ある町に二つの工房があった。
ひとつは高き塔を背に、金の札を掲げる
大きな工房。
もうひとつは川辺に寄り添い、細き煙を上げる
小さな工房。
時代の声が流れた。
「人の手を迎えよ。
その賃は暮らしを支え、火を守るだろう」
大きな工房は頷き、
壁に新しき札を打ちつけた。
笑い声が満ち、灯は赤々と燃えた。
小さな工房もまた釘を握った。
だが銀貨は浅く、
釘は震え、
薪は湿っていた。
ある者は去り、塔の影を目指した。
ある者は残り、凍えた火に掌をかざした。
やがて戸は閉ざされ、
煙は絶えた。
町の子らは空を仰ぎ、囁いた。
「なぜ火は消えたのか」
その問いに答える声はなく、
ただ風が秤を揺らし、
石畳に淡い影を落とした。
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