遠い星の惑星に生命が存在する可能性があるという研究論文が発表されたとき、それを伝えるメディアはどのような表現を用いてきたか。東京科学大学地球生命研究所(ELSI)が630件の文書を分析した結果、新聞には世界的に、憶測と期待を込めた楽観的な記事にする傾向があることがわかった。
地球外生命に限らず、研究者が何かしらの成果をあげると、研究論文としてそれを発表する。するとその研究者が属する研究機関はメディアに向けてプレスリリース(広報資料)を発表する。メディアはそれをもとに周辺情報や論考を加えるなどして記事を作り発表する。この記事も、まさにその流れで書いている。
ELSIの研究者シリナ・ヒーガティガーラ教授は、オランダのライデン大学と共同で、「宇宙に生命を探す構想にまつわる憶測や期待」がどのように広がっているかを知るために、1996年から2024年までに公開された、英語、ポルトガル語、スペイン語で書かれた論文188件、プレスリリース170件、新聞記事272件について分析を行った。
分析のキーワードは「推測」と「期待」。推測は「十分な情報がないまま、問いへの答えを推測する言及」、期待は「何かがうまく進展する可能性があり、人々が期待していると示す言及」とそれぞれ定義し、それらの出現頻度を分析した。つまり、どれだけ論文の内容を楽観的な方向に「盛って」いるかということだ。
すると、地球外生命の存在条件に関する推測は、論文では22.8パーセントだったが、プレスリリースは47.6パーセント、新聞記事では56.6パーセントにのぼった。また期待については、論文5.8パーセント、プレスリリース22.9パーセント、新聞記事20.5パーセントだった。とくにプレスリリースと新聞記事では、発見を「一歩前進」として位置づけることが多く、3分の1以上の新聞記事が宇宙望遠鏡などの「新しい機器がまもなく答えをもたらすだろう」と書いているとのことだ。
しかしこうした傾向は、かならずしもメディアの誇張を意味しないとELSIは話す。論文は研究成果を慎重に報告するものだが、プレスリリースは、いわばそれを宣伝し、研究費の獲得につなげようという意図があるため魅力的な見出しを付ける。メディアは、それをより「断定的で楽観的な表現」に変化させるため、こうした傾向の発端はプレスリリースにあるという。
新聞に限らずネットニュースでも、論文やプレスリリースとは商業的な意味合いが違う。記事が商売なので、どうしても人目を惹くセンセーショナルなタイトルを付けることになる。とは言えウソは書けない。「知的生命体を発見か?」あたりがギリギリの線だ。「か?」はインパクトがありながら、しっかり逃げ道のある表現なので便利なのだが、使いすぎると三文記事扱いされてしまうので、危険な表現でもあると自重して……。



