2025-09-11

つの工房

ある町に二つの工房があった。

ひとつは高き塔を背に、金の札を掲げる

大きな工房

もうひとつ川辺に寄り添い、細き煙を上げる

さな工房

時代の声が流れた。

「人の手を迎えよ。

その賃は暮らしを支え、火を守るだろう」

大きな工房は頷き、

壁に新しき札を打ちつけた。

笑い声が満ち、灯は赤々と燃えた。

さな工房もまた釘を握った。

だが銀貨は浅く、

釘は震え、

薪は湿っていた。

ある者は去り、塔の影を目指した。

ある者は残り、凍えた火に掌をかざした。

やがて戸は閉ざされ、

煙は絶えた。

の子らは空を仰ぎ、囁いた。

「なぜ火は消えたのか」

その問いに答える声はなく、

ただ風が秤を揺らし、

石畳に淡い影を落とした。

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