちゃんがいる。

しばらく姿を見せないと思っていたら、また来るようになったか

増田皿下げて来てよ。お前が行くと早く帰るような気がするからさ」店長が笑う。

話し声、笑い声が犇めく明るい店内の片隅に、憐れみとも畏れともつかないスタッフたちの無言が佇む。


鷹と呼ばれる背の高い中年男の常連がいた。来店は決まってポイント付与が2倍になる雨の日。

話をする事はなく、こちらがポイント付与を間違えると傘を見せ、外を指差しである事をアピールする。

前日のディナーや婚礼料理カフェタイムスイーツの残り材料の流用がスポット料理台に並ぶタイミングを狙い、

かっさらって行く為、鷹と呼ばれている。

夏の晴れた日、カオリちゃんが来た。来店の頻度が日を重ねる毎に高まってきている。

「さっき出ていた、チキン料理はいつ出るんですか?」

カオリちゃんに尋ねられる。蒸し鶏バジルソース、昨日のディナーの残り、出し切りだ。

何故この料理の後釜がひじき大豆煮物なのか。

厨房確認してまいります

仮に料理があったとして、それはトイレ藻屑になるだけじゃないか…。確認するふりだけして、カオリちゃん

品切れを伝えている横を鷹が通り過ぎる。

店長、鷹、来てますよ。雨じゃないのに、なんかあったんですかね」

「さあなあ。これから降ったりしてな」

週明け。婚礼ウエディングケーキジェノワーズの端切れがソースベリーで飾り直されて料理台に出る日だった。

何度目かのトイレから戻って席に着くカオリちゃんの前に、鷹は立っていた。

泥酔したパティシエが作ったような、溶解するサグラダファミリアを思わせるケーキを高く盛った皿を手に、鷹はカオリちゃんに語りかけた。


バイキングとは、突き詰めれば孤独を露わにし、向き合い、受け入れ、進んでいく事だ。でも進むからと言って前を向かなきゃいけない訳じゃない。

自分を責めちゃいけない。テーブルに目を落とし、ひとつひとつ、味わい歩んでいくのがいい」

鷹がテーブルサグラダファミリアを置いた瞬間、カオリちゃんは席を跳ねるように立ち上がって店から走り去った。


鷹は、神になった。

空は荒れ、豪雨となった。

鷹は、ポイントを2倍取得した。

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